第5章 Danger zone(2)
いまだに睨みあっている晃とウルフを置いて、私は遠野と一緒に席を立とうとしたところで、晃に肩を掴まれた。
「どこへ行く気です」
「え…えっと…遠野の手伝い?」
「必要ありません。今は作戦会議中です」
「で、でも…」
ウルフが呆れたような顔をして、両手を頭の後ろに組んだ。
「これだからお嬢ちゃんは。お前さんが今回の首謀者だろうが」
「え? ええっ?」
驚きの声をあげた私に、ウルフと晃が冷たい視線を寄越す。
「当たり前です。遠野を脅したのは誰ですか?」
「えっと…私?」
「俺を脅したのは?」
「えっと…私になっちゃうのかなぁ~。あはは」
助けを求めるように晃を見れば、晃がふぅとため息を吐いた。
「私はお嬢様に泣き落とされました」
「えっ」
えっと…確かに泣いたかも…。
「あは。あはは。えっと…それで、どうするんだっけ」
仕方なく会議に戻る。
「わ、私は当然、縛られて部屋の中よね」
「そうですね」
晃がそっけなく言った。
「そして私は旦那様のお傍に居ることになります」
え? 晃はお父様についてるの? っていうことは?? 受け取りと逃走は…。
「俺かよ」
ウルフが吼える。
晃はちらりとウルフを見て、紅茶をテーブルに置いている遠野を見た。
「車の運転がうまいほうが、逃走補助。もう一方が主犯」
そう言った瞬間に、ウルフがにやりと嗤って、遠野がガチャンとお盆をテーブルに落とした。
「えっと…遠野の運転は、うまくないわよ?」
恐る恐る言えば、晃が頷いた。
「仁はA級ライセンスを持つ腕前ですから。当然、運転が仁。主犯は…」
三人の目がじーっと遠野に注がれる。
遠野の顔色が一気に悪くなった。
「む、無理です! 主犯なんて無理ですぅっ!」
裏返った声で慌てて両手を振って否定する遠野。
思わず遠野の前に、両手を組んで仁王立ちになる。
「やりなさい。私の命令よっ!」
「無理なものは無理です」
「私がフォローするからっ!」
「えっ…で、でも無理ですよ」
「お父様に電話して、脅したの、誰よ」
「あれは…勢いで…」
「あのときの格好いい遠野はどこへ行ったのっ!」
そう叫んだ瞬間に、遠野の目が見開いた。
「格好…良かったですか?」
「良かったわよ?」
「本当ですか?」
「うん」
そう答えた瞬間に、遠野が姿勢を正した。
「やります」
「え?」
「やりましょう! 主犯、やります」
えっと…。このやる気は何?
もしかして、キーワードは「格好いい」? だったりする?