イントロダクション
昼下がり。
俺はミカンの膝まくらで、ソファーに寝転がっていた。
頭を撫でられている。
しあわせなアクビをついている。
彼女が天空界に来てからというもの、食後はいつもこんな感じになっていた。
さて、そんなお昼のリビングで。
俺はぼんやりと、しかし、唐突に言った。
「新しい村を創ろうと思う」
「ああン?」
ミカンが俺の頭を撫でながら、ガラの悪い声をあげた。
ヨウジョラエルがミカンにしがみつく気配がした。
俺は微笑み、テレビのほうに寝返りをうった。
画面にアダマヒアを映し、こう言った。
「アダマヒアと穂村を交易させる。その交易ルートの真ん中に、村を創りたい」
この言葉を聞いて、ミカンとヨウジョラエルは息を呑んだ。
ワイズリエルの表情が、すうっと真剣なものになった。
クーラがテレビの見える位置に座り直した。
俺がいつもと違って、断定的なしゃべりかたをしたからだ。
「アダマヒアと穂村の交易ルートは、山脈を南から大きく迂回するルートになる。それで、ちょうど川のあたりが中間地点になると思うんだけど、そこに " まず " 村を創りたい」
「交易がはじまる前に、 " まず " 村を創るのですねッ☆」
「うん。すごい昔の話なんだけどさ――。バインの頃、塩鉱山とアダマヒア集落との中間地点に簡易宿泊所ができたよね?」
「今の教会の位置ですッ☆」
「おそらく今回の交易でも、簡易宿泊所ができる」
「はいッ☆ 交易がはじまれば、集落が中間地点に自然発生するでしょうッ☆」
「だから先に創っちゃう」
そう言って俺が画面を指さそうとすると、
「なぜ、事前に創るのですか?」
と、クーラが質問をした。
といっても、否定的な声色ではない。
彼女は意図が汲めず、不安になっているようだった。
だから俺は、ゆっくりと、考えを整理しながら言った。
「前もって村を創る理由はいくつかある。まず第1に、俺たちがこの村の主導権を完全に握りたいからだ」
「完全にコントロールしたいのですか?」
「したい。そうしないと村は巨大化し第三の勢力になってしまう。そうなってアダマヒアや穂村と敵対されては面倒だ」
「だからご主人さまは『村』と表現したのですねッ☆」
「うん。あくまで『村』の規模でとどめたい。で、村を創る理由のその2なんだけど」
と、ここまで言って俺は大きく息を吐いた。
そして感情を抑えて言った。
「アダマヒアと穂村を行き来する『物』と『者』をチェックしたい」
「『物』と『者』ォ?」
ミカンがあごをしゃくるような声をあげた。
俺は眉を上げて頷き、説明を加えた。
「『物』に関しては説明しなくても分かると思う。俺は健全な交易が成立するよう、この村で物流に干渉するつもりだよ」
「じゃあ、『者』ってのは?」
「コゴロウのような者がいるか知っておきたい。俺は、そのためにこの村を利用するつもりだ」
「ああン。そういうこと」
ミカンはそう言って、俺の頭を撫でた。
まるでネコでもあやすように、首をイジりはじめた。
俺が口を尖らせたら、ミカンはものすごく嬉しそうな顔をした。
そのネコとキツネを足してエロくしたような顔いっぱいに、優越感が満ちていた。ちなみに、ミカンは顔だけじゃなく体もエロい。……。
だからというわけではないけれど。
俺は、かるく屈辱をおぼえながらも、結局、イジられるままでいた。
しばらくの後。
俺は、村を創る理由のその3なんだけど――と前置きしてから、
「この村で人を集めたい」
と言った。
すると。
「「「それは?」」」
と美少女たちがいっせいに声をあげた。
ちなみに、そのなかにヨウジョラエルは含まれていない。
いつの間にか俺の指を握り、お昼寝をしていたからだ。
「まあ、集めるといっても、しばらく後になる。当分は村の安定化に努めるつもりだよ」
「それはどういった人材ですか、ご主人さまッ☆」
「モンスターを倒せる人材。交易商を護送する人材を、俺はここで募ろうと思う」
「それでしたら、カミサマさん」
「ああ、分かるよクーラ。もちろん交易商の護衛には、聖バイン騎士団が適任だと思う。しかしこれ以上、彼らに依存するわけにはいかないし、それに」
「荒っぽい連中を集めたいンだろ?」
「そうだよミカン。村で募集をかければ、きっと、コゴロウのようなヤツが集まってくる。俺はそんなヤツらを把握しておきたいんだ」
「なるほど、そういう意味もあったのですね」
「やるじゃん」
「さすがです、ご主人さまッ☆」
「いやあ、ありがと」
俺は美少女たちに褒められて、おおいに自尊心を満たされた。
「ちなみに、ご主人さまッ☆ 交易商の護送以外に仕事はあるのですか?」
「ある。俺はこの村を、モンスターの観察拠点にしたいと思ってる」
「モンスターの観察拠点!?」
「うん。モンスターが野生化しちゃったからね、どうなっているか詳しく知りたいし、場合によっては討伐したいんだ」
「モンスター捕獲・討伐の拠点となる村ですか」
「捕獲や討伐の仕事を、この村で斡旋するわけですねッ☆」
「その通り」
「へえ」
「ちょっとワクワクするでしょ」
俺はイタズラっぽく言った。
するとワイズリエルとクーラは、まるで小学生の男の子でも見るような瞳をして、母性に満ちたため息をついた。
しかし、ミカンだけはキラキラと瞳を輝かせた。
「なんだよ。面白そうじゃん」
「でしょ?」
「ギルドとか寺院とか、ぼったくり商店とかありそうじゃん」
ミカンは、ものすごく前のめりになった。
期待に胸をふくらませ、瞳を輝かせて彼女は言った。
「じゃあ、カミサマ。その村をさっそく創ろうぜ」
「うん」
「はやく安定させるぞ。はやくモンスター討伐ギルドを創ろうぜ」
「慌てるなよ」
「あたしもモンスターを討伐する。ギルドの会員になってやンよ」
「はァ」
「そうすれば、いろんな女と出会えるだろ?」
「あッ☆」
と、ここでワイズリエルが喜びの声をあげた。
俺は嫌な予感がした。
眉をひそめ上体を起こした。
するとクーラと目があった。
クーラは、ぽんと手を叩いた状態のままでいた。
しばらくすると夢見るような顔をして、クーラは言った。
「良いですね! その村は『カミサマさんの嫁』探しに最適ですね!!」
「きゃはッ☆」
「あ"!?」
「あ"じゃねえよ」
ミカンは大らかに笑って、俺の肩を叩いた。
ワイズリエルとクーラも一緒になって笑った。
そんな彼女たちの可憐な笑みに、俺は泣き笑いの顔となった。
そして、ヤケになって言った。
「こっ、今月はアダマヒアと穂村を交易させること。それと新しい村でモンスターの観察をすること。このふたつが目標! 目標なんだからねっ!!」
ちょっとオカマっぽい言いかたになってしまったけれど。
それはともかくとして、俺たちの一ヶ月の方針が今、決まったのだった。――




