第3章 私たち女の子?(2)
帰ってきて…部屋に戻っても遠野は私の傍にいた。ただ傍にいたなら普通だけど、何かと世話をしようとする。
「お、お茶、入れましょう」
「いいわよ。座ってて」
「えっと…じゃあ、ご飯」
「いい。お腹空いてない。っていうか早すぎ」
気を使ってくれるのはいいけど…。
下手っていうか、なんていうか。どうしたらいいの? これ。
「すみません…」
しょんぼりと遠野が呟いた。
「僕…妹とか、お姉さんとかいないし…女の子と付き合ったこともなくて…どうしたらいいかわからなくて」
私が座ってるソファの隣の床で正座して、背中を丸めて俯いている。
まったく…。
「別にもう落ち込んでなんかいないわよ。お茶入れて。ミルクティ」
ぱっと遠野の顔が上がった。
「べ、別にあんたのためじゃないわよ。いきなり飲みたくなったのよ」
「はいっ」
遠野がすくっと立ち上がった。
「アールグレイ…あ、やっぱりレディグレイにして」
有名メーカーの銘柄を指定する。普通のアールグレイにちょっと香りが足されていて、最近のお気に入り。ミルクティにしても美味しい。
「今日はお砂糖入れちゃう。二つね。ミルク、ちゃんと温めてから入れてよね。紅茶より先にカップに入れてよ」
「はいっ」
遠野がヤカンに水を入れて、火にかける音が聞こえてくる。
「ついでにあんたの分も入れなさいよ」
「は、はい?」
「たまにはお茶に付き合いなさい」
「は…はい」
もう。とって食いやしないのに、何、この反応。
「晃がチョコレートの詰め合わせを置いていったでしょ。持ってきなさいよ」
そういうと、棚の中をごそごそとかき混ぜる音がした。
「ん、おいしい」
チョコレートはベルギー製のちょっと苦いのが好き。不思議とチョコレートもお国柄が出ると思うのよね。フランスチョコはちょっとお澄ましな感じ。アメリカはしっかり砂糖で甘い。っていうか、私からしたら甘すぎ。日本のは優しくて…でもちょっとお子様っぽい。ベルギーはカカオの味がしっかりしてちょっと大人な感じ。幸せな気分になる。
「こ、これ…」
遠野がチョコレートを前にして固まった。
「何?」
「超高いチョコレートじゃないですか。一粒で牛丼一杯が食べられます」
高い…かな。
「ま、そうかもね」
ぽいっと口に入れれば、遠野が「ひっ」と声を出した。
「食べ物なんて、食べるためにあるの。食べなさいよ」
「い、いや…。もったいなくて…」
私は一粒掴むと、そのまま遠野の口にもって行った。
「ほら。口開けて」
「えっ」
「いいから開ける」
思わず遠野の上に馬乗りになる。遠野が観念したように目をつぶって口を開けた。その口の中にチョコレートを放り込んで…指ごと食べられた。
「おいしい…」
「ちょ、ちょっと。遠野」
慌てて指を抜いて、思わず赤くなった。ちょっと…遠野の上に馬乗りになって口に指を突っ込んでるなんて…。
ち、違うのよ。
あまりに遠野が食べないからいけないんだからねっ!
慌てて遠野の上から下りて、頭をはたく。
「いたっ」
「と、遠野が自分で食べないからいけないんだからねっ!」
「は、はい…」
「も、もうあげないっ!」
「えっ…美味しかったのに」
「ふん。遠野なんて、紅茶だけ飲んでればいいのよ」
ちらりとチョコを見て、私を見てしょんぼりする遠野。
「初めて食べました。違うチョコレートみたいですね」
呟きがなんか力なくて…。思わず言ってしまった。
「た、食べたかったら、自分で取りなさいよ」
「はい」
笑みを含んだ声が返ってくる。なんか、妙に余裕があるじゃない。遠野の癖に…。
ぱくんと食べられた指先を私は無意識に自分の唇に持っていっていた。