24日目。太陽の本心
歌劇の最後に、俺は歌うことになった。
マリの作詞した皮肉たっぷりの歌で、太陽王を挑発するためだ。
もちろん、このことは王も承知である。
というより、王からの提案で、俺は彼を怒らせるような歌を歌うことになったのだ。
王は、それを笑顔で堪えることによって、民衆に度量を示したかった。
というわけで。
俺は、みすぼらしい衣装を身にまとい、イジワルな感じで歌いはじめた。
♪下品な女の叫びをバックミュージックに
俺は、今から数十年前に生まれた
王国がまだ橋の向こうにあった頃
それは、おまえも同じだったはずだ
ところが今じゃ、俺はこの一枚の金貨が全財産
おまえはダイヤモンドと極上のワイン、財宝にまみれてる
どこで差が付いたんだろうな、俺とおまえは何が違うんだろうな
まあ、でも、ヨロシクやってるようで、なによりだよ
望んだものは、なんでも手に入る。いいご身分だな
そう歌って俺はマントから、手品のように黄金剣を出した。
この黄金剣は、太陽王ドライのトレードマーク。
公正な裁きの象徴である。
俺は間奏のあいだ、この黄金剣をぷらぷら振りまわした。
アダマヒアの観客は、真っ青な顔をしていた。
この歌詞が、太陽王に当てこすったものであると、ハッキリ分かったからだ。
しかし太陽王は、わずかに眉をぴくりとさせただけで、すぐに笑った。
もっとやれと、逆に俺を挑発するように、大きな拍手を送った。
その太陽王の笑みに、観客は安堵した。
俺は、本心とは真逆にふるまう彼に、若干、苛立ちを覚えた。
そして苛立ちながらも歌を続けた。
♪地べたを這いまわり、嫌なヤツらに頭を下げながら
ずっとギリギリで生きている俺は
王国あげてのお祭り、今日の歌劇が楽しみだった
それは、おまえも同じだったはずだ
ところが、俺にとって晴れの舞台
一世一代、一生に一度の今日のお祭りが
おまえにとっては、いくつもの "お楽しみ" のうちのひとつ
どうせ今日のことなんか、すぐに忘れちまうんだろう
まあ、でも、ゴキゲンなようで、なによりだよ
望んだものは、もう、すべて手に入れたかい?
と、ここまで歌いきったとき。
太陽王ドライが、やはり眉をぴくりとさせた。
そしてすぐに、それを隠すように大らかに笑った。
俺は、どの部分に腹を立てているんだろう――と首をかしげつつ、黄金剣を放り投げた。
パチンと指を鳴らして、その剣を金貨に創り替えた。
降りそそぐ金貨に観客はわいた。
それと同時に俺はサビを歌った。コーラス隊は俺に続いた。
小僧、ヨロシクやってるようだな
♪Get along, get along Kid GoldenEdge
ゴキゲンだな、黄金剣を持つ小僧
♪Get along Kid with the GoldenSword
クーラは英語部分、コーラスパートを見事に歌い上げた。
その横では、フィーアがハラハラしながら歌っていた。
俺はマントをひるがえしては、太陽王のコスプレ姿になったり、みすぼらしい男になったりしていた。
その手品――実は神の力だ――に観客たちは見惚れ、しばし言葉を失っていた。
そして。
太陽王は、怒りを抑えつけたものすごい笑みで俺を見ていた。
これはマズイんじゃないか?
そう思って俺は、王国の道化師を見た。
すると道化師はゆっくり頷いた。
そのまま挑発しろというわけだ。
だから、俺は皮肉たっぷりに歌を続けた。
まあ、正直に言うと。
あの理性のかたまり、あの太陽王を怒らせてみたい――といったイタズラ心もすこしある。
♪王国には立派な広場ができた、豪華な施設も建った
それらは全部、おまえのオカゲなんだってな
王国には太陽が輝いて、民衆の笑顔があふれてる
なんでも望み通りだな、この世の春を謳歌しているな
小僧、世界の頂点に立った気分はどうだい?
♪Get along, get along Kid GoldenEdge
望んだものは、すべて手に入れたかい?
♪Get along Kid with the GoldenSword
俺は歌いながら、フィーアの手を引いた。
ステージの中央に引っぱり出して、一緒に歌おうとしたわけだ。
しかしフィーアは俺にもたれかかり、ふわっと頭を俺の胸に寄せるだけで、歌おうとはしなかった。
ちらちらと俺を視ては、視線があうと照れくさそうに笑い、観客のほうを向くだけだった。
まいったな。
俺は苦笑いをした。
フィーアの格好良く上を向いた張りのあるお尻、その上にある、くびれに手をまわした。
「あんっ」
フィーアが甘ったるい声をあげた。
俺は動揺しつつも、真っ正面を見た。
これで曲を終わらせようと、大きく息を吸った。
そして最後のパートを歌った。
♪俺はこの一枚の金貨が全財産
おまえは財宝にまみれてる
今日は、俺にとって一生の思い出
おまえにとっては、いくつもの "お楽しみ" のうちのひとつ
どうせ今日のことなんか、すぐに忘れちまうんだろ?
そう歌って、俺はフィーアを抱きかかえた。
今日の思い出に、この娘はもらっていくぜ――と高らかに宣言した。
そして、フィーアをお姫さまダッコしたまま退場しようとしたのだ。
が。
このとき、太陽王ドライの顔色がさっと変わった。
まさに憤怒の炎。
太陽王は顔を真っ赤にして、鋭い眼光で俺をにらみつけていた。
うわっ。
これはシャレにならないんじゃないか。
そう思って、助けを求めるべく道化師を見たら、
ドンッ!
と激しい音がした。
太陽王が黄金剣を投げつけた音だった。
「いけませんっ」
と道化師が慌てて俺のジャケットの裾を引いた。
俺は頷き、ステージから去ろうとした。
しかし、このことが太陽王を余計に怒らせることになった。
俺がフィーアを抱いたまま逃げようとしたからだ。
「貴様ァ!」
太陽王が激怒し、ステージに向かってきた。
その腰には、側近の者たちがしがみついている。
懸命に王を引き留めようとしているのだが、しかし、その王は、あのアインの息子である。そう。かつては騎士団に属し、鉄板のような巨大剣を片手で自在に操ったという、あのアイン。太陽王には、彼の血が流れているのだ。
「貴様ァ! 待たんかァ!!」
太陽王は、まるでアメフト選手のように側近らを引きずった。
ステージに突進した。
というか俺のところに向かってきた。
「って、マズイ」
しばし喪心していた俺は、再び逃げようとした。
するとそこに、
ビュッ!
と、殺意に満ちた矢が飛んできた。
太陽王が騎士から弓を奪ったのだ。
「貴様ァ! 絶対に許さんぞォ!!」
そう叫んで太陽王は、もう一本矢を放った。
ステージはパニックとなった。
バックコーラスは悲鳴を上げて逃げ出した。
緑の道化師は、はしゃいでそこらじゅうを走りまわった。
俺は、まるで蛇にでも睨まれたように、その場に立ちすくんでしまった。
そして――。
太陽王の突進は、ついにステージに到達した。
その腰には、ぼろぼろになった側近がしがみついていた。
そのまわりには、うろたえた騎士たちがいた。
観客は、この騒ぎがお芝居ではないことに、ようやく気がついた。
しかし、あまりのことに、息を呑んでただ見守ることしかできずにいた。
「誰が貴様にィ!! 貴様のような奴にィ!!!」
声を荒げる太陽王を、ようやく騎士たちがおさえた。
それと同時に、王の使いが俺の手を引いた。
「ひとまず逃げてください」
そう言って、王の使いは控え室を指さした。
俺は抱きかかえていたフィーアを下ろした。
するとフィーアは、まっすぐに俺を見て言った。
「わたしはっ、わたしはごめんなさい……」
愛くるしいくちびるがゆがみ、声と息がかすかにふるえていた。
俺は精一杯の笑みで頷いた。
フィーアは微笑みを返してくれた。
そしてフィーアはクーラを見て、ゆっくり頷いた。
俺はクーラの手をとり、道化師に導かれるまま退場した。
その背中に、太陽王ドライの怒声が浴びせられた。
「誰が貴様のような奴にィ!! 娘をやるかァ!!!」
しまった。
王が国民の前で、フィーアを娘だと認めてしまった。
これでアダマヒアは終わりだ――と、俺は思ったのだけれども。
しかし。
この太陽王の心からの叫びは、観客の心に強く響いた。
娘を想う父親の気持ちに、アダマヒアの民は共感した。
「もう誰にも娘を渡さんぞォ!」
一心不乱。すべてをかなぐり捨てて叫ぶ王を、国民はあたたかな目で見ていた。
――・――・――・――・――・――・――
■神となって2ヶ月と24日目の創作活動■
太陽王ドライが民衆の前で、初めて本心をあらわにした。
……この夜、ドライは王を辞めた。しかし、すべての王族・側近・修道士・騎士、そして民衆からの嘆願状によって彼は再び王となった。ちなみに、ザヴィレッジの英雄(俺)は、この日からアダマヒア王国に出入り禁止となった。




