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つまらない世界なら、やめてしまえばいい。

完全初心者なので、感想、指摘、アドバイス、どんな内容でもありがたいですのでお願いします。

「人生は小説より奇なり」と聞いたことある。どこかの国の詩人だった気がするが、俺は未だその意味を図りかねていた。果たしてその詩人がどのような生涯を送ったのかは知らないが、なぜそんなことが言えたのだろう。せめて1つ、俺が言い切れることがある。

美少女転校生は幼馴染みじゃない。女の子は降ってこない。左手の魔力は未だねむっている。そんな人生は小説よりよっぽど、



退屈だ。


★ ★


「謎だ…」

俺はスマホの画面を見つめながら呟く。

夕方のカフェの店内は落ち着いた内装で俺の心を安らげてくれる。しかし頭の中は以前モヤモヤしていた。

先日《小説家になる第一歩!》と銘打っている投稿サイトに緊張しながらもユーザー登録(メアドを入力するものはどうしても敬遠してしまう。理由はスマホを所持し始めた15才の誕生日から少しした頃、イケないサイトで見事に情報をすっぱぬかれ、迷惑メールが四六時中送られ続けたというトラウマである。どうでもいい)したものの、そこで特大のカルチャーショックを受けたわけである。

「ファンタジー多すぎだって…」

ランキングの上位がファンタスティック過ぎると思う。

そこから鑑みるにファンタジーの需要が高いことは一目瞭然、読者のニーズに合わせて供給すべきなのだが、そこには大きな壁があった。

…ファンタジーってどうかくの?

原稿用紙を前に筆が止まる。俺はファンタジーをかけないのだ。なんせ読んだこともない。

いや、チャレンジしたことはある。つい先日、この事実に気づきファンタジーの勉強しようと超大御所ファンタジー小説を購入したのだが、いざ読んでみればいかんせん頭が混乱する。

これでは、なにもできそうにない。


そんな感じのことをぐるぐると考え続けていた。

テーブルの上には甘くしたコーヒー。あとシオンと名前しか書けなかった原稿用紙だけ。本名の詩音(うたね)の読み方をもじっただけの安易なものだった。女子のようで昔から嫌なのだ。伸長もそこまで延びなかったし。髪も長いお陰で学校ではオカマだの女装癖だのネクラぼっちだのあることないこと…いや、最後のは否定できないな。というか高校入って一年間ろくに人と会話してないしな。

いかん。混疲れてきた。糖分を欲してコーヒーに手をのばす。

いつも何かを考えるときにはこのカフェに来るのだが、この度はなにも進展が得られないまま。考え過ぎて疲れた。案ずることはあとにして、今は甘くしたコーヒーに舌鼓するとしよう。

冬の気候に合わせて暖房の効いた室内。照明は暗め、落ち着いた雰囲気。しかし、今日は一段とけたたましい話し声が聞こえた。俺の後ろの席で話してるようだ。大切な一人の時間を邪魔しないでほしい頭がものだ。学校でも基本一人なんだけどさ。つまりエブリディ大切。

「…つまりね。こんなシナリオじゃダメなのよ。わかるかしら?あなただって漫画家の端くれなのよ。このくらいもわからないようじゃだめねぇ」

「…はう」

つい後ろから聞こえた声が耳にはいる。漫画家なのだろうか。打ち合わせって言うやつか。

「こーんなんだれだってかけるわぁ。もっと精進することね。あ! 私は超大人気先生の打ち合わせに行ってくるわね。超 大 人 気。あなたなんかに割く時間はないのよ。精々頑張りなさい」

つい漫画家というので、その会話を盗み聞きしてしまった。まぁ、会話というよりも一方的に説教してるだけに近かったが。

後ろの一人が席を立つおとがきこえた。…出口に歩いていく後ろ姿見えたけど、身長と肩幅、スカートからのぞくヒラメ筋…さっきの口調に似合わぬ声の低さ、性別が特定できん。

そういえば編集さんと思われる人が出ていったから漫画家の方はまだ俺の背面の席にいるのだろうか。物珍しい気がして振り返りたくなるが、他人は他人なのでそのままにした。

「…グズッ」

物音が聞こえた。

「…ウッ、ウグッ」

ってもしかして後ろの人泣いてないか!? え!

振り返ってみると、そこには一人で嗚咽を漏らすメガネで太めの男がいた。…てかこいつ、本当に泣いてるよおい。

思えば、とっさに振り返ったのが悪かった。その男は俺に気づき、涙やらでぐちゃっとした顔をあげた。バッチリ目が合ってしまう。

「…あ。みっともないところ、申し訳ないでござる…」

「あ、いや。大丈夫か?」

声をかけられ、咄嗟に返事をしてしまう。このまま無視して帰るのも考えたが、さすがに可哀想だ。

「と、とりあえず顔拭けよ。ほら」

「…すみまぜんでござる」

多目にペーパーナフキンをつかみ受け渡す。そいつはそれで顔を荒々しく擦った。とりあえずこいつの語尾についてはスルー。

「えっと、漫画家なんだよな。打ち合わせだったのか?」

つい好奇心で声をかけると、返事の声はやっと落ち着いてきていた。

「うむ。一度、目をつけてもらえたのだが、それからはこんなざまで候う」

「へぇ、大変なんだな」

それにしてもいい大人が泣きじゃくるのは、見てて気持ちよくはないが、これが社会でもあるのだ。…大人になりたくないなぁ。

「大変も大変…すべては担当が悪いんでござる! あの女が!」

「おいまて担当のせいにするのは一番情けないぞ。そしてあれ多分女じゃない」

でも、確かにあの気の強そうな担当がついたら色々と大変そうだと思う。

「でも! 初めての持ち込みでは『なかなかいいわ!』とかいっておきながら最近ではいくら持っていっても否定しかしなくなったでござるよ!」

なんかいきなり元気になり出したよこいつ。すごい五月蝿いし汗かくな。

「まぁ、それも担当としてだろ」

「…拙者の漫画は、通用しないって…」

漫画というのは、狭き門だと聞いたな。バクマンでもよんだ。

「難しいんだってな。あ、それが原稿か? よんでいいのか?」

俺はテーブルの端に寄せられている紙の束を指差す。

「あ、もうこんなもの好きにするでござる…出来たら意見なんかくれてもよいんでござるよ?」

なんでこういうやつらは見られたくなさそうにしながらも見られたがるんだろう。

束を手繰り寄せページをめくってみる。…ペンネームが『とびきり☆パイン』って。こいつの呼び方はパインでいいや。

1ページ目に目を通す。あ、これすごいファンタジーなやつだ。


『なに! 我が暗黒正拳(ダークネスチェイサー)がきかないだと!!』

『フッ! 俺にはスキルを無効化するスキルがあるんだ!』


「…お前みたいなやつはさ、スキル封じのスキル大好きだよな」

「そうなんでござるよ! 一番主人公っぽいでそうろう!」

「多分、コピー能力とかも入ってるだろ」

「な! なんで、わかったんでござるか!?さてはお主、読心のスキルを!」

俺はスキルなんてもってるわけはないが、皆、無効化とコピー大好きだよな。その辺の推測である。あと、俺は読心よりは独身だろうな。

「それにしても、在り来たりなファンタジーだな。これ」

「…それはあの女にも言われたでござる」

やはりか。そのくらいコッテコテのファンタジーだった。

「でも。すごいよな。漫画描けるなんて」

「お、おふ?いやぁそんことないでこざるよ!」

確かに見ていてこんな作者同様に脂ぎっているファンタジーはつまらないのだろう。それにさほど誉めてもない。

しかし俺にはこれが書けないのだから。

自分ができないものを、他人に口出しする権利なんてない。その点。ある意味こいつを尊敬していた。

「むっふん!」

いやこんな奇声発して鼻高々にしてるキモいやつやっぱ尊敬したくはないなぁ。胸はるなワイシャツがはち切れそうだぞ。

「あ、おい。お前ジュースこぼしてるぞ」

「ぬん? あうちっ!」

パインの肘がコップにぶつかったらしい。中身が半分もなくてよかったが、オレンジジュースは今なおテーブルを侵食している。

「布巾とってくるわ。待ってろ」

パインはあたふたしてるので俺が立ち上がる。ほんと俺主夫力がある気がする。

しめった布巾を掴みテーブルに戻る。パインが動かないので手際よくジュースを拭く。

「なんか、お主はおかんのようでござるな」

否定はしないが、お前が息子なのはやだな。いや、息子というかむしろ将来の自分にみえるんだよね。面倒見てしまう理由がこれか。

そして、パインはなにか紙の束を持っていた。

「パイン。それなんだ?」

「パインって拙者のことか! あ、これはお主のか?」

テーブルを拭き終わってパインをみる。って、それは!俺が気晴らしにと好き勝手書いていた小説じゃないか!

「おいパイン。人の原稿勝手にみんなよ」

「いやはやお主も表現者でござるかシオン殿! お主も拙者の作品をを見たのだ。我が見ても構わなかろう」

いや、表現者志望な訳だが。まぁでもなんか…この恥ずかしいけど見てほしい感覚! これが作家病か!

パインは原稿用紙をかなり速いスピードで読んでいく。速読とか天才とオタクの為せる技である。

と、感心していたら、そのペースは徐々に落ちていった。最後のページにたどり着くと、原稿用紙を置いて放心していた。なんだろ、すごくこいつのテンション低い。

「…読んだことはないんでござるが、世界四大悲劇って、こんな感じなんでござろうな」

「そーなのさ! てか読んでないのシェイクスピア!? ほんとワクワクするのに!」

「あんなの陰湿ドロドロで登場人物が大半死ぬってことしかしらんでござる!」

「確かにあれは少し陰湿だ。だがそこがいい!」

「少しでござるか!? 読者に笑顔を届けるのが表現者ではないのか!」

「は! それは現代の衰弱した若者の為の低俗な風習に過ぎんわ! 悲劇こそが人類の文化だ!」

「人類の文化は裏切りと欺瞞のみではなかろう! 格好いい正義に憧れんのでござるか!」

「憧れて!それは自分自身の慰めだろう!主人公に自分を投影して優越感に浸るだけだ!現実から逃げんな!」

「逃げではない!!皆の…我らの夢でござる!!」

「夢? 妄想と言え!そんな夢なんて意味がない!」

「拙者の夢を否定するな!!」

パインの声が一段と店内に響く。俺はその声に気圧されて黙ってしまった。

「拙者の夢を…これ以上否定しないでほしいでござる」

弱々しく、絞り出したような言葉だった。パインはまるで自身にも語っているように。

否定される辛さは知っている。だから、俺は小説家になりたいと言う夢を隠している。

やめとけ。地味。夢見すぎ。キモいとか、そんなこと、何度も言われた。だから諦めたふりをして、気が変わったと言い張って、周りの人間取り払って、一人でここにいるんだ。

こいつだって、漫画家になりたいと言う夢を掲げてきた。漫画に描いた世界もこいつの夢。それを両方否定されて、一人でここにいた。

これを、夢が叶わなければ負け組と言うのだろうか。それなら、この世界は理不尽だろう。

「夢か…」

誰に向けた訳でもなく呟く。こいつは俺と同じ。夢の潰れた現実に、惨めな感情を抱えているのだ。

パインはシャツの裾を握りしめて嗚咽を堪えていた。その目は涙を溢さないようにと強く閉じられている。

お互いに、夢も希望もファンタジーもない、つまらない世界に、絶望しているのだ。

『なら、本物のファンタジーを見せてあげるよ』

背筋に悪寒が走った。背後から声が聞こえた気がして振り向く。しかしそこには誰もいないーー。

その瞬間、不意に視界が暗転した。蛍光灯が消えたらしい。停電だろうか。窓のない室内では完全に前が、どころか前後ろもわからないほどに見えない。

「ブフォ! ビックリでござる! 困ったでござる!」

相変わらずパインはうるさかった。なんか暗闇からこいつの声が聞こえるの腹立つ。耳障り。

「パイン、静かにして待ってろ。危ない。そしてウザい」

「わかったでござるってシオン殿!?ウザいとは!」

目障りじゃないだけいいかと思ったが暗闇からこいつの声が聞こえるとむしろ恐怖だな。暗闇でキモオタと二人とか死ねる。

すると、靴になにかが染み込んでくるのが感じた。どこかの拍子にコーヒーをこぼしてしまったらしい。

「シオン殿!シオン殿!前が見えないでそうろう!」

「あーもぅ! うるさいなおい!座ってろ!」

「怖いでござる!助けてでって滑るでござっ!」

「うるさって…うわっ!」

なにか重量のあるものが頭にぶつかり、そのまま床に倒れこむ。あまりの衝撃の強さに、俺の意識は遠退いていった。




『いやはや、かなり大雑把な仕打ちをして悪かったよ。登場人物の自己紹介は終わらせられたが、プロローグにしてはいささか長いかと思ってね。少し力ずくでも切り上げたんだよ』

「…お前はなにいってるんだよ」

『はは。確かに今の君には何をいっているかわからないかもしれないね。詩音(うたね)君。まぁ、それはこちらの話。文字通り、異次元。三 次 元 側 の話なんだよ』

「あっちもこっちもワケわからん。異次元とか、なにいってるんだ?」

『君たちは物語の登場人物というわけさ。だから君たちに紹介をしていただいたんだよ。まだわかんないだろうけど』

「へぇ。…それなら、お前だって登場人物なんじゃねえの? 自己紹介しないのかよ」

『あはは。冷静で状況に準じた発言。ノリがいいね。因みに僕はこの物語には登場しないから。なんせ僕は作者なんだから』

「意味わかんねえな。説明しろよ、なにが物語なんだ。…そういえばここはどこなんだ」

『いずれ自分で気づいてくれ。その辺は長くなるので割愛だ。じゃあ任せたよ。主人公君』

「てか、おまえは誰ーー」


★ ★


心地よい風の薫りが鼻をくすねた。風に靡く草が首をくすぐる。むずがゆくて起き上がる。

長い間寝ていたのか。気持ちよく目覚めた。気分が軽い。なんだか頭のなかがスッキリと整理されたみたいだ。眠るというのは気持ちいいものだったのだな。疲れのとれた体。目もパッチりとして。青い空に草の香り。


…草?


目を覚ましたそこは、だだっ広い草むらだった。

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