第6章 人生、いろいろ(1)
あれから何か変わったかと言えば…ほとんど何も変わってない。
私はすべてを忘れたことにして、警察でも「怖くて何も思い出せない」と言い張り、捜査を煙に巻いてしまった。
悪いことしたと思ってるわ。本当に。
そしてお父様とお母様の無関心ぶりは相変わらずだけれど、それでもあの時の必死な声は忘れない。きっと、またイザとなったら、私を守ろうと必死になってくるだろうと思っている。
「香織。せめてお前の結婚相手の顔ぐらい見なさい」
それでもお父様の結婚熱は冷めないらしい。ほら。私を何とかっていう社長の息子と結婚させるって話。
「見たら気が変わる」
お父様があまりにも言うものだから、私は仕方なくお父様が渡してきた分厚い紙を受け取った。
綺麗に刺繍された布に包まれた紙。たかが写真なのにもったいぶっているわよね。
そろそろと開けたところに貼り付けてあった男の写真に思わず目が点になる。
「何これ…どういうこと?」
お父様は悪戯がうまくいった子供のような表情をして、笑った。
「ちょっと年は離れているが、上手く行くと思うんだが」
「これ…この方も知っているのかしら…」
「そりゃあ、知っている。何年も前からの約束だからな」
ちょっと…。それって…。
私は思わず頭を抱えた。
「お父様。この写真、お借りしていい?」
「どうするつもりだ?」
「それは…。文句の一つでも言うのよ」
お父様がため息をついた。
「それはダメだ。お見合いをすることが、条件なんだから。どうしても、絶対ダメだというのなら断ってもいい」
私はお父様の顔を見つめてしまった。
「女性がそんなに男性の顔を見つめるものではないよ」
そう言われて、慌てて視線をそらせば、お父様のくすくすと笑う声が聞こえる。
「せいぜい着飾って見せてあげるといいよ」
どうやらお見合いという状態で会うのは、決定みたい。
どういうつもりよ。まったく。




