表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/128

6日目。集落の試験運用

 決めごとばかりで飽きてきたので、今日は集落を創った。

 そこに男女をおいて動作確認というか、試験運用をするつもりだ。


 まあ、このときの俺は、

 失敗しても、彼らを削除してまたやり直せばいいや――と、気楽に考えていたんだ。




 俺はまず、大地の真ん中に建物を創った。

 それは石を積み上げた壁に木の屋根という、粗末な農民家屋だった。

 この家屋は、アーサー王物語の海外ドラマを参考にした。

 あと、畑も創った。

 というのも、いきなり餓死されても困るからだ。

 ちなみに、農作物は昨日食べたパスタの材料を参考にした。

 ただし、唐辛子とトマトは除外した。


「唐辛子抜きのパスタは、どうにも味気ないけどな」

「しかし、ご主人さまッ☆」

「分かってるよ。だから南部に細工をしたんだ」

「素晴らしいアイデアです、ご主人さまッ☆」

 俺とワイズリエルは、井戸を覗きこむ。

 そこから大地の様子が見えるのだ。

 もっとも、作戦を練るときは利便性を重視して、以下のような簡易図面を使ってる。



挿絵(By みてみん)



「中世のヨーロッパっぽさを感じさせるために、北は未開地域、南には高度な文明があると設定した。もちろん、高度な文明なんてものは創ってないけれど」

「そこから集落に、商人が来るのですねッ☆」


「そうそう。『南の大都市からやってきた』というふれこみの商隊、それを創るだけでい。しかも、そいつらは自由意志を持たない俺の使者……ゲームでいうところのNPC、ノン・プレイヤー・キャラクターだ」

「その使者に、様々な異文化アイテムを運ばせるのですねッ☆」

「唐辛子とかな」

 実は昨日、中世の食糧事情を少し調べた。

 そして、そのあまりにも粗末な内容に、俺は気の毒になってしまったのだ。



「もし不具合があれば修正すればいいよ。どうせ最初は失敗する、それくらい気楽にいこう」

「トライ・アンド・エラーですねッ☆」

「そうそう」

 俺とワイズリエルは、満ち足りたため息をついた。


「あと、西に海がある――ということにしたのは、そこから塩を商人が持ってくるためだ。まあ、これも実際には創っていないけれど」

「はいッ☆ 塩鉱山とか面倒くさいですしッ☆」

「そのとおり。で、東は険しい山脈でふさがっている」

「活動エリアを狭めておくためですねッ☆」



「もちろんだ。それと近くに森を創った。森は本当にこんな感じで好いのかな?」

 俺は首をかしげ、ワイズリエルとヨウジョラエルを見た。

 ふたりは満面の笑みで、こくんと頷いた。


「ご主人さまッ☆ 平地のなかに唐突に樹木が密集して生えている……そんな森にすると、ヨーロッパらしさが出るのですッ☆」

「まあ、たしかにロビンフッドの森とかそうだったけど」

「こういった森は、北関東や岐阜の平野に住んでいるかたにはなじみ深いですけど、神奈川のようなエリア……山と海岸の隙間に街があるエリアで育ったかたは、違和感をおぼえるようですねッ☆」

「森イコール山みたいな先入観は、あるよ」

 というか、山の斜面に住宅がある。


「はいッ☆ でもそれは、そのようなエリア独特の感覚です。ですから、ヨーロッパの広大な平野ではこれで良いのですッ☆」

「なるほど」

 俺は違和感をぬぐいきれなかったが、

「まあ、いずれ慣れるだろう」

 と、最終的には頷いた。


 森は、イノシシなどを配置して狩猟できればそれでいい。


 目的さえ達成すれば、細部などどうでも好いと思ったのだ。

 まあ、『どうでも好い』って感じなのは、細部に限ってのことではないような――気もするのだけれども。





「さて。これで問題なければ、いよいよ人間を配置しようと思うのだけど」

「とりあえず男女一名ずつですねッ☆」

「ああ。まずは、そのふたりで集落の生活が成り立つかテストする」


「つまり、農耕と狩猟で自給自足しつつ、商人と取り引きをする生活ですねッ☆」

「そう。農作物を、南の商人がもたらす香辛料と交換。その香辛料を、西の商人がもたらす塩と交換する。これで生活にゆとりがでるようにしたい」

 どうせなら、極貧生活よりも集落が大きくなるさまを観察したいのだ。


「でしたら、ご主人さまッ☆ このレートで試してみましょうッ☆」

「よしっ!」

 俺はワイズリエルのメモ書き通りに、商人を設定した。

 そして、いよいよ人類誕生というそのときに、

 ふと。

 思った。

「……あっ。大きな川を創ろう。西からの商人は、船で村にやってくるんだ」

 吉川英治の三国志、その冒頭シーンを俺は思い出したのだ。



「ご主人さま?」

「そう、川だよ川! 川が好いよ!! 土手でひざをかかえて商人が来るのを待ってたりとかさ、なんかドラマが起こりそうじゃん」

「……ドラマですかッ☆」

「だって、おだやかで平和な生活とか観てても飽きるし」

 これから生まれる男女が聞いたら驚くであろう。

 しかし、ワイズリエルは俺の意図を正確に理解し、そして賛同した。


「分かりました、ご主人さまッ☆ でしたらこの通りにッ☆」

「こんな感じで好いの~?」

 ワイズリエルの指示で、ヨウジョラエルがノリノリで川を描く。

 そして、嬉しそうに俺に見せる。

 俺はものすごい笑みで、さっそく地形を創り変えた。

 ちなみに言うまでもないが、一番ノリノリなのはもちろん俺である。



挿絵(By みてみん)



「よし! これで準備は整った!! 出でよ最初の人類、アダムとイブ!!!」


 俺は誇らしげに集落を指差した。

 すると、美少年と美少女がそこに現れた。

 目を覚まし、きょろきょろしているふたりを観て、俺は妙な感動を覚えた。

 この気持ちを共有したくて、ワイズリエルを見た。

 すると、彼女は懸命に笑いを堪えていた。

 ヨウジョラエルを見ると、彼女もニコニコしていた。


「えっ? ダメ?」

 俺は彼女たちの笑う理由が分からなかった。

 首をかしげていると、ワイズリエルがイタズラな笑みで言った。


「なんか私たちと違って、普通の名前だなあってッ☆」



――・――・――・――・――・――・――

■神となって6日目の創作活動■


 アダムとイブを創り、集落の試験運用を開始した。



 ……俺の計算では、ふたりの生活はすぐに安定し、どんどん豊かになっていくはずだ。まあ、たとえ失敗しても何度でもやりなおせる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ