第1章 出会いは突然に(3)
遠野に紙とペンを持ってこさせて、私は計画を立て始めた。自分で自分の誘拐計画立ててるって、なんか凄くない?
ついでに遠野には一万円札を二枚渡して、もっと高級なお茶と、高級なケーキを買ってこさせる。ついでに夕飯も。
「逃げたら…承知しないわよ」
そう脅せば、遠野は青ざめた顔で頷いてから、出ていった。
「うーん。いくらがいいかなぁ」
私がくるくるとペンを回しながら考えていると、後ろから声がした。
「お嬢様。その癖はみっともないので止めてくださいと申し上げたはずです」
冷たい、低い声に、思わず身体がビクリとして、恐る恐る振り返れば、眉間に皺を寄せた執事が立っていた。
「晃…」
高崎晃。長身細身のうちの執事。元はお父様の片腕。なのに私のお世話のために、今や私付きになってしまった不幸な男。お父様の片腕のままだったら、思うままに出世していただろう凄腕。それが30代そこそこで子守業なんて不幸よね。
「あんた、この家の鍵は?」
「この程度の鍵、鍵といえません」
ハンサムな顔が、にやりと嗤う。
「なんであんたがここに来たのよ」
「人のことを『あんた』と呼ぶ癖は直したほうが良いかと。『あなた』もしくは名前をお呼びください。『あきら』と」
思わず甘い低音で言われて、背筋がぞわりとする。こいつの声には昔から弱い。
「…お嬢様の彼氏の家…では無さそうですね。まずは帰りましょう」
私は思わず後ずさった。
「いやよ! 私は誘拐されたのっ! 帰らないんだからっ!」
晃の片方の眉が持ち上がる。
そのとたんにガチャリとドアノブが回る音がした。
「た、ただいま帰りました…」
か細い遠野の声がする。
「ほ、ほら。コイツに誘拐されたのよっ!」
そう言ったとたんに、遠野が両手に抱えた荷物をどさりと落とした。
「ほぉ」
晃の目が細くなり、遠野に向き直る。
「君がお嬢様を誘拐?」
晃は両手につけた白い手袋をきゅっきゅっと引っ張った。遠野は晃に睨まれて卒倒しそうなほど青ざめている。
「す、すみません。出来心でっ! しの…いえ、お嬢様には何もしてませんっ!」
「う、うそよっ! 刃物を突きつけられて殺すって」
「い、いえ。本当に、何もないんですーっ」
遠野の声の後半は、裏声になってひっくり返っていた。もう真っ青で足も目に見えるほど震えている。




