第5章 Danger zone(7)
「で、でも…お父様の傍に、こんな派手な髪の人…いなかったわよ?」
ウルフの髪を見ながら言えば、ウルフは左手で自分の前髪をいじってから、にっと嗤う。
「そりゃ、人前に立つときには、それなりに地味に変装するさ」
あ~。そう言えば、晃といい、ウルフといい、呆れるぐらい変装がうまいんだった。
「香織お嬢様の護衛にも数回、付いてるぜ? いつもの奴がいないときなんかは、学校帰りも付き合ったことあるし」
えっ。
思わず思い出そうとして…でも、ものすごい堅物そうな…なんていうか、こう、ニコリともしない奴じゃなかった? もっと肩幅が広くて、ごつくて。
「メガネかけて、下に防弾チョッキ着て。マッチョ系に見せてた」
っていうことは…あの堅物が…こいつ?
「信じられない…」
ウルフが嬉しそうに笑う。
あ、こいつ、実は八重歯だ。なんか笑うと可愛いかも。
「だろ? ま、お嬢ちゃんに簡単に見破られるようだったら、俺も焼きが回ったってところだよな」
きゅきゅっと音が出そうなくらい、手にもった布で銃を磨いてから、ウルフはヒップホルスターに銃を戻した。
そして私を見て、ちらりと下に視線を落とした瞬間にギョッとした顔になる。
「ゴキブリ!」
えっ? うそ。やっ。
いや~。あの黒いの嫌いなのっ!
ちょっと、どこ? どこよ?
慌てて飛びのこうとして、そのままウルフの身体にぶつかって、そして無我夢中で彼に抱きついてしまった。
「ほら、そこ。背中」
「いや。お願い! とって。とってよ」
ウルフの手が私の背中に回って、そしてがっちりとホールドされる。
「え? え?」
意味がわかんないんだけど。
あの黒い奴は? どこ?
「いないよ」
そうにやりと嗤うウルフの顔が近づいてくる。
こ、これは…。
さすがに遠野のことがあってから、私だって少しは成長したわけで…。
くるりとウルフの腕を取ると、そのまんま自分が後ろに倒れる体重を利用して、足で腹を蹴り上げて、ソファの上から投げ飛ばした。
そしてすかさず立ち上がって、投げ飛ばされた姿勢のままのウルフの腹に足を置く。
「あんたねぇ。人がおとなしくしていれば…」
ヒュゥ~とウルフが口笛を吹く。
「いい眺め」
あっ…。
慌てて足を下ろして、スカートを抑えるけど、遅かったみたい。
ウルフがぱっと身体を起こして、胡坐を組むと、にやりと嗤った。
「お嬢ちゃんは過激ね~」
「どっちがっ!」
立ち上がろうとするウルフに、私は後ずさると、そのまま自分の部屋の中に飛び込む。
「は、入ってきたら、承知しないんだからっ!」
そしてドアに鍵をかけて、ずるずるとドアの前で座り込んだ。
…男は狼です。
晃の言葉を思い出す。聞いたときには、なんて古臭い…と思ったんだけど。
「ああ。もうっ!」
私は頭を抱え込んだ。
その日の夜遅く、晃と遠野は帰ってきた。それまで私は部屋に閉じこもってたまま。お腹は空いたけど、ウルフがいたら食事する気になれないし…。
一部始終を私から聞いた晃は、ウルフを荷造りの紐でぐるぐる巻きにすると、猿轡をかませて空き部屋に突っ込んだ。晃を怒らせるもんじゃないわ。ホント。




