第5章 Danger zone(8)
そして決行の日が来た。
私は初めての場所。ウルフと遠野に連れられて、別荘へ行く。
運転席にウルフ。その隣に遠野。二人とも変装していて、遠野はそれなりに綺麗な女性になっていた。ウルフはパンク系でマッチョ系。
私は後部座席にかけてある毛布の下で横になる。なんとなくうつらうつらしながら、車の揺れに身を任せていると、ウルフの声が聞こえてきた。
「お嬢ちゃんは…寝たか?」
私は夢うつつで返事をせずにいる。
「寝たな」
そしてしばらく沈黙。車のエンジンの音と静かなラジオの音が聞こえている。
「遠野、聞いたか?」
「はい?」
「あの別荘、晃の親父のだった…って話」
え? 何? それどういうこと?
「あ、いえ。で、でも納得です」
遠野がおずおずと返事をした。
「あ、あまりにも詳しくて…たまに見せる表情が、何か…と思って…」
「まあ、そうだよな。自分が子供のころに遊びに行ってた家だもんな」
ウルフがしんみりした口調で言う。
「それを爆破するっていうんだから…どうなんだろうな」
「そうですね」
眠くて上手く考えられない…。
なんでうちの別荘が晃の父親のものだったの?
お父様は別荘を手に入れて…管理を晃に任せていたの?
ああ。もう。
「この誘拐…復讐なんてことは…」
遠野の声がした。続いてウルフが鼻で嗤う声がする。
「そりゃ、ないな。まあ、四之宮氏に対する復讐はあっても、だからってお嬢ちゃんを巻き込むような奴じゃない」
遠野がほぉっと息を吐き出した。
「良かった…」
「当たり前だ。馬鹿」
ぺしっと叩く音と、遠野の「いたい」という声が聞こえた。
「一応言っておくと、あいつは『お嬢様』が大事なの。一番だぜ。だから、いくらなんでもあの嬢ちゃんを危険にさらすようなことはしないだろうよ」
「はぁ」
「だから…俺らに牽制するんだろうが」
「牽制…ですか?」
「あ、気づいてなかった? 一生懸命、俺やお前に向かって、お嬢様を守るのはいいけど、それ以上のことはするなって牽制していただろうが」
「あ、それはお嬢様を心配して…」
「まあ、そうだろうけどよ。結局はこの女は自分のだって示したいだけだろ?」
え?
ええっ?
なんか目が覚めたんだけど。
…でも起きたら…ダメよね? タイミング悪すぎよね?
「じ、自分の女…?」
代わりに遠野が私の聞きたいことを代弁してくれた。
「どういう…」
「あ? 知らない? やべっ」
ウルフが口を噤んだ。
「ふ、二人の間は…何かあるんですか?」
遠野がさらに突っ込む。
「あ~。二人っていうか、嬢ちゃんのほうは知らないけどな。晃の側にはあるな」
「それは…どういう…」
ウルフがにやりと嗤った。そしてバックミラーの私と目が合う。
「ま、それは俺の口から言ったら殺されるだろうから、黙っておくさ」
「ウルフっ!」
急に私が大声を出したもんだから、遠野がビクリッとする。本当にコイツって小心者なんだから。
「ちょっと。気になるじゃない。どういうことなの?」
「さあね」
その後は、何を言っても無駄だった。ウルフは運転に集中しているフリをして、私を無視する。むかつくっ。
考えてみたら…私は晃のことをほとんど知らない。
お父様の秘書で…私が小さいときからお父様の傍にいて、そして私について回るようになった。私が晃のことで知ってることと言えば…。
口うるさいこと…とか?
あ、落ち込みそう。本当に何もしらない…かも?
黙りこんだウルフと私を見て、遠野がオロオロしているうちに、車は別荘についた。




