表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誘拐犯の星  作者: 沙羅咲
15/31

第4章 狼なんかこわくない(3)

 自称ウルフがため息をついた。


「晃の様子がおかしかった」


 晃の片眉がすっと上がる。


「大事なお嬢様が誘拐されたっていうのに、狼狽した」


「狼狽ぐらいするんじゃないの?」


 そう私が言えば、自称ウルフが片頬だけで嗤う。


「こいつ、窮地に落ちいれば落ちいるほど冷静になる奴だぜ? そんな可愛い狼狽なんてするかよ」


 思わず私が目を見開けば、自称ウルフがさらに続ける。


「大事な大事なお嬢様を誘拐されて、狼狽なんてレベルで済むのはおかしいと思った」


「仁。俺の失態はわかった。それ以上口を開くな」


 低い、低い、晃の声。


 うわー。一人称で『俺』なんていうの、初めて聞いちゃった。


 思わず晃を見れば、顔が能面みたいになっていて…こ、怖い。


 怒るのも怖いけど、感情が出ないっていうのも怖いわ。


 えっと…見なかったことにしよう。うん。


「それで晃の後をつけてきたって感じ?」


「そんなとこ」


 はぁ、思わずため息をついて、でも晃は怖いから見られなくて…。


 うーん。どうしよう…。


 考え込んだら、自称ウルフが口を開いた。


「次は俺の番。一体どうしてお嬢様が、誘拐されたふりなんかしてるわけ?」


 縛られたまま、床から視線が見上げてくる。


「えっと…」


 口ごもれば、さらに追加で声が来る。


「ことと次第によっては、味方してやってもいい」


「ほんとっ?」


 思わず答えてしまえば、視界の隅で晃が顔をしかめた。


「えっと…自称ウルフ…さんは…信用できる?」


 自称ウルフってなんだよ、という奴のツッコミはスルーして晃に訊けば、晃がため息をついた。


「まあ、それなりに」


「それなりって?」


「金次第ですね。こいつは」


「俺は金の亡者かっ!」


「じゃあ、お金ナシでも味方してくれる?」


「うっ」


 詰まった自称ウルフに視線をやれば、ちょっと赤くなってそっぽを向いた。



「別にいいの。邪魔しないでくれたら。お金は…わたしが払える分は、できるだけ払うから、邪魔しないで」


「何したいんだよ。お前」


 自称ウルフの視線が私に戻る。


「心配かけたい」


「はぁ?」


 ボソリと呟いた私の声に、自称ウルフ…ああ、めんどくさい。ウルフの妙にひっくり返った声が被さった。


 ああ。もう。


「だから…」


 思わずウルフに近寄って、自分の気持ちをぶつければ、耳元で怒鳴られた。


「バカかっ! おめえは」


「だって…」


「親だろ。心配するだろ」


「してないもん。電話しても冷静だったもんっ!」


 泣きそうな気持ちで、でも涙を堪えてそう返せば、ウルフが静かになった。


「…そう言えば…冷静だったな。四之宮氏」


 ほら。ほら。


「はぁ」


 大きなウルフのため息。そして呆れたように晃と遠野に視線を向けた。


「それで、このお嬢様にほだされて、二人とも計画に乗っちゃった訳だ」


 晃は肩をすくめて見せて、遠野は返事をせずに視線を落とした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ