第6章 人生、いろいろ(4)
「ちなみに、あれ、私が持ってるから」
「は?」
晃がウルフと遠野を見る。
「一番、安全で信頼が置けるでしょ?」
そう言えば、遠野とウルフが頭を掻いて、苦笑した。
「まあ、俺たちはお互いに信頼できるほどじゃねぇしな」
「香織ちゃんなら持ち逃げしてもいいです」
ウルフと遠野がそれぞれ答える。
晃の眉間の皺が一段の深まった。
私はそんな晃を無視して、軽く手を振ってウルフたちのほうへ歩く。
「じゃあね~。晃。私、彼らと一緒に行くわ。あの部屋で待ち合わせね。お父様とお母様をごまかすのは晃に任せるから」
そう言い残して、あっけに取られた晃を残して、私は足早にウルフと遠野を引き連れて、ホテルの地下へ降りた。ウルフが車を用意している。
「晃、びっくりしてたな」
運転席から振り返ってウルフが言う。私は後部座席でゆったりと座りながら肩をすくめた。
「まあね。自分の思い通りに行かないのなんて、初めてじゃない?」
「そうなんですか?」
「多分? ま、いいのよ。誠意を見せてくれるなら考えるけど、『好き』の一つもない男に嫁げるもんですか」
そう言ったとたんに、遠野が助手席から振り返る。
「ぼ、僕は、か、香織ちゃんが、好きですから」
「おっと。先を越されたな。俺は愛してるぜ」
私はウルフにはアカンベをしてみせる。
「ウルフのは言葉だけで気持ちがこもっていないから嫌」
そう言い返せば、ウルフがにやりと嗤う。
「俺の本気を見せてやろうか?」
「お断りよ」
ちょっとばかり身の危険を感じて断れば、遠野が口を挟む。
「か、香織ちゃんは僕のです」
「あ~。遠野? 勝手に決めないでよ」
遠野が驚いたような顔をして私を見る。
「まだ決めてないし。それに…」
私はそこで一度言葉を止める。そして視線を逸らすように、車の天井を見た。
「恋とか…よくわかんないし。本気だったら、本気で返さないと…悪いじゃない?」
絞り出すように言えば、ウルフが笑い出した。
「嬢ちゃん、まじめだな」
思わず彼をキッと睨む。
「そうじゃなくて、当たり前のことでしょっ! よく知りもしない人を好きとかないわ」
ますます笑い出すウルフ。失礼しちゃうわ。
「じゃあ、俺にもまだチャンスはあるわけだ」
「そうね。私、あなたたちのことも、まだ知らないことだらけだし」
バタンと音がして後部座席の扉が開いた。話に夢中で、まだ車が出ていなかったんだわ。マヌケ。
ドアを開けて、入り込んできた人を見れば、晃だった。
「出せ。仁。とりあえず作戦会議だ」
「はい? 何いってんの? 晃」
晃の言葉に、私が突っ込めば、晃のニヤリとした嗤いが戻ってくる。
「金をどうするのか、お前をどうするのか。俺たち三人は色々と考えないといけないんでな」
な…。
思わず口をパクパクさせれば、ウルフが再び笑いだす。
「そうだな。ま、三人で話し合うか」
「ちょ、ちょっと」
「いいですね。男同士の話し合いです」
遠野まで言い出す。
「ちょっと~。私を無視しないでよ」
男同士、意気投合した謎の状態のまま、私たちの車は発進したのだった。
Fin.
あとがき…Life goes on.
「誘拐犯の星」にお付き合いいただきましてありがとうございました。きっと彼らはお金を山分けせずに、しばらく寝かせた上で会社を興すとか、なんかそんな感じにするんじゃないかと思います。とりあえず、彼らは幸せってことで幕となりました。
実はこの小説は私にとって、結構冒険でした。何かというと、その場で書いて長編小説にするという…多くの携帯小説の作者さんがやっている(と思われる)手法をとってみました。
普段はプロットを作って、ある程度の長さ(一章分ぐらい)を書いてみて、それを修正しながらアップするという手法をとっているのです。原稿用紙10枚程度の短編の場合は、一発書きをすることが多いのですが、これだけの長さを毎回1Pずつ一発書きした感想は、ただ一言。「苦しい」
本当に苦しかったです。こんなに大変だとは思いませんでした。その場で書き進めている作者さま、尊敬です。
こちらのサイトで小説を公開するにあたり、ページ区切りを変えたりしていますが、ほとんど最初に書いたときのままです。誤字脱字など気をつけていますが、お気づきになりましたらお知らせください。
また他の作品でお目にかかれるのを楽しみにしています。
沙羅咲 拝




