第1章 出会いは突然に(2)
遠野は私の横で正座して、じっと私の手元を見てる。出てきたお茶はまずかった。
「もっといいお茶、無いの?」
「そ、それがうちにある唯一のお茶で…」
遠野が情けない声を出した。仕方ないか。
「それで、あんた、何したいのよ」
「み、身代金を…」
まあ、そうでしょうね。
「で、いくら?」
「じゅ、十万円ほど…」
「はぁ?」
私は思わず大声を出して、お茶をこぼしそうになった。
「何、その金額」
「え? じゃ、じゃあ、5万円で…」
思わず遠野の胸倉を掴む。
「あんたねぇ、この私を捕まえて、五万円ってどういうことよ。子供の小遣いじゃないんだからっ!」
遠野が泣きそうな顔になった。
いまどきの小学生だって、お年玉の後はそのぐらいの貯金を持っている子がいると思うわ。
「私ですらポンって払える額、なんで私の身代金にするのよ!」
私に胸倉をつかまれたまま、遠野が震えながら口を開いてか細い声を出す。
「や、家賃と…学費が払えなくて…」
「何、あんた、学生?」
「は、はい…。大学で…」
こんなのが大学生なんて、世も末だわ。
思わず胸倉を力任せに突き放す。その勢いで遠野が壁際までゴロゴロと転がった。
コイツ、筋肉も無いんじゃないの?
「あんた、すっごい痩せてるけど、食事、ちゃんとしてる?」
「おととい、パンの耳を食べただけで…」
今時いるんだ。こんな奴。
「わかった!」
「は、はい?」
「私があんたを立派な誘拐犯にしてあげる!」
「ええっ?」
「大丈夫。この四之宮香織様にかかれば、あんたも誘拐犯の手本となれる。そうねぇ。なんていうか、The 誘拐犯って感じ? っていうか、誘拐犯の星よ!」
「い、いや…僕はお金がもらえれば…」
壁に寄りかかりながら、弱気になっている遠野ににじり寄る。四つんばいで歩いていくと、なんか私って、肉食獣みたいじゃない? 遠野は草食動物よね。
「いい? お金を得るためには、ここはやっぱり誘拐しなくちゃ。どーんと身代金を請求して、どーんとお金を得るの」
「い、いや、別にどーん…じゃなくていいです」
「ちょっと」
私はぺちぺちと遠野の顔を叩いた。遠野が引きつった声をあげる。
「誰に意見してるのよ。私が言ってるんだから、言う通りにしなさいっ!」
ひっ! とまた息を飲む音が遠野の口から漏れた。次の瞬間にがばりと土下座される。
「す、すみませんでした! 出来心です。許してください」
思わず遠野の前で腕組をして睨みつける。
「許すわけないでしょっ! いいから立派な誘拐犯になるっ!」
「ひ~っ」
情けない声を出す遠野の顔を上げさせると、胸倉を掴んで、鼻がつくかというぐらい近づいて睨みつける。
「いい? なれって言ってるんだから、なるの。わかった? さもないと…」
私はさっきのカッターをちらつかせる。
「分かってるわよね?」
こくんこくんと遠野の頭が壊れた人形のように動いた。
「よし! じゃあ、立派な誘拐犯になるために、まずは計画立案よ!」
私は怖がっている遠野ににっこりと微笑みを向けてみせたのだった。




