表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/128

16日目。貴種流離譚

 今日は、みんなにリビングに集まってもらった。

 テレビにアダマヒアを映し、俺はまず言った。


「簡単に現状を確認しようか」



挿絵(By みてみん)



「現在、アダマヒア王国は橋の守備を固めている。穂村とザヴィレッジも同様に守備を固めてる。ちなみに、ザヴィレッジからは王国と穂村に避難する者がでていたが、この避難は先日で完了したようだ」


「あの幌馬車(ほろばしゃ)ですね」

 クーラが青髪を耳にかけながら言った。

 俺は頷いた。

「そう。俺とミカンが地上界に降りたときの、あの幌馬車だ。助かったんだってね?」

「ええ。騎士が救出に向かったのです」

「良かった」

「はい」

 俺たちは、満ち足りた笑みをした。



「それで各都市は守備を固めつつも、今まで通りの生活をしている。これはなぜかというと、マリのやりたいことがよく分からないからだ」

 と、俺は言った。

 するとミカンが、

「放っておけよ」

 と、ぶっきらぼうに言った。


「マリのことは放っておけ。あいつはカミサマの顔を視た。だからもう、前世の記憶を取り戻したとか、忘れたままだとか、そういったのは関係ねえ」

 と、ミカンは自信満々に言った。

 俺たちが首をかしげると、ミカンはこう続けた。


「あいつは、カミサマの顔を視たからな。またカミサマに()れるよ。そうなれば前世のマリと同じだろ」

「はァ」


「マリはカミサマに惚れている。マリはモンスターのボスをやっていて、カミサマは、ここであたしたちと世界を創造している。だから放っておいていい」

「ちょっと待てよ。途中までは分かったが、最後にものすごく話が飛躍したぞ」


「うっせえ。マリは性格はひん曲がってるけど、悪いヤツじゃねえ。放っておいても問題ねえよ」

「性格はひん曲がってるのに、放っておくのかよ」


「ああン、めんどくせえなあ? マリはカミサマにかまって欲しいんだよ。だから色々と頭のおかしなことをやってるけれど、それだけなんだよ」

「だからって放っておくのか?」


「だーかーらー! 誰も死んでねえだろうがッ!!」

 と、ミカンは苛々して言った。

「あいつはカミサマに見捨てられないよう、ギリギリのところを攻めている。だからマリは大量殺戮(さつりく)なんかしねえし、カミサマがキレるようなこともしねえ」

 だから放っておけ――と、ミカンは言った。

 俺とクーラが、思わず詰め寄ると、


「追いかけても喜ぶだけだ」

 と、ミカンは呆れて言った。

「それに追いかけても捕まンねえだろ、あのアホは」

「……ええ」



「あと、緑のオアシスは占拠されたけどさ、あれも問題ねえだろ?」

「それはっ」

「ザヴィレッジに攻めてくるわけでもねえだろ?」

「今のところは」

「じゃあ問題ねえ」

 と、ミカンは言った。

 俺が口を尖らせると、あごを上げてガラ悪く詰め寄ってきた。

 つんつんと、おっぱいを下からこすり当てるように寄ってきたのだ。


「ああン?」

 などとチンピラのような声をあげ、まるでキスをねだるように顔を近づけてくる。

「……って」

 おまえは昭和のヤンキーかよ。

 バイクで事故って不運とダンスっちまうのかよ。

 そんなフレーズが頭をよぎってしまった。

 失笑したら、かるくくちびるがふれた。


「なっ!?」

 ミカンは、ばっと上体をそらした。

 そのネコのようなつり目にじんわりと涙を浮かべ、顔を真っ赤にした。

 涙目で俺を睨んだのだ。

 で。

 そのまま睨まれていると、ミカンは照れくさそうに顔をそらし、ぼそりと、

「許す……」

 と言った。

「あっ、ああ」

 と俺は、わけが分からないながらも、とにかく頷いた。

 すると、クーラたちがくすりと笑った。

 俺もつられて笑うと、ミカンはじんわり照れくさそうに笑った。

 そして穏やかな空気のなか。

 ワイズリエルは、やがて、


「マリさまを放っておくことに、私は賛成ですッ☆」

 と言った。

 それからつけ加えた。

「というより、他に優先することがあるのですッ☆」





「他に優先すること?」

「はいッ☆」

 俺たちがいっせいに座り直すと、ワイズリエルはバチッとウインクをキメた。


「マリさまのほかにも、ご主人さまの『(よめ)』がいたのですッ☆」

「あー」

 またその失礼かつ余計な設定か。

 俺は、うなだれながらも諦めて訊いた。

「今度はどんな娘?」

 するとワイズリエルは、たしなめるような目をして言った。



「太陽の歌姫という、ザヴィレッジからの難民ですッ☆」

「その娘が?」


「フィーアといいますッ☆」

「で、前世の記憶とかいうのは思い出してるの?」



「思い出してませんッ☆」

「ハッキリ言うんだな」

 と俺は、素朴な疑問を口にした。

 ワイズリエルは即答した。


「ご主人さまッ☆ フィーアさまは以前、ご主人さまを視ていますッ☆ いえ、ご主人さまだけでなく、クーラさまとミカンさまも視ているのですッ☆」

「はァ」


「それなのにフィーアさまは、皆さまのことをいつまでも、はじめて視たようなそんな目で視ていましたッ☆」

「だからっ」

「っていうか、いつの話だよ」

 ミカンが噛みつくように言った。

 ワイズリエルは応えた。


「ちょうど10日前ッ☆ みなさまが、ザヴィレッジのギルドに行ったときですッ☆」

「ああ、あのモンスターを倒した日か」

「村に名前をつけた日ですね」

「宿で祝杯を挙げた日か」

 俺たちがいっせいに言うと、ワイズリエルは頭を下げた。


「そのときには気付かなかったのですが、あの場にフィーアさまが居たのですッ☆ 彼女のことを、あとで調べてから気付いたのですッ☆」

「いや、謝ることないよ」

 と、俺は笑って言った。

 するとミカンが、

「っつーか、ワイズリエル?」

 と言った。

 首をかしげて、そして訊いた。


「今、あんた、『あとで調べた』って言ったか?」

「はいッ☆」

「なぜ調べた?」

「そのことなのですがッ☆」

 と前置きして、ワイズリエルはゆっくり言った。




「フィーアさまは『太陽の歌姫』……大人気の吟遊詩人ですッ☆ 先日の幌馬車で王国に避難してきたのですが、それはさておき、もともと彼女は王国に暮らしていたのですッ☆」

「じゃあ、Uターンしたわけだ」


「今から十数年前ッ☆ フィーアさまは、母親に連れられてザヴィレッジに移り住みましたッ☆ 彼女の父親のことを調べる者が出てきたからですッ☆」

「ん?」


「太陽の歌姫――と、フィーアさまは呼ばれていますッ☆」

 と言って、ワイズリエルはテレビに美少女を映した。


「この娘はッ!?」

「フィーアさまですッ☆」


「じゃなくてッ!」

 と、ミカンが叫ぶと、

「『(よめ)』仲間ですッ☆」

 と、ワイズリエルが応えた。


「そんなっ!? ……フィーア、あなた!?」

 クーラが涙声で呟いた。

 するとワイズリエルが、

「フィーアさまはクーラさまと同じゲームのヒロインッ☆ 大親友でしたねッ☆」

 と、しんみり言った。

 で。

 そこら辺のことがよく分からない俺は。

 そこら辺のことからは目を背けたい俺としては。

 このフィーアという美少女を視て、違った意味で驚いた。



「太陽の歌姫フィーアって、太陽王ドライにそっくりじゃねえか」



 この言葉に、クーラとミカンは絶句した。

 ワイズリエルは、陰鬱(いんうつ)な面持ちで頷いた。


「ご主人さまッ☆ よくよく見れば、ドライ王とフィーアさまの顔は、まったく似ていませんッ☆ ですが、フィーアさまの舞台を観た人々は、ご主人さまと同じように、ふたりがそっくりだと思うのですッ☆」

「それはっ」


「それはドライ王とフィーアさまのもつオーラッ☆ ふたりのもつ、アイドルオーラとも言うべきカリスマ性、人を()きつけるオーラがよく似ているからですッ☆」

「たしかに……」

 俺たちはそう呟いて、テレビに映るフィーアの、まるで太陽のような笑顔をしばらく視たままでいた。



――・――・――・――・――・――・――

■神となって2ヶ月と16日目の創作活動■


 太陽の歌姫フィーアを知った。



 ……ワイズリエルたちは、彼女のことをまた俺の嫁 (ゲームキャラ)だと言うけれど、それはともかくとして、リボンのよく似合う、すこしタヌキっぽい美少女だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ