第5章 Danger zone(9)
なんて言うのかしら。ボロい別荘? ド田舎? 本当に周りに何もない。
見事に小高い丘の上の一軒屋。ここに来るまでに、人がいなくなった家がぽつりぽつりとあったから、過疎化して人がいなくなった土地なのかも…。
「とりあえず…お嬢ちゃんは縛りあげておくか」
「え? もう?」
別荘に入ったとたんにウルフに言われた。
「俺、運転手担当。でもって、こいつがお嬢ちゃんをちゃんと縛れると思えないんだけど?」
遠野を親指で示して…。確かに。
遠野が私をきちんと縛れると思えないし…。
「爆弾も設置済み。スイッチを押せば、見事にお陀仏」
そう言って、手の平に小さな黒い四角い箱を乗せて見せた。
「こいつが起爆スイッチだから。間違って押すなよ? 使い方は説明した通りだ」
遠野の手にそれが移った。遠野が神妙な顔をして受け取る。
「おい。座れ」
そう言われて、私は椅子に腰掛けた。
「ここの端、持っとけ」
ロープの端を手渡される。
問うようにウルフに視線をやれば、ニヤリと嗤われた。
「不測の事態のために、縄抜けの結び方にしとくから。最悪はお前の手の中にあるロープを引っ張れば、抜けられる」
えっ? 何それ。
「マジックショーだよ。俺、ラスベガスで手品師の助手やってたから」
「うそ」
「ウソだけどな」
思わず脱力した。
器用に手も足も縛られて…そして動けなくなったところで、ウルフが私を見下ろして嗤った。
「いいねぇ。今だったら何してもOKだな」
「え? ちょっと待ってよ」
「へへへ。そう言われて待つ男は居ないんだよ」
ウルフの唇が近づいてきて…そして数ミリのところで止まった。
そのままジワジワと唇が離れていく。
「おい。離せよ。遠野」
「離しません」
ウルフを後ろから羽交い絞めにしていたのは、遠野だった。顔が真っ赤になるぐらい力を入れてウルフを引き離していく。
「お前ね。せっかく晃が居ないのに…」
「香織ちゃんは、僕が守るんです」
「おまっ」
遠野、ナイス!
「ありがとう! 遠野!」
とたんに遠野が真っ赤になる。
「い、いえ」
ウルフがにやりと嗤った。
「何。遠野。本当はおまえも、お嬢ちゃんの唇、狙ってたんだろ」
とたんに遠野がオロオロし始める。
「い、いえ。ぼ、僕は…」
「怪しいなぁ。今なら、ほれ、やりたい放題だ」
えっ? いや、ちょっと待ってよ。
「ほらほら」
ああ。もう。私の中で何かが切れた。
「いい加減にしてよ」
思わずぎゅっと引っ張れば、解けていく紐。
「あ、あれ? …あはは。解けちゃった」
「解けちゃったじゃねぇよ」
ウルフが不機嫌そうな顔をする。
「も、元はと言えば、あんたが悪いんでしょっ! ほら。もう一回、縛りなさいよ」
私が強気に出れば、しぶしぶという風情でウルフが再び縄を巻きなおした。
「今度は解くなよ」
「今度は馬鹿なことをしないでよ」
そう言い返して、舌を大きく出して『べーっ』と言ってやれば、ウルフが呆れたようにため息をついた。
「子供か。おまえは」
「うるさいっ!」
ウルフは私に見事なアッカンベーをして、通路に消えた。子供はあんたのほうじゃないの。
「遠野」
「はい?」
「気をつけてね。死なないでね」
そう言うと、遠野が優しく微笑んだ。
「香織ちゃんをおいて、死なない」
そう言って、私に背を向ける。窓の外をカーテンの隙間から覗く遠野はきりりとしていて…。
カッコイイなんて、一瞬思った私は…気の迷いだと思う。うん。




