第6章 人生、いろいろ(3)
「あれは…俺の親父の仕業だ」
「はい?」
「お前を誘拐したのは俺の親父だ」
え?
「ええっ?」
私は思わず立ち上がって、まじまじと晃を見てしまった。
「えっと…晃? 本気?」
「本気。いいから座れよ」
素直に座れば、晃が言いにくそうに口を動かす。
「社長…お前の父親のおかげで、うちの会社は潰れそうになって…それで自棄になってやった。それを俺も手伝った」
「うそ…」
「今回使ったのは、そのときに用意したものばかりだ。あのときには、結局使わなかったんだけどな」
前に誘拐されたときには、私は気を失っている間に、いつの間にか家に帰っていて…ほとんど覚えていない。
「取引を持ちかけられた。社長から」
「私と結婚すること?」
「違うよ」
晃の返事にほっとする。さすがのお父様もそこまで鬼じゃなかったみたい。
「俺だよ。俺が死ぬまで社長のために働く。その代わり、親父の会社は助ける」
「晃…」
晃は視線を正面に向けたまま、苦い笑いを漏らした。
「体のいい人身売買だよ。ある意味。俺は借金の代わりに売られたんだ」
そう言って、ぐっと自分の手を晃が握りこんだ。
「それでもきちんと仕事は教えてくれたし、もしかしたら悪くない条件だったかも…としばらく働いてから思った。そのうちに秘書になって、お前の面倒をみるかって言われた」
ようやく晃の視線が私を見る。
「それぐらい信用されるほど、夜昼もなく社長のために働いたんだ。俺は」
私はため息をついた。
「それで? そのご褒美というか、賞品は私?」
「どうだろうな。一応、俺が望んだんだが」
晃が手を伸ばしてきて、私の手を掴もうとするのをペシッと払いのける。
「お断りよ。晃の働きとか頑張りとかは認めるけど、それで私を得られるなんて思ってほしくないわ」
「お前…」
晃の男にしては綺麗な眉が顰められる。
「俺がそんな理由で結婚相手を決めると思うのか?」
「さあ。どうかしら? どっちにせよ。晃の誠意が見えない限り、まるで賞品だもの。そんな結婚、私は嫌だから」
そう言って視界に入ったものに目をやれば、晃の視線も一緒に上がる。
「うふふ。お迎えが来ちゃった~」
向こうからゆっくり歩いてくるのは遠野とウルフ。
「遅いわよ。レディは待たせるもんじゃないわ」
そう言えば、ウルフが顔をしかめる。
「どの面下げて、レディだって?」
「ここ。これこれ。私。私」
遠野が吹きだす。
「香織ちゃんは…レディにはちょっと…」
「むっ。失礼ね。遠野のくせに」
「はいはい」
遠野が余裕。なんかむかつく。
晃が呆けたような顔をしていた。珍しいわよね。
「なんだよ。その想定外って面は」
ウルフが面白がって晃に言えば、とたんに我に返って、晃の眉が顰められる。
「一体…」
私はにっこりと笑ってみせた。
「だって、結婚する気、無いもの。だったら、ここでお姫様は逃げ出すべきでしょ」
「お姫様かどうかはともかくとしても、まあ、そのまんま晃に渡すっていう選択肢はねぇな」
と、ウルフ。
「香織ちゃんとはきちんと話し合いたいんです」
と、遠野。
「例の話もそのままだし?」
と私が両手で山を作って、崩すようなそぶりをすれば、晃の眉間のしわが深まる。




