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誘拐犯の星  作者: 沙羅咲
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第1章 出会いは突然に(1)

※念のため…このストーリーは当然ながらフィクションです。設定もあちこち架空です。犯罪を推奨するものではありません。

 高校帰りにいつものお店に寄って、いつものようにブラブラとチープなアクセサリーを見る。そしてまた車に戻って屋敷に帰る。


 十年ぐらい前…つまり小学生のときに誘拐されかけて以来のがっちりな日程。友達と遊びに行くなんて夢のまた夢。せめて…とばかりに、数日に一回だけ、お気に入りのこのお店に立ち寄らせてもらってる。


 お嬢様って大変なのよ。


 ところが、いつもの退屈な生活のはずが、この日は違った。


「し、四之宮、か、香織だな」


 低く押し殺した声と、背中に当たる硬い感触。


 私のファン? 


 自分で言うのもなんだけど、長い髪にぱっちりした目、清楚な雰囲気で、ファンになる人多いんだよね。学校では大人しく見せてるし。


 でもそうじゃなかったみたい。


「こ、声を出すな。大人しくしないと殺すぞ」


 そう言われて、私は頷いた。


「よ、よし。う、裏口に移動しろ」


 ゆっくりとお店の裏口に向かって歩く途中で、腕時計に仕込んだ小型発信機のスイッチを入れようとして、ふと気付く。


 なに、この男、手が震えてるじゃん。


 大人しく言うことを聞くふりをして、顔を固定したまま店のあちこちにある鏡で後ろを見れば、メガネをかけた、ひょろっとした若い男が、マスクをして私の後ろにいる。


 …。なんか、一撃で倒せそうなんだけど。


 自慢じゃないけど、四之宮家のお嬢様として護身術程度は習っているわけで。こんな震えた手の男、一瞬だったりする。


「ド、ドアを出ろ」


 そう言われて、裏口のドアを開けて外に出れば、そこにあったのは自転車だった。


「はぁ?」


 思わず声を出すと、男がぐいっと硬いものを背中に当てる。


「いいか、後ろに乗れ」


 男はどうやら自転車で私を誘拐するつもりらしい。あまりの馬鹿馬鹿しさに一瞬、背中を向けて帰りたくなったけど、その考えを途中でひっくり返す。


 だって私が居なくなったら、きっとお父様もお母様も心配してくれる…はず。あまりに娘に無関心な親を、少しばかり驚かせてもいいわよね。うん。


 黙って自転車の荷台に座って、誘拐犯の男の腰に手を回せば、二人乗りの自転車は街の中を走り出した。




 着いたところは安アパート。命じられるままに、陽が当たらない一番端の部屋のドアに入る。


「暗い、狭い、汚い」


 ボソリと呟けば、男が振り返った。


「し、静かにしてろ」


 なんか手が震えてるんだけど。しかもカッターだし。1cmも出していないカッターじゃ、人なんか殺せないわよ。


「とりあえず、お茶」


 男を無視して、比較的綺麗そうなところに座る。


「は?」


「いいからっ! お茶。持ってきなさいよ!」


 そう怒鳴れば、男が慌てて台所に走った。そしてヤカンを火にかける音がする。人質に命じられて、お茶入れてる誘拐犯ってどうなのよ?


 はぁ。


「あんた、名前は?」


「はい?」


 私はすくっと立つと台所に行き、戸棚からお茶葉と急須、湯のみを出している誘拐犯の後ろで、腰に手を当てて睨みつけた。


「さっさと答えるっ! あんたの名前っ!」


 そう一喝すれば、ビクリと男の身体が震えて、しおしおとした声が聞こえてくる。


「と、とおの…ただし…」


「字は?」


「遠くの野原に、正しい…」


 そう答えてから、名前を言ってしまったことに気付いたらしい。慌てて辺りを見回し始めた視線を見て、私はニヤリと笑った。


「これ、探してるんなら、無駄」


 手の中でカッターをくるくると回して見せる。


「あんたに人なんか殺せないわよ」


 私はそう言った瞬間に、遠野の顔を脇の壁にカッターを突き立てた。ひっ! と息を飲む音がして、遠野の顔が引きつる。


 悪いけど、護身術でナイフも扱ったりするわけで。よっぽどあんたより、私のほうがナイフを使うの、うまいと思うの。


「私の言うことを聞かないと、あんた、酷い目にあうわよ。わかった?」


 こくんこくんと遠野が頷く。


「じゃ、まずはお茶」


「はいーっ!」


 私がすっとカッターを壁から抜けば、みょうに甲高い声の返事が来た。よしよし。


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