10日目。クーラからの報告
お昼を過ぎた頃だったと思う。
俺は心地良い疲れを残しつつも、ようやく目覚めた。
横には、ワイズリエルがくたりと座り込んでいた。
眩しそうな瞳をして俺を見ていた。
目が逢うと、するっと頬をさすられた。
口もとに笑みを浮かべると、ワイズリエルは、
「クーラさまから、メールが来ていますッ☆」
と言った。
地上界に降ろしたときに、持たせた連絡手段である。
俺とワイズリエルは身支度を調え、リビングに行った。
テレビにそれを映して、読みはじめたのである。……――
秋涼爽快の候、皆様におかれましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
このたびは様々なアイテムを持たせていただきまして、ありがとうございました。
ここ数日は、旅やモンスターとの戦闘で本当に忙しく、カミサマさんと離れたことの実感がわかないうちに、またたく間に時間が過ぎてゆきました。
痩せた土地に入ってしばらく経ったあたりで、ようやく落ち着いて、ミカンとテントで過ごす時間が取れるようになり、昨晩などは周囲に警戒をしながらではありますが、前世のことを語り明かしたところです。
さて。
私たちは今、痩せた土地のほぼ中心、緑のオアシスの西南西にいます。
モンスターとは、そうですね、だいたい日に三グループと戦闘になります。
モンスターはそれほど強くはありません。
ですから楽に勝っているのですが、それでも、その戦闘がどんな感じなのか念のためお伝えしておきます。
以下がその記録です。
■――・――・――・――・――
>戦闘ログ
モンスター2体と遭遇した!
クーラのジャスティス・コール
クーラは狙われやすくなった!
ミカンの威圧
モンスター全員の敏捷性が低下
ミカンの跳び蹴り クリティカルヒット!
モンスターA(獣のような緑の人影)は、首をはねられた。
モンスターAは死亡した!
モンスターB(杖を持った緑の人影)の暗闇攻撃
クーラに1回ヒットし、3のダメージ
クーラは暗闇に包まれた。
クーラの攻撃!
モンスターBに5回ヒットし、280のダメージ
モンスターBは死亡した!
戦闘に勝利
30の経験値を得た
■――・――・――・――・――
以上が、戦闘の記録になります。
ミカンがあっという間に倒してしまうので、あまり記録を残せていませんが、それでもいくらかお役に立てると思います。
たとえば、遭遇したモンスターのことですが。
この痩せた土地に棲息するモンスターは、記録でも分かるかと思いますが、人型でしかも知性を持っています。
さらには杖のようなものを持ち、『魔法のようなもの』を使ってきます。
私が受けた『暗闇攻撃』というのがそれです。
これは、監視衛星の撮影ログを観ていただければ分かるかと思いますが、杖のような道具から、強烈な光が放たれるのです。
そして、そのまぶしさにしばらく目を開くことができなくなるという、ええ、こうして言葉にしてみれば、とても幼稚な攻撃なのですが、しかし、戦闘中に突然やられると非常にやっかいな攻撃でもあるのです。
そのほかにも、罠のような物も見つけました。
それは痩せた土地にさりげなく設置されていて、刺激をあたえると毒矢が飛んでくる仕掛けになっています。
このトラップには、前述の『暗闇攻撃』と同様に、なにか『カミサマさんの力のようなもの』がこめられていると思われます。
ちなみに、この『カミサマさんの力のようなもの』がこめられた物ですが、どうやらモンスターが持ち運び、しかも使いこなしているようです。
それと――。
説明するのが遅くなりましたが、このメールに記載されている戦闘ログは、モンスターが持っていた装置が記録するものを書き写しました(ミカンが装置を奪い、現在も携行しています)。
もちろん、その装置も『カミサマさんの力のようなもの』で動作していると思われます。
この『カミサマさんの力のようなもの』で動作していると思われる装置と、その周辺技術を、私たちは『魔法のようなもの』と呼んでいます。
実は、ミカンは『魔法』だと乱暴に決めつけて、ただ単に『魔法』と呼んでしまっているのですが……。
それで『魔法のようなもの』に関してですが。
お忙しいこととは思いますが、お手すきのときにでもお調べいただけると嬉しいです。
これからの季節、冷え込みが厳しくなりますのでお体にお気をつけください。
末筆ながら、カミサマさん、ワイズリエル、それにヨウジョラエルのご健康とご多幸をお祈り申し上げます。
この澄み切った秋空のように、皆様のお気持ちが爽快でありますようお祈り申し上げます。
二ヶ月と十日目
カミサマさま クーラ
――……読み終えた俺は、やわらかく微笑み頷いた。
ワイズリエルは頷いて、母性に満ちた笑みをした。
「いかにもクーラさまらしい、かしこまった手紙ですねッ☆」
「というか最初の部分、結婚式の挨拶状まんまじゃねえか」
「クーラさまとミカンさまッ☆ 夫婦のような生活を送っているのですねッ☆」
「いや、そういう意味で言ったわけじゃ」
と言いつつ、ちょっと想像してしまった。
大ざっぱなミカンと几帳面なクーラ。
ふたりは、まるで正反対だけど意外にも上手くいっている。
というより、思い返してみれば、あのふたりは揉めているように見えるけど、最終的には意見が一致するのだ。
「クーラさまもミカンさまも、体育会系ですからねッ☆」
「ああ、それで」
話し合いのときなど、ふたりして責めてくるのか。……。
「ところで、ご主人さまッ☆ このクーラさまの手紙に書かれていた『魔法のようなもの』ですがッ☆」
「ああ、あれね」
「これから調べることに集中してもよろしいでしょうかッ☆」
「うん。すぐに教えてあげて」
「はいッ☆ クーラさまは『お手すきのときにでも』と書いていましたがッ☆」
「すぐにやれって意味だよな」
そう言って俺が微笑むと、ワイズリエルは可愛らしくウインクをキメた。
そして、その大きなつり目を細めて言った。
「いかにも日本人的な言いまわしッ☆ 前世の記憶が戻った証ですよッ☆」
――・――・――・――・――・――・――
■神となって2ヶ月と10日目の創作活動■
モンスターの生態を知った。
……『魔法のようなもの』については詳しく調べる必要がある。




