第4章 狼なんかこわくない(4)
「バカじゃないの。てめえら」
ウルフは呆れたように言って、しばらく考え込んだ。
そしてふっと嗤った。
「ま、いっか。晃が乗ったってことは勝算があるんだろうな」
晃の目がわずかに見開かれる。
「いいよ。乗ってやるよ。俺も。この馬鹿げた計画に」
「えっ? いいの?」
私が言えば、ウルフは縛られたままで肩をすくめた。
「そこにいる晃は、負ける勝負はしねぇ奴なんだ。昔から。ってことは、なんか考えてるんだろうよ。だから、俺はそれに乗る。お嬢様のためじゃねぇよ」
私はウルフを見て、晃を見た。
何、この男の友情ちっくな、古いドラマみたいな感じ。
…。
「晃、信用できるの?」
晃が首をかしげた。
「いえ…多分…」
「何、その歯切れの悪い言い方」
「おいっ」
ウルフが焦ったように晃に声をかける。
「はぁ」
晃が大きくため息をついた。そして私をちらりと見る。
「どっちでもいいわよ。晃が信用するなら、私も信用する」
そう伝えれば、晃はちらりとウルフを見て、私を見て、そして肩をすくめた。
「味方にしておきましょう。旦那様の手駒を一つ、こちらに取ることになりますし」
そう言って、ウルフの身体を縛り付けている紐を切り始めた。
手駒ね…。
晃にとっては、これはゲームなのかもしれないと、ぼんやりと思うの。
なんかちょっと悲しい気分になったら、ふっと左側に暖かいものを感じた。
横目で見れば、私に触れるか触れないかぐらいの位置に、遠野が立っていた。
「遠野?」
ちらりと私を見た視線は…私をいたわるように見ていて…。
なんか生意気よね。遠野の癖に。
そう思うのに、そばにいる遠野の体温に安心しているのも確かで。
私は遠野を振り払いもせず、そのままにする。
なんか…私、遠野に負けてない?
もやもやした気持ちのまま、とりあえず拳銃の撃鉄をおろして、セーフティをかけた。
「それで? この後、どうすんの。お嬢ちゃん」
ウルフが床に胡坐をかいて座り込む。
私はにっこり笑ってみせた。
「そりゃ、フェーズ2に進むまでよ!」
とたんに晃が片方の眉を上げる。
「どこまでがフェーズ1で、どこからがフェーズ2か、私ですら知らないのですが…お嬢様。ご説明頂けますか?」
うるさいなぁ。
気分で言ったのに。台無し。
触れるぐらいの距離にいる遠野が、笑いをこらえて揺れるのを感じる。
何、この人たち。
もういやっ。