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3日目。商店と貨幣

「なあ、武器屋を建てようぜ」

 と、ミカンが言った。

 俺とワイズリエルは頷いた。

 さっそく家屋を建てることにした。



挿絵(By みてみん)



 その建設現場を見ながら、俺たちは話しあった。

 この村の経済についてである。


「ご主人さまッ☆ 現在、この村ではアダマヒア王国の貨幣(かへい)が使われていますッ☆」

「ええっと、たしか金貨・銀貨・銅貨だっけ?」


「はいッ☆ 中世ヨーロッパによく似た状態ですッ☆」

「つまり、アダマヒアは俺たちが送り込むNPC商人の硬貨を使いつつ、自分たちでも硬貨を鋳造(ちゅうぞう)している」



「その通りですッ☆ 彼らは金貨の価値を認めているというよりは、金そのものの価値を認めているのですッ☆」

「溶かして使うことを前提としているのだな」


「はいッ☆ そもそも硬貨……コインとは、金や銀を均一の重さで鋳造したもの、計量の手間を省くために鋳造されたものだったのですッ☆」

「なるほど」

「そーゆーこと」

 ミカンは、ふふんと鼻を鳴らした。




「それでワイズリエル。なにか気になることでもあるのかい?」

「ご主人さまッ☆ 気をつけないと、このままでは村が裕福になってしまいますッ☆」

「ああン?」

 ミカンがあごをしゃくるような声をあげた。

 するとワイズリエルが慌てて言った。


「裕福になるのは()いのですッ☆ ただ、金貨を貯めこむのは危険だと、私は言いたかったのですッ☆」

「というのは?」



「村を襲う者が出てきますッ☆」

「盗賊か!?」


「ギルドに集まった者たちが襲うかもしれませんッ☆」

「それはっ」

 充分あり得ることである。

 なぜならギルドに集まってくる者の多くは、人生に失敗した者、一攫千金いっかくせんきんによる一発逆転を夢見た者だからだ。


 彼らは腕に自信があり、実際有能である。

 しかし、それなのにアダマヒアや穂村の社会に上手く適応できなかった者たちで、ようするに社会性や倫理観(りんりかん)欠如(けつじょ)していることが多いのだ。


 でも。

 そういった者を、俺たちのギルドは受け入れる。

 だから、そういった者――平然と(おん)(あだ)で返すタイプ――平然と村を襲うようなタイプが集まってくる。

 それが、そもそものギルド創設の目的のひとつだからである。



「じゃあ、どうすればいい?」

 俺が訊くと、ワイズリエルはぎゅっと眉を絞った。

 人類が残した膨大な知識――インターネットにアクセスした。

 そして目まぐるしく計算をした。

 しばらくすると彼女は言った。



「コショウを通貨として扱っては、いかがでしょうか?」



 俺とミカンは首をかしげた。

 やがて、ふたりの口から同時に理解の声がもれた。


「こっ、この村では、金貨や銀貨の()わりにコショウを使うというのか?」

「はいッ☆ 現在のコショウと金の価値は、ほぼ同じですッ☆」

「つまり一粒のコショウが、同じ重さの金と同じ価値を持つ」



「はいッ☆ もちろん、アダマヒアと穂村の交易が進めばコショウの価値は徐々に下落しますッ☆ しかし、この村の目的は儲けることではありませんし、貯めこむ必要もないのですッ☆」

 そもそもお金儲けをする必要が、この村にはない。

 俺が金貨を創って、いくらでも補充することができるからだ。

 それならば――。


「通貨として採用したほうがいい」

「強盗を抑止する効果があるのですッ☆」

 俺とワイズリエルは満ち足りた笑みをした。

 しかし、ミカンは眉をひそめた。



「なんで、コショウだと襲われないンだ?」

 と素朴な疑問を口にした。

 するとワイズリエルが答えた。


「アダマヒア王国では、コショウで買い物ができませんッ☆ 通貨として機能しないからですッ☆」

「ああン。それは穂村でも同じだよ」


「はいッ☆ ですから、たとえ強盗に押し入って大量のコショウを奪ったとしても、強盗団はその扱いに困ってしまうのですッ☆」

「金に()えなければ使えないから」



「その通りですッ☆ しかも、大量のコショウを買い取るところは限られてますから、もし奪われたとしても犯人を追跡することが容易ですッ☆」

「当然、それを襲う側も分かってる」


「だから村は襲われませんッ☆」

「なるほどそういうこと」

「抑止効果があるのですッ☆」

 俺たちは、しあわせな笑みでソファーに沈み込んだ。

 そして、村長とギルドの支配人に指示を出した。

 しばらく『早送り』すると、村の通貨はコショウとなった。



「へえ、案外簡単になるもんだな」

「高山にある山小屋では、21世紀でも『現金』よりも『お米』が喜ばれましたッ☆ この村も、そういった山小屋と同じような僻地(へきち)ですからッ☆」

「スムーズに移行できたのか」


「はいッ☆ そもそも村に定住する者は、金貨にこだわる必要がありませんッ☆ それに、わざわざアダマヒアに行って、金貨を使うのも面倒なのですッ☆」

「だったら、まだコショウのほうが使い道があるな」


 俺たちは微笑んだ。そして商人を送り込んだ。

 商人は建設したばかりの商店で、ギルド登録者たちが必要とする商品を売りはじめた。

 が。

 しばらくすると、商店からアラートが鳴った。

 そのメッセージを読んで、俺たちは思わず眉を絞った。



 コショウ以外で取引したい――という者が増えてきたからである。



――・――・――・――・――・――・――

■神となって2ヶ月と3日目の創作活動■


 商店を創った。



 ……主にモンスター退治用の武器や防具を取り扱う。うまくいけば、武装商人(南方の大都市から来たという設定のNPC)を撤去することができるだろう。



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