9日目。戸惑い
クーラとミカンは地上界に降りた。
ザヴィレッジに降り立ったのは、マリを警戒してのことである。
ふたりは、そこから西へと進み黒き沼に向かうのだ。
天空界には俺とワイズリエル、ヨウジョラエルが残った。
そしてテレビに映るアダマヒアを観ていた。
「あのモンスター大暴走、そして黒い霧の発生から二日経った。アダマヒアの反応を知りたい」
と俺は訊いた。
ワイズリエルは応えた。
「まず、アダマヒア王国ですが――ッ☆」
「うむ」
「アダマヒアはこの事件のことを、よく理解できずに悩んでおりますッ☆」
「ああ、たしかに。彼らからすれば、唐突にモンスターが橋に押し寄せ、そして落雷によって全滅しただけだ」
「そのことと黒い霧の発生は、どうやら結びつけて考えていないようですねッ☆」
「まあ。彼らの得ている情報からは、そう判断するしかない」
「ですから、モンスターを警戒はしていますが、マリさまがモンスターを指揮していることは知りませんッ☆ 彼女の指揮のもと、アダマヒア王国に攻め入るとは思っていないのですッ☆」
「それはそうだ。というより」
「はいッ☆ マリさまに、本当にアダマヒアを陥落させる意思があるのか、私たちにも分かりませんッ☆」
「この前攻め入ったのは、俺に雷を撃たせるためだったからな」
「はいッ☆」
「まんまとしてやられたな」
「マリさまらしい根性のひん曲がったやりかた、いえ、知略でしたッ☆」
「ははっ」
思わず渇いた笑いがでてしまった。
「ところでッ☆ ご主人さまはアダマヒアの南を流れるあの川を、三国志の冒頭シーンをイメージして創られましたがッ☆」
「そうそう、劉備が商人を待ってるシーンだよ」
「『黄河』ですねッ☆ 川幅が10キロくらいありますッ☆」
「うん。アダマヒアに流れる川は、それを模した川だ」
「あの幅では、モンスターも気軽に渡れませんッ☆」
「ああ、先日見た限りでは、あいつら巨大だからな」
泳げるようにも飛べるようにも見えなかった。
「それに、もし泳げたとしてもゆっくりですッ☆ すぐに分かります」
「発見してから、弓の一斉掃射が間に合いそうだな」
「はいッ☆ というわけで、アダマヒア王国は特に西側に警戒することなく、城壁をかためましたッ☆」
「それはつまり、専守防衛としたわけか」
「はいッ☆ それと少数ではありますが、騎士団の精鋭を橋に配置しています」
「問題なさそうだけど?」
「よく分かりませんが、正解だと思って納得するしかありませんッ☆」
なにしろ攻める気があるのかすら謎なのだ。……。
「次に南の村、ザヴィレッジですが――ッ☆」
「どうした?」
「とりあえず武装商人を収容しましたッ☆ モンスターに捕捉されないためですッ☆」
「ああそうだ、よく気がついた」
「ありがとうございますッ☆ それでギルド会員の戦力を二分しましたッ☆ 現在は、半分が村の防衛をしていますッ☆」
「そして、もう半分が?」
「交易商隊の護衛ですッ☆ もっとも、都市間の移動は徐々に減らすよう注意を呼びかけていますがッ☆」
「完璧な対応に思えるな。なにか懸念材料は?」
「今のところございませんッ☆」
「なるほど分かった」
と俺が言うと、ワイズリエルはバチッとウインクをした。
それと同時にヨウジョラエルが抱きついた。
「おにいちゃんお~」
「疲れちゃいましたッ☆」
「ああ、ごめんね」
と、ここで俺は、気遣いをする余裕がなくなっていることに気がついた。
大きく息を吐く。
気持ちをリセットする。
そしてジュースを創って、ふたりに渡した。
ついでにワイズリエルの、おっぱいをもみっとした。
「きゃはッ☆」
ワイズリエルは、思いっきりスケベな笑みで、ぺちんと俺の手を叩いた。
そして嬉しさと悔しさをからませた複雑な笑みでこう言った。
「もみ逃げ禁止ですッ☆ もんだら最後までヤッてくださいッ☆」
「はァ」
「ご主人さまの悪いクセですッ☆ もむだけ、お尻をさわるだけで終わっては、ワイズリエルは切ないのですッ☆」
そう言ってワイズリエルは、首筋に吸いついた。
するとヨウジョラエルが、
「せつないのですお~」
とマネして吸いついた。
ぎゅうぎゅうと力強く吸いついて、キスマークをつける気だ。
これが最近、ふたりのなかで流行っているサキュバスごっこである。
「わっ、分かった! 分かりましたッ!!」
俺はとりあえず今夜のことを約束し、話をもとに戻した。
ふたりは、べっちゃりとした色っぽい目をして頷いた。
まったく。
何歳なんだキミたちは。――
「で。次は穂村だっけ?」
「はいッ☆」
「地理的には問題なさそうだけど」
「はいッ☆ 衛星で監視を続けていますが、このあたりのモンスターに異変はありませんッ☆ 念のため、周囲を警戒するよう呼びかけましたがッ☆」
「特に問題はないんだ?」
「なにか変化があったら、すぐに報告しますッ☆」
「りょーかい」
と言って俺は、座り直した。
いよいよこれからが本題である。
そう思うと自然と背筋が伸びた。
それはワイズリエルも同じようだった。
ちなみにヨウジョラエルは、俺の指を握ってお昼寝をしている。――
「さて。モンスターの動向、というよりマリだっけ? あの美少女の動向なんだけど」
「それが分かりませんッ☆」
「だよな」
「とりあえず黒い霧のなかのことは一切不明ですッ☆ ですが、マリさまの指揮するモンスターが、すべてあの霧のなかに待機しているとは思えませんッ☆」
「周囲をうろついているのか?」
「大型のモンスターが黒い霧の周囲と、それに隣接する痩せた土地を徘徊しておりますッ☆」
「それがマリという女の号令によって集合するわけか」
「おそらくッ☆」
俺たちは目と目を合わせ、そしてため息をついた。
「なあ、ワイズリエル。とてもシンプルな質問をしたいんだけど」
「はいッ☆」
「あの女はなにがしたいんだ?」
「……難しい質問ですッ☆」
「やっぱり? まあ、神……すなわち俺に敵意を向けていたことは間違いないけれど」
「そのことですが、ご主人さまッ☆ 私は、マリさまの性向を熟知しておりますッ☆ もし、マリさまがなにもかも思い出し、以前のマリさまに戻っていたとしたら――ッ☆」
「戻っていたら?」
「マリさまは、ご主人さまのオシオキやお叱りを期待して、このアダマヒアを引っかきまわすでしょうッ☆」
「えっ?」
「マリさまは私以上のマゾ女ッ☆ 必ずや、ご主人さまに怒られることをやらかしますッ☆」
「そんなっ」
そんな理由で、あの女はアダマヒア王国に攻め入ろうとしたのか。
いや。
あれは攻め入るつもりはなかったのか。
「うーん。よく分からなくなってきたぞ」
「はいッ☆ でも、そのわけの分からないところがマリさまの真骨頂ッ☆ 今頃、マリさまはケラケラと根性の悪い、いえ、個性的な笑いかたをして、次の手を考えているでしょうッ☆」
「はァ」
「まあそれは、マリさまがすべてを思い出していたらの話ですがッ☆」
そう言ってワイズリエルは、困ったような笑みをした。
俺の太ももを、するっと撫でて、こう言った。
「まずは、クーラさまとミカンさまを見守りましょうッ☆」
「結局、そこに着地するしかないのか」
「それがベストですッ☆ マリさまは、言葉で揺さぶりをかけることを得意としていますッ☆ ところが、クーラさまとミカンさまは人の言うことを聞きませんッ☆ マリさまがもっとも苦手とするタイプなのですッ☆」
ワイズリエルは、褒めているのかバカにしているのかよく分からない言いかたで、ふたりへの信頼をあらわした。
――・――・――・――・――・――・――
■神となって2ヶ月と9日目の創作活動■
アダマヒア各都市の対応を確認した。
……とりあえず守りをかためることしかできずにいる。あのマリという女がなにをやりたいのか、まるで分からないからだ。




