表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/128

8日目。黒き沼の魔女

 西の森に突如現れた黒き沼。

 そして、そこに棲む美少女。

 コゴロウとモンスターの子供――プリンセサ・マリシオソ。


挿絵(By みてみん)


 俺は彼女の出生を想い、陰鬱(いんうつ)な面持ちになった。

 言葉を失い、ただ画面を見たまま、しばらく喪心状態となった。

 そして、数分とも数時間とも感じられる時間が過ぎて。

「ご主人さまッ☆」

 と、ワイズリエルがひざをつめた、そのとき。


 画面に映る美少女が突然、悲鳴のような大声をあげた。

 森がざわめいた。

 大地が振動した。

 いたるところから咆哮(ほうこう)があがった。

 そして。

 アダマヒアの広大なる大地がふるえた。



 カメラを引くと、西の森からモンスターの大群が、東に向けて走っていた。

 おそろしい数のモンスターが煙を上げて、ものすごい勢いで疾走していた。


「ご主人さまッ☆」

「アダマヒアだ! アダマヒア王国の橋を目指してる!!」

「そんな!?」

「まさか!?」

 俺たちは愕然(がくぜん)として、それを視たまま固まった。

 モンスターの大群は、間違いなくアダマヒア王国を目指していた。

 先頭のモンスターが巨大な旗を持っていた。

 そこにはコゴロウのベレー帽と同じマーク。

 手裏剣に稲妻が重なったマークが描かれていた。



「まずい!」

 俺は手を振り上げた。

 雷を放ち、モンスターの大群を阻止しようとした。

 するとワイズリエルが叫んだ。


「ご主人さまッ☆ お待ちくださいッ!!」

「しかし!」

 モンスターは橋に迫っている。

 もちろん、この唐突な襲撃にアダマヒアの騎士団は備える術がない。


「ご主人さまッ☆ 気をつけてくださいッ!!」

 とワイズリエルがまた叫ぶ。

 しかし俺は、

「後で聞く!」

 と言って、指先に力を溜めた。


「ご主人さまッ☆ マリさまはッ!」

 とワイズリエルが叫んだけれど、俺はかまわず、そのまま雷を撃った。

 モンスターをそれでせん滅した。

 つもりだったのだけれども。



 俺の放った雷は、巨大な旗に吸い寄せられた。

 その膨大な落雷のエネルギーが、旗に集中した。

 旗を持つモンスターを焼き滅ぼした。

 が。

 それだけではおさまらず。

 近くのモンスターに連鎖れんさした。

 次々と焼き()がした。

 その連鎖はいつまでも続き、後列まで到達した。

 そして。

 森に入ったところで、俺の放ったエネルギーがどういうわけか膨張(ぼうちょう)した。

 それが大爆発を起こし、森を焼き尽くした。

 ものすごい勢いで黒煙が噴きあがる。

 あたりに充満する。


「ああン!?」

「カミサマさん!?」

「いや、そこまではっ! 俺はそこまでっ!?」

 するつもりはなかったし。

 するような力も込めていなかった。

 が。

 それはともかくとして。

 やがて爆発はおさまり、煙が晴れた。



挿絵(By みてみん)



 そして、その光景を視た俺たちは――。

 まるで稲妻に撃たれたかのような衝撃をうけた。

 森のあったところには、巨大なコイルがあった。

 この装置を造ったのは、あのプリンセサ・マリシオソにまず間違いない。


「なんだこれは!」

 俺は驚きと動揺からくる怒りで、稲妻を放った。


「いけませんッ☆」

 すると、それは装置のはるか上空で霧散した。

 エネルギーが霧のように飛び散り、また収束する。

 そして、コイルのような装置に吸い込まれた。

 そこに俺の力……神の力が(たくわ)えられたのである。

 しかもその装置で、神の力はどんどん増幅され続けている。



「バカなッ!?」

 このとき俺は、ようやく。

 プリンセサ・マリシオソにハメられたことに気がついた。



 プリンセサ・マリシオソは、あごを上げ、肩越しにカメラを視た。

 カメラ目線で、にたあっとその整った顔を(ゆが)ませた。


「ご主人さまッ☆ マリさまは、ひどく悪賢(わるがしこ)く、しかも根性がひん曲がっているのですッ☆」

 ワイズリエルは画面を視たまま、ぼそりと呟いた……――。





 ――……そして翌日。すなわち今朝。

 俺たちは、リビングに集まり対策会議を開いた。

「さっそく現状の確認なんだけど」

「霧が西の沼に発生していますね」



挿絵(By みてみん)



「この黒い霧によって、沼のあたりは監視衛星で視ることができませんッ☆」

「ああ。俺の力をもってしても、視ることができない」

 そう言って俺は画面を指さした。

 沼にズームすると、画面はノイズで満たされた。


「おそらく、ご主人さまの力――神の力があの霧にこめられているからと推測されますッ☆ が、詳しいことはよく分かっておりませんッ☆」

 ワイズリエルがそう言った。

 それと同時に、ミカンが苛々(いらいら)して言った。



「よーするに! あの沼のあたりは視ることができない!! そーゆーことだろ!?」

「えっ、ええ」

「分かった。じゃあ、次に進もう」

「は?」

「どーせ、これ以上考えたって分かンねえよ」

 そう言ってミカンは肩をすくめた。

 すると、クーラが髪を耳にかけながら、


「では、次に進みますが」

 と言った。

 そして、その切れ長の瞳を細めてこう続けた。



「現在、沼一帯はテレビに映りません。それはマリの……プリンセサ・マリシオソの行動が監視できないことを意味します」

「ああン、マリでいい。マリでいいよ」

「いえ、でも」

「あいつはマリだよ」


「それはっ。たしかに彼女は、マリによく似てますが……。でも、それを断定するのは早すぎます。あのコゴロウの娘『プリンセサ・マリシオソ・デ・モレスタル・ファスティディアル』と名乗った少女」

「だから! その長ったらしい名前が、マリの証明だろうが」

 と、ミカンが笑いながら言った。



「その長ったらしい名前は、あいつの嫌がらせだよ。どーせ、『覚えきれないでしょう? 会話するときに不便でしょう?』って、ニヤニヤしながら名乗ったンだよ」

 と、追い打ちをかけるように言った。

 その根拠のない断定に、しかし、ワイズリエルとクーラは頷いた。

 ミカンの言葉には、妙な説得力があった。


「あいつはマリだ。なにか証拠が映ってただろ?」

 そう言って、ミカンがワイズリエルを見た。

 するとワイズリエルが言った。




「結論から言いますと、彼女はマリさまですッ☆」

「ほんとですか?」


「プリンセサ・マリシオソが、『ワタシはマリだ』と言っておりましたッ☆」

「えっ!?」

「天に向かって語る姿が、監視衛星に記録されていたのですッ☆」

「だろ? それを早く言えよ」

 と、ミカンが誇らしげに言った。

 するとワイズリエルが、たしなめるように低い声で言った。



「疑問がありますッ☆ なぜ、マリさまはご主人さまと接触することなく、前世の記憶を取り戻したのでしょうか?」

「そういえば」

「そうですね」

 と、ミカンとクーラは呟いて、ぽかんと口をあけたままでいた。


「そしてッ☆ マリさまは、前世の記憶を取り戻した状態で、神に敵対していますがッ☆」

 ワイズリエルは、ゆっくりと言葉を選びながら言った。

 俺たちは、つばを呑みこむように大きく頷いた。



「神……すなわちご主人さまと、前世で結びつきがあったことを、マリさまは思い出しているのでしょうか?」


「いや、ちょっと待ってよ!」

 俺は思わず大声をあげた。

 状況がよく理解できない。

 情報が混乱してる。

 分からない。

 分かってたまるか――とも思うのだけれども。

 しかし、それでも俺は懸命に現状を理解しようとした。

 するとその出鼻をくじくように。




「マリは、そーゆーめんどくさい女なんだよ」

 と、ミカンにバッサリやられてしまった。

 ワイズリエルとクーラが失笑しながら頷いた。

 しかたがないわねえ――って感じのため息までついた。

 で。

 俺の心中では、泣きたくなるような、でも笑うしかないような、そんな気持ちが複雑にからみあい、うずまいた。それが顔に出た。

 すると、ミカンが母性に満ちた笑みで、大ざっぱにまとめた。



「あたしが沼に行ってくる! マリをここに連れてきてやンよ!!」

 それで解決すンよ――と、ミカンはバッサリ結論した。

 そして大激論の末に結局、この言葉通りのなりゆきになった。

 ただし、ミカンにはクーラが同行する。

 それが最善策だと俺たちは結論したのである。



――・――・――・――・――・――・――

■神となって2ヶ月と8日目の創作活動■


 西の沼が黒い霧におおわれた。

 ミカンとクーラが、黒き沼の魔女――マリのもとに向かった。



 ……緊急の事態に備え、天空界にワープできるアイテムを創った。それをミカンとクーラに持たせ旅立たせたのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ