世界で一番のプレゼント(ヤミヤ版)
君の体温が手の平から伝わってくる。
段々と冷たくなっていく君の体温が伝わってくる。
私は泣くことができない。
だって、君はまだ生きているから。
後数分かもしれないけど、まだ君は生きているから。
その事が、私の心を縛って泣くことができない。
本当君は酷いやつだ。
こんな時でも私の心を掴んで離さないんだから。
いつもそうだった。
初めて会った時から、君の言葉一つで一喜一憂して、私は振り回されてばかり。
君はいつもしてやったりな顔をして、でもどこか憎めなくてずっと一緒にいる。
余命を告げられた時だって、人口呼吸器につながって延命するのを拒んだ時だって、私は君に振り回されてばかり。
本当君は酷いやつだ。
こんなにも私の心を掻き乱して。
こんなにも多くの事を私の心に残して、勝手に一人で逝こうとしている。
本当はね。
本当は、私は君に生きてほしかったんだよ。
人口呼吸器をつけても生きていてほしかったんだよ。
でも、君が決めたのなら、君が一所懸命考えた末の結果なら、受け止めようとしたんだよ。
それなのに、君はまるで全てを分かっていたかのように、「おまえならそういうと思ってた」って、いつものように笑って言った。
私が震える声で「そっか」っていったのにだよ。
酷いよ。あんまりだよ。
いつも全部を分かったような顔をして、そして、勝手に逝くなんてあんまりだよ。
それに、最後の言葉がばーかって何さ。
最後の力を振り絞って震える手で頭を撫でないでよ。
してやったりな顔をして満足そうに笑わないでよ。
もっと他に言う言葉なんていくらでもあるじゃないか。
なんでよりにもよってその言葉なのさ。
これじゃ忘れられない。
忘れようとしたのに。
君との約束を果たそうと心に決めたのに。
……でもね。
ばーかっていわれたからには頑張るよ。
頑張って幸せになるから。
約束通り、幸せになって、君の事も含めて幸せになるから。
だから、安心して、安心して逝っていいんだよ。
私は大丈夫だから。
そんなに心配しなくてもいいから。
私は君に強さをもらったから。
君を忘れなくても私は生きていけるから。
ゆっくり休んで。
そして君が休むのに暇になった頃に、会いにいくから。
君が嫉妬するくらい幸せな思い出を引っ提げて会いにいくから。
ふふふ、今から楽しみだよ。
君が地団太を踏んで悔しがる姿を見るのが楽しみだよ。
今度は私がからかってあげるから。
先に一人で逝ったことを後悔させてあげるから。
だから、お別れは言わないよ。
また、会えるんだから、お別れは言わないよ。
でも、これだけは言わせて。
私と出会ってくれて、私と一緒にいてくれてありがとう。
何よりもそのことが、私にとって最高のプレゼントでした。
ありがとう。またね。