第5章 Danger zone(1)
晃曰く、某所にうちが所有しているボロ別荘があるんですって。
「そこにお父様を呼び出すの?」
「そうです」
私の問いに晃が冷静に答える。
ウルフが仲間に加わってから、数日後。晃とウルフがこっそりと私たちの隠れ家を訪ねてきた。二人とも徹底した変装ぶり。
ウルフは女装してきたし、晃はデブのキモオタみたいになっていて、二人とも一瞬誰だかわからなかったわよ。
あれを見ちゃ、私と遠野の変装なんて、まだまだだと思ったわ。ホント。
「それで?」
ウルフが先を促した。
リビングのテーブルで、地図を囲んでのミーティング。
うん。なんか誘拐犯っぽいんじゃない?
私の正面にいる遠野は、なんかウルフに触らないように、体を小さくしているのが気になるんだけど。もうちょっとシャキッとすればいいのに。
私の隣は晃。斜め前がウルフという順番。
晃がトントンと地図の斜面を指差した。
「ここに防空壕がある。実はこの防空壕の先が、別荘の地下とつながっている」
えっ!
みんなの目が丸くなる。
晃が腕を組んで、ぐるりとみんなを見回した。
「お嬢様はこの別荘に監禁されていたという設定で、金はこの別荘で受け取って、お嬢様を開放する。金を受け取った人間は、そのまま防空壕へ抜けて逃走。もう一人が防空壕の出口にて車で待機。そして拾って逃げる。別荘は爆破」
「「「ばくは~っ?」」」
晃以外の三人の声がかぶった。
「証拠が残りにくいし、一緒に防空壕もつぶれて一石二鳥。まあ、調べればばれるかもしれないが」
地図を睨みつけていたウルフが顔をあげた。
「晃。お前、なんでそんな情報持ってるんだ?」
あ、私も知りたい。別荘の下に防空壕がつながっているなんて、初耳。
「あ、あの~。それ、四之宮氏がご存知だったら…計画が成り立ちませんよね…」
おずおずと遠野が口を出した。
でも言ってることは正しいわ。別荘はお父様の持ち物だもの。知っていてもおかしくない。
「どうなの? 晃」
私の問いに晃がふんと鼻で嗤った。
「四之宮氏がご存知である確率はかなり低いでしょう。入手されてから管理しているのは私ですから」
うわー。凄い自信。
「爆破って言っても、どうやって爆薬を手配するんだよ」
ウルフが口を挟んだ。
そのウルフに、晃がじっと視線をやる。
えっと…。
「もしかして…俺か?」
「ルート…持ってるだろ?」
晃の低い声。
ウルフが唸った。
「無くはない。無くはないが…。なんでお前が知っている」
「古くからの付き合いだ。俺の情報網を甘く見るなよ」
うわー。なんか晃、ウルフの前だと、凄くない?
怖いんだけど。
「お前な。俺が仲間に入らなかったら、どうする気だったんだよ」
「引き入れる気だった」
晃が肩をすくめる。
「はぁ?」
大声を出したのはウルフ。
「じゃあ、あの殺してやるだの、仲間にするかどうか…だのは、ペテンか?」
「デモンストレーションだ」
「ううう」
えっと…。どうしよう。
私、なんか口を出せない感じ?
「えっと…遠野?」
「はい?」
「お茶…入れてくれる?」
遠野がにっこりと笑った。ちょっとほっとしたような表情。
そうよね。なんかこの場、居にくいわよね。
「えっと…オレンジペコで」
「はい」
遠野がすっと立った。最近、お茶の種類を覚えてくれたのよね~。
入れ方もうまくなったし。