表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

世界で一番のプレゼント(ヤミヤ版)

作者: ヤミヤ

 君の体温が手の平から伝わってくる。

 段々と冷たくなっていく君の体温が伝わってくる。


 私は泣くことができない。

 だって、君はまだ生きているから。

 後数分かもしれないけど、まだ君は生きているから。

 その事が、私の心を縛って泣くことができない。

 

 本当君は酷いやつだ。

 こんな時でも私の心を掴んで離さないんだから。


 いつもそうだった。

 初めて会った時から、君の言葉一つで一喜一憂して、私は振り回されてばかり。

 君はいつもしてやったりな顔をして、でもどこか憎めなくてずっと一緒にいる。

  

 余命を告げられた時だって、人口呼吸器につながって延命するのを拒んだ時だって、私は君に振り回されてばかり。

 

 本当君は酷いやつだ。

 こんなにも私の心を掻き乱して。

 こんなにも多くの事を私の心に残して、勝手に一人で逝こうとしている。


 本当はね。

 本当は、私は君に生きてほしかったんだよ。

 人口呼吸器をつけても生きていてほしかったんだよ。

 でも、君が決めたのなら、君が一所懸命考えた末の結果なら、受け止めようとしたんだよ。

 それなのに、君はまるで全てを分かっていたかのように、「おまえならそういうと思ってた」って、いつものように笑って言った。

 私が震える声で「そっか」っていったのにだよ。


 酷いよ。あんまりだよ。

 いつも全部を分かったような顔をして、そして、勝手に逝くなんてあんまりだよ。

 

 それに、最後の言葉がばーかって何さ。

 最後の力を振り絞って震える手で頭を撫でないでよ。

 してやったりな顔をして満足そうに笑わないでよ。

 もっと他に言う言葉なんていくらでもあるじゃないか。

 なんでよりにもよってその言葉なのさ。

 

 これじゃ忘れられない。

 忘れようとしたのに。

 君との約束を果たそうと心に決めたのに。


 ……でもね。

 ばーかっていわれたからには頑張るよ。

 頑張って幸せになるから。

 約束通り、幸せになって、君の事も含めて幸せになるから。

 

 だから、安心して、安心して逝っていいんだよ。

 私は大丈夫だから。

 そんなに心配しなくてもいいから。

 私は君に強さをもらったから。

 君を忘れなくても私は生きていけるから。

 

 ゆっくり休んで。

 そして君が休むのに暇になった頃に、会いにいくから。

 君が嫉妬するくらい幸せな思い出を引っ提げて会いにいくから。


 ふふふ、今から楽しみだよ。

 君が地団太を踏んで悔しがる姿を見るのが楽しみだよ。

 今度は私がからかってあげるから。

 先に一人で逝ったことを後悔させてあげるから。


 だから、お別れは言わないよ。

 また、会えるんだから、お別れは言わないよ。

 でも、これだけは言わせて。


 私と出会ってくれて、私と一緒にいてくれてありがとう。

 何よりもそのことが、私にとって最高のプレゼントでした。

 ありがとう。またね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ネガティブな思いをポジティブに持っていくのがいかに難しいか。この作品を読んで改めて考えました。
[一言] 「出逢いが最高のプレゼント」 あ、これ、私のやつと同じテーマだ(笑)
[一言] 別れの心情が切々とストレートに伝わってきて切なくなりました。 私もこの歳になるまで、沢山の別れを経験しましたが、恋人や身内との別れは格別です。 残される者は辛いですね。強がり混じりにそう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ