15日目。聖地
話の時点は、いったん二日前にさかのぼる。
マリが緑のオアシスに皇女旗を立てたとき。
俺とミカンが、マリを捕らえるため、地上界に向かったときのことである。――
緑のオアシスの南、その上空に俺とミカンは露われた。
それと同時に、地上から無数のボルトが飛んできた。
見下ろすとそこにはクロスボウを持ったモンスターの群れ。
俺はボルトをかわしながら、モンスターの足もとに竹を生やした。
モンスターが居た場所が竹林となる。
その竹が赤黒く血に染まっている。
「相変わらずエグイなあ」
ミカンが朗らかに言った。
俺は苦笑いで着地する。
そこに竹林の周囲からモンスターが押し寄せる。
俺は、ミカンが飛びだすのを抑え、そして指を鳴らした。
バババンッ!
竹が一気に弾け飛ぶ。
モンスターはそれに貫かれ、断末魔の叫びすらあげずに倒れた。
「さっさと終わらせるぞ」
俺は前方をぬぐうように手を振った。
それで、竹とモンスターの残骸はすべて吹き飛んだ。
ミカンが飛び出す。
俺は抜き身の日本刀をだらりと下げ、その横を走る。
緑のオアシスに駆けつける。
あと少しで黒い霧となる。
そこまでのモンスターは一掃したが、しかし、そこからは『神の力』が使えない。
あの黒い霧のなかでは、俺はただの人間となってしまう。
『神の力』で創った強力なアイテムを装備した、ただの人間になってしまうのだ。
と。
すこし感傷にひたりつつ覚悟を決めていたら、ミカンが大らかに笑って言った。
「あんた、まるでヤクザ者だな」
「はァ?」
「スーツにロングコート、日本刀。まるでヤーコーじゃん」
「いやっ」
「しかもその日本刀、なんか短いし。長ドスみたいだし」
「だって、こうしたほうが扱いやすいんだよ」
それにアダマヒアっぽい服とか、よく分からないし、動きやすくて中世ヨーロッパっぽい服をイメージしたら、こうなってしまったのだ。
さすがにジャージというわけにはいかないだろう。
「あんた。神のクセに、なんかガラ悪いのな」
ミカンが満面の笑みで言った。
おまえに言われたくない――と言おうとしたら、ミカンの悪魔的なおっぱいがぷるんとゆれた。
着物からこぼれそうになった。
思わず視線をそらすと、そこには、むちっとした太もも。
ミニスカ着物のスソから伸びた、網タイツで窮屈そうにしているミカンの太ももがそこにはあった。
まったく。
エロい身体しやがってと、俺は息を漏らすように失笑した。
そしてそのとき、ふと、気がついた。
「ヤクザ者ねえ……」
俺はそう呟いて、ふところに剣と魔法のファンタジーに相応しくないブツを創った。
ちょっとインチキだと思ったけれど、俺のこの創造する力……『神の力』がそもそもインチキだ。
だいたい俺の存在そのものが、この世界に暮らす人々からしてみれば、インチキでズルくてチートなのである。……。
で。
だからと言うわけではないけれど。
俺は自嘲気味に笑い、開き直った。
ふところに片手をつっこみ、ブツを握ったまま黒い霧に侵入したのである。
こんもりとした緑のオアシス。
緑のオアシスは小高い丘のように隆起している。
俺とミカンはそこに入った。
そして、皇女旗を見上げた。
「マリはあそこだ」
「そこに行けばすべて終わる」
そう言うと同時に、皇女旗のところから、ぐいっと古木の神輿が現れた。
そこに腰掛ける蒼白い顔の美少女。
マリは、丘下の俺たちを見下ろした。
にたあっと笑って、漆黒のドレスをたくしあげた。
神輿に肘をつき、しゃなりと、もたれかかった。
優越感に満ちた瞳で、俺たちを見下ろしたのだ。
「マリてめえッ!」
ミカンが飛びだそうとすると、ずいっとモンスターが立ちはだかった。
マリはモンスターの後ろ、丘の上から俺たちを冷然と見下ろした。
彼女はその美しく整った顔で、ひどく下品に笑った。
そして、思いっきり足を投げ出して。
勢いよくドレスを開いて。
マリは全能感に満ちた瞳で俺たちを見下ろしながら、そこに手を突っ込んだ。
俺とミカンは絶句した。
マリの指先に視線を吸引された。
マリの指の先、ドレスの奥からは真っ白な太ももが、すらりと伸びていた。
それは際限なく、だらしなかった。
しかし、その奥とともに強烈に男を誘っていた。
マリの肉体は、まるでジャンクフードのような魅力を発散していたのだ。
「あはは」
あははははと、マリは狂ったように笑った。
そして、じっとりとした目で俺を見つめながら、指を動かしはじめた。
もそもそと。
マリはドレスの奥で、指を動かしている。
次第に切なそうな表情となりながらも、まさぐっている。
くにゃりと腰をよじりながらも、くやしそうに俺をにらみながらも、マリは指を動かしている。自身を撫で責めている。
俺を見ながら。
その手に持った紙片……俺の日記に頬ずりをしながら。
「って、おい!」
俺はハッと我に返った。
思わず見惚れてしまったが、ここは依然、戦場である。
その戦場の敵の中心部に、俺とミカンは孤立している。
そして敵の大将がそんな俺たちを見下ろして、自慰にふけってる。……。
「ふざけンじゃねえ!」
ミカンは、いきなりモンスターを蹴り飛ばした。
吹っ飛んだその首をマリに投げつけ、ミカンは丘を駆け上がった。
その姿を見ながら、なおも、マリはドレスの奥をまさぐっていた。
吐息を漏らしていた。
「なんだあの痴女は……」
真面目に相手にするのもバカらしくなってしまった。
俺は眉をあげ、おどけて肩をすぼめると、ふところからブツを取り出した。
そして、ぶっ放した。
パン! パパパンッ!!
ファンタジー世界に場違いな銃声が鳴り響く。
弾丸がモンスターを撃ちぬく。
モンスターは抵抗する間もなく絶命する。
俺は日本刀をぷらぷらさせたまま丘を登った。
モンスターがいれば、無造作に自動拳銃で撃ち殺した。
ミカンがその銃声に振り向いた。
おまえ、頭は大丈夫か? ――みたいな顔を彼女はしていたが、俺はかまわず追い越した。
そして登りきった。
俺は、神輿に横たわるマリを見下ろした。
マリは仰け反り、かるく痙攣をした。
ぐったりと全身を弛緩させ、俺を見た。
ちょっと可愛い顔になっている。
俺が鼻で笑うと、マリは根性の悪い笑みをした。
「………………」
マリの頬には、湿った髪がひとすじ張り付いている。
それが妙に扇情的で、しかも漆黒のドレスからのぞく生足がひどく艶めかしかった。そして、まっ白なうなじに垂れる汗。恍惚のしずく。
マリはあまりにも美しかった。
それが俺には、なぜか腹立たしく感じられた。
乱暴に彼女を起き上がらせようとした。
手を伸ばし、彼女の背中にまわして抱き起こそうとした。
すると――。
「ああン?」
ようやく追いついたミカンのその前で、俺はつんのめった。
マリには、さわることができなかった。
いや、マリだけでなく、神輿にもさわることができない。
手がすり抜けてしまうのだ。
「なんだコレ?」
「ホログラムみたいなもんか!?」
「いや、まさか!?」
「でも、それしかっ」
ないよなと、言おうとした途端。
バチン!
と下品な音がした。
そして神輿もなにもかもが消え去った。
「やられた!?」
「あのクソ女ァ!」
俺たちは、またもマリに、まんまとしてやられた。
俺たちは呆然として立ちつくした。
緑のオアシスには、俺とミカンのほかは皇女旗がただあるのみだった。
「いや」
俺は皇女旗のそばに、墓石をみつけた。
そこには、プリンセサ・デモニオと、つたなく刻まれていた。
そして花が供えられていた。
「……帰ろう」
俺は、皇女旗を倒す気になれなかった。
この緑のオアシスをモンスターに占拠されたままにするのは、アダマヒアにとって好ましいことではないけれど、それでも俺は、奪回する気にはなれなかった。
ミカンは、そんな俺の気持ちを察してくれた。
口を尖らせながらも、黙って俺の後についてきた。
モンスターは、どういうわけか、立ち去る俺たちを襲わなかった。
――・――・――・――・――・――・――
■神となって2ヶ月と15日目の創作活動■
マリと相対した。
緑のオアシスをモンスターに占拠された。
……マリを捕まえることはできなかった。それでも、ワイズリエルは大きな成果だと喜んだ。マリが、俺の顔を視たからである。




