第4章 狼なんかこわくない(1)
茶髪に金色のメッシュを入れたライオンのたてがみみたいな髪をした男が、銃を構えてこっちを見ていた。
「仁」
晃の呟きを無視して、その男が私に手招きをする。
「お嬢様、早くこっちへ」
私はちらりと晃を見て、そして一気にその男に走った。
「こ、こわかったです~」
そう泣きそうな声で言えば、遠野は固まり、その男は片頬で嗤った。
「もう大丈夫です。俺が来れば、こいつらなんかすぐですよ」
私はその男の斜め後ろ、男の死角に入り込み…そして晃と視線を交わす。
うん。そうよね~。やれってことよね~。
晃の視線をそう読んで、銃を見ると撃鉄は起きてない。よし。
せーの。
自分でカウントをとって、男の銃を持つ手に向かって、足を振り上げた。
「ぐわっ!」
銃が吹っ飛ぶ。ついでにそのまま回し蹴りをかます。
「ぶひっ!」
落ちた銃は晃の手に渡り、ついでになぜか遠野が壁際で頭を抱えて震えていた。
蹴られたのはあんたじゃないって言うのっ!
「形成逆転ね!」
そう私が勝ち誇ったように言えば、晃が遠野に言う。
「遠野、ロープ」
「ろ、ロープなんてありません…」
もう、機転が利かないんだから。
「いいわよ。ロープじゃなくても。荷造り用のビニール紐があったでしょ。あれとガムテープ。すぐに持ってきて」
「はいぃっ」
遠野が声を裏返しにしながら、慌てて隣の部屋へと走っていく。
「晃、その男だれ? 知り合い?」
私が訊けば、晃は銃の撃鉄を起こしながら答えた。
「大神仁。私立探偵みたいなもんですよ」
この男より、撃鉄を起こしてすぐに撃てるように構えている時点で、晃のほうがえげつないわよね。
「なんで銃なんか持ってるの? こいつ」
「さあ。違法の流通品じゃないですか?」
「お、お前ら…ぐるだったのか…」
床に座り込んだまま、大神が苦しそうに声を出す。
「ねえ、晃。ぐるって何?」
「まあ、協力関係にあるっていうことですね」
あ、そういうこと。思わず私は高笑いをして見せた。
「おほほ~。敵を欺くにはまず味方からよ~」
「別に私は欺かれていません。欺かれたのは仁だけです」
冷静な晃のツッコミ。
「うるさいわねっ。遠野は騙されたわよ」
「私と遠野を一緒にしないでください」
も~。せっかくの高笑いが無駄になっちゃったじゃない。
「と、とにかく。飛んで火にいるつの牛よっ!」
晃が眉を顰めた。
「お嬢様。それは、『飛んで火にいる、夏の虫』です。つの牛ではございません」
え? 違うの? 牛だって思ってたのに。牛が火に入ってステーキになるんだな~って理解してたのにっ!
ちらりと晃を見ると、冷ややかな目をしていた。まずい。間違ってたみたい。
「え、えっと。知ってるわよ。ちょっと面白く言ってみただけじゃないっ!」
晃がため息をついた。
「この場で漫才をやる気はございません」
「わ、わかってるわよっ! 余裕を見せただけよっ!」
そう言ったところで、ドタドタと足音がして、遠野が荷造り用の青いビニール紐と、ガムテープを持ってきた。
「よしっ! 遠野、縛って!」
「えっ!」
とたんに遠野がオロオロとし始めた。
「ぼ、僕…人を縛ったことなんて、ありません…」
私だって無いわよ。
思わずむりやり縛らせようとしたら、晃が口を出した。
「私が縛ります。お嬢様、銃をお願いします」
ま、その方がいいわね。
さっと銃を受け取って構えた。