5日目。英雄伝説!?
今日は旅人の姿をして、地上界に降り立つことにした。
ミカンが、
「ギルドで依頼を受けてみようぜ」
と、熱心に誘ったからだ。
「じゃあ行ってくるよ」
「いってらっしゃいませッ☆」
ワイズリエルに見送られて玄関を出る。
するとそこにはクーラがいた。
「ああ、カミサマさん」
クーラは剣と盾を下ろし微笑んだ。
いつものように剣の修行をしていたと思うのだけど、しかし、今日はチェイン・メイルをしっかり着込んでいる。
そして、
「ギルドに行くのですね」
などと言ってチラチラ視線を送ってくる。
なんというか、分かりやすい娘である。
「なんだよ、クーラ。あんたも行きたいのか?」
ミカンが大らかに訊いた。
するとクーラは頬を赤く染めて言った。
「そっ、そんな! わっ、私は別にっ!?」
「ああン?」
ミカンがイジワルな笑みで顔を近づける。
クーラはくやしそうな顔をして、あごを引く。
なんだか面倒くさいことになりそうだ――と思っていたら、
「おにいちゃ~ん」
と、ヨウジョラエルがやってきた。
クーラとおそろいの衣装、聖バイン騎士団の装束に身を包んでいた。
さすがに幼女を連れて行くのは危険だよ……。
俺が困った顔をしていたら、ワイズリエルがヨウジョラエルを、ぎゅっと抱きしめた。
そして言った。
「ご主人さまッ☆ 私とヨウジョラエルは留守番をしておりますッ☆」
「ええ~? 行きたいよお~」
「また今度にしましょうッ☆」
「ええ~」
「今日はお家で、エッチな準備体操をしていましょうッ☆ エッチな準備体操をしながらご主人さまを待つのですッ☆」
「……う~ん」
「楽しいですよッ☆」
「うん!」
ヨウジョラエルが無垢な笑みで、跳びはねるように頷いた。
ワイズリエルが思いっきりスケベな笑みをした。
「ご主人さまッ☆ エッチ『の』準備体操のほうがよろしかったですか?」
「はァ」
俺が肩をすくめると、ミカンが大らかに笑った。
そしてクーラの肩を抱いて大ざっぱな声で言った。
「じゃあ、あたしたち行ってくるわ!」
この言葉が、今日のことを強引に決定した。
すなわち天空界で、ワイズリエルとヨウジョラエルがお留守番。
地上界で、俺とミカンとクーラがギルドの視察をすることになったのだ。
「でっ、でも私はっ!?」
いつまでも意地を張っているクーラに、ワイズリエルが言った。
「いってらっしゃい、クーラさまッ☆ でも、ひとつだけ好いですかッ☆」
「えっ、はい」
「その聖バイン騎士団の武具は、止めたほうが良いと思いますッ☆」
「はあ……」
「クーラさまが騎士団を去ってから、地上界では200年以上経っていますッ☆ 教会関係者がその武具を見たら、混乱すると思いますよッ☆」
「そっ、それはそうですね」
「装備は村の商店で買い求めると好いでしょう」
「はっ、はい」
クーラは慌ててクローゼットに行った。
俺とミカンが穏やかな笑みで見送ってると、ワイズリエルは言った。
「ご主人さまとミカンさまッ☆ おふたりは穂村の民に顔を知られていますッ☆」
「あっ、そうか」
「穂村に行ったのは、十数年前が最後になりますッ☆ おそらく、おふたりを知る者はまだ生きていますッ☆」
「うーん。村には穂村の人がちょくちょく来るんだっけ?」
「ごくわずかですがッ☆」
俺は腰に手をあて、ため息をついた。
「なんか変装する?」
「あたしは、このままでいいや」
「へっ?」
「十数年経ってンだろ? だったらこのままで良い。よく似てるなって思われて終わりだよ」
「いや、でも」
おまえっ。
俺のことを、あのときの剣の達人だって気付いたじゃねえか。
「男と女は違うンだよ! 十数年経ったらあたしは三〇代だ。こんな三〇代いねえよ」
そう言って、ミカンは誇らしげに胸を張った。
ばいんと、その悪魔的なおっぱいが揺れた。
それを見て俺は、最近の三〇代は結構若いんだけど――と言おうとしたけれど、話がこじれそうだったので止めた。
それで結局。
ミカンはそのままの姿で、俺はよく分からんが変な化粧をされて行くことになった。
「結構、似合うじゃん」
ミカンは嬉しそうに、俺の顔をぺたぺたさわった。
そこに地味な服を着たクーラがやってきた。
それで俺たちは、ようやく地上界に降り立った。――
村に着くと、俺たちはさっそく商店に向かった。
そこでクーラの装備をそろえるためである。
「お金は後で結構ですよッ☆」
と商人が言った。
野太いオッサンの声だったが、しゃべりかたがワイズリエルだった。
天空界から商人を操作しているのだろう。
「なあ、クーラ。ゆっくり選びたいだろ?」
と、ミカンが言った。
「えっ、ええ」
と、クーラが少し照れて言った。
「じゃあ、ギルドには、あたしたちが行ってくンよ」
「はあ、よろしいのですか?」
「先に依頼受けてくンから、ゆっくり選びなよ」
「えっ、ええ。ありがとうございます」
「ああン、気にすンな」
ミカンは満面の笑みで言った。
そして俺を引っぱってギルドに向かった。
するとクーラが慌てて言った。
「カミサマさん、そんな装備で大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
俺は振り返って大ざっぱに叫んだ。
ミカンの歩く速度があまりにも早かったからだ。
ギルドに着くと、ミカンはいきなり言った。
「一番、難しいヤツを頼む」
その言葉にギルドの支配人は失笑した。
どうやら、この支配人もワイズリエルが操作しているようだ。
俺もつられて笑ってしまったが、しかし、ギルドにいた会員は騒然とした。
見知らぬふたり組が、いきなり高難度の依頼を受けようとしたからだ。
しかも、ひとりは女。
それも、色っぽいミニスカ着物の美人である。
「なあ、早くしてよ」
「……かしこまりましたッ☆」
支配人はイタズラな笑みを浮かべ、一枚の依頼書を出した。
そこには、
―― 痩せた土地をさまよう未確認モンスター ――
と書かれていた。
そして、いかにもヤバそうな怪物が劇画タッチで描かれていた。
「ちょっ、ちょっと!?」
それを見て俺は真っ青になった。
なぜなら、テキトーな剣と、やはりテキトーな厚手の服で来ていたからだ。
俺は慌てて商店に戻った。
そして叩きつけるように言った。
「一番、良いのを頼む!」
商人とクーラが首をかしげる。
俺はカウンターの足もとを指さして、
「それッ! それッ!!」
と、小声で器用に叫んだ。
叫ぶと同時に、そこに強力な武器を創った。
そうすれば人間に疑われることなく、自然と創った武器を手にすることが出来る。
その意図をワイズリエルは素早く理解した。
「分かりましたッ☆」
と言って、商人がそれを手にした。
すると武器のかたちが変化した。
おそらく切れ味はそのままに、ワイズリエルが形状を変化させたのだろう。
それは巨大な包丁と、ふた振りの日本刀のかたちをしていた。
「戦闘スタイルはアダマヒア王国リスペクトッ☆ 刀工技術は穂村リスペクトですッ☆」
と商人は言った。
そんな政治的な配慮がこめられているのか――と、俺は感心しながら巨大包丁を背負った。
ふた振りの日本刀を手にした。
と、そこにミカンがやってきた。
「おっ、ふたりとも終わった?」
「ああごめん。いきなり飛びだして」
「気にすンなって。クーラは?」
「はい、お待たせしました」
装備を調えた俺たちは商店を出た。
で。
その姿で歩いていたら。
「二刀流は、ちょっと古いンじゃね?」
「一時期、大流行したからなあ。今、やってる人なかなか見ないけど」
「新顔だろ? 張り切っちゃったんだよ」
「まあ、よくある黒歴史だな」
などと、くすくす笑われてしまった。
――ツヴァイのコスプレだと思われたらしい。
「ツヴァイの死から30年くらいですからね」
「ああ、ちょうど恥ずかしい頃だな」
「いやっ」
人ごとのように笑わないでよ。
「まあ、気にすンな」
「そうです。結果を出せばよいのです」
「はァ」
それってフォローになってないよね。
カッコイイですよ――くらいは言っても好いんじゃないですかね。
俺は眉を上げ肩をすぼませてから、村を出た。
ミカンとクーラが朗らかな笑顔で後に続く。
畑を越え、西に進み、モンスターの棲む痩せた土地に向かったのである。――
――・――・――・――・――・――・――
■神となって2ヶ月と5日目の創作活動■
地上界に降り立ち、ギルドで依頼を受けた。
……コゴロウのようにつきまとわれたら嫌だから、目立たないようにしていたけれど、結局、恥ずかしい感じに目立ってしまった。




