30日目。月次報告
神となって1ヵ月と30日目のお昼。
俺たちはミカンの料理を楽しんだのち、リビングに集合した。
「今月は今日で終わりなんで、簡単に月次報告を」
そう言って俺は、テレビにアダマヒアを映した。
「ええっと。今月はアダマヒアが王国になって自立した。それと穂村ができた」
「できたっつーか、発見したンだろ」
そう言ってミカンは、ほっぺたを膨らませた。
「ごめん」
俺が頭を下げるとミカンは、
「許す」
と言って、ニカッと笑った。
その隣でヨウジョラエルがマネをした。
その可愛らしさに俺とワイズリエルは思わず微笑んだ――のだけれども。
それと同時にクーラが、
「あの、カミサマさん。また、森を増やしましたね?」
と言って画面を指差した。
俺は、また面倒くさいことを言いはじめたと思いつつ、応えた。
「ああ、南西でしょ?」
「そこもそうですが、製鉄所の南のことを私は言っているのです」
「ああ、あそこ? なんか空きスペースが気になっちゃって」
「突然森ができたら、みなさん驚きますよ?」
「大丈夫、『早送り』しながら植林したから」
と俺は言った。
するとクーラは、ぎこちない笑みで固まった。
場が静寂につつまれた。
で。
ぎこちない笑みで見まわすと、ワイズリエルたちもぎこちない笑みで固まっていた。
「……ご主人さまッ☆ 何年『早送り』したのですか?」
「え? たぶん、1・2年だと思うけど」
「……ご主人さまッ☆ 今、モンスターは野生化しています。繁殖行動をとるかもしれませんし、野生動物との雑種が生まれてしまうかもしれませんッ☆ それに、もしかしたら知性を獲得するかもしれませんッ☆」
「あっ」
「ご主人さまッ☆ 豚は1回の出産で10頭ほど生み、1年で大人のサイズになるのですがッ☆」
「はい」
「もし、モンスターがそのような繁殖力を獲得していたら危険ですッ☆」
すんません――と、しょんぼり言ったら、
「エッチ1回の貸しですッ☆」
などと、わけの分からないことを、ワイズリエルはバチバチのアイドル笑顔で言った。
するとミカンが便乗して、
「ああ、エッチ1回で許してやンよー」
と、なぜか勝ち誇ったように言った。
その隣でヨウジョラエルが、
「ゆるしてやんよ~」
と、無垢な笑みでマネして言った。
いや、キミはダメだよ――と幼女に微笑みを返すと、
「もう、なにをやっているんですか」
と言ってクーラが、まるでお母さんのようなため息をついた。
「うーん、ごめん。ほんと申し訳ない」
俺は泣き笑いの顔をして頭をかいた。
すると即座に、
気にすンなよ――と言ってミカンが、ぽんと肩を叩いた。
きにす~なよ――と、ヨウジョラエルが飛び跳ねるように言った。
「きゃはッ☆ これからのことを考えましょうッ☆」
と、ワイズリエルがウインクをキメた。
で。
「そうですね。カミサマさん、これからはちゃんと観察してください」
と言って、クーラがその切れ長の瞳を細めた。
青い髪を耳にかけ、姿勢を正した。
「はァ」
俺は身構えた。
「カミサマさん。これからは、どんな些細なことでも見逃さないようにするのですよ?」
「はァ、はい」
「なんですか、その気のない返事は」
「だって」
「だってではありません。カミサマさんは神なのですから、きちんと監視してくださいっ」
いいえ、するのです――と、クーラは言った。
言い直して、強調しやがった。
「いいですか、カミサマさん。きちんと監視するのですよ?」
「それは、この広大な地上界のすべてを監視しろ――という意味ですか?」
「もちろんです」
ですよねえ――と俺は笑い。
頭をかいて、しばらくののち。
「って、できるか!」
と叫んだ。
慣れないノリ・ツッコミを俺はキメた。
キメ顔でキメた。
そのあまりのイケてない感じに、ミカンたちは笑い転げた。
クーラもつられて笑ったが、しかし、「俺が24時間体制で地上界すべてを監視する」という案を取り下げようとはしなかった。
「まいったな」
「なにがですか」
クーラがため息をつく。
俺もため息をつく。
そんな俺たちを、ほかの娘たちはニヤニヤしながら見ていた。
しばらくするとワイズリエルが助け舟を出してくれた。
「ご主人さまッ☆ 録画機能をもつ人工衛星を創ってはいかがですかッ☆」
「衛星で地上界を録画するのか」
「はいッ☆ 衛星でアダマヒア周辺を撮影&録画するのですッ☆」
「なるほど。もしなにかあれば録画データを調べればいい」
「はいッ☆ モンスターに攻撃されないよう、大気圏外から撮影することをオススメしますッ☆」
「分かった」
俺はさっそく録画衛星を創った。
それと同時に、クーラが悲鳴を上げた。
俺のテキトーな創造が気にくわないからだ。
ただ、言わせてもらえば、俺が即行かつテキトーな創造をするのは、クーラがいちいち言ってくるのが面倒だからである。……。
「さっそくモンスターを撮影&録画しよう」
「はいッ☆」
「じゃあ、ほかになんかある?」
「あとは、そうですね……」
「穂村とアダマヒアの交易かなあ」
「そうですねえ」
などと俺とクーラが考えていると。
「放っておけよ」
と、ミカンが言った。
俺とクーラが顔を上げると、ミカンは生意気なその鼻をこすって言った。
「放っておいても平気だって。あたしたちの村はずっと放置されていたンだろ?」
「穂村は、まあ……」
「放置してただろ。ワイズリエルに聞いたぞコラァ」
「……うん」
「だから大丈夫だって。放っておいても勝手に繁栄すンよ」
そう言ってミカンは胸を張った。
ぷるんと、いや、ばいんとその悪魔的なおっぱいが揺れた。
思わずつばを呑みこむと、ミカンは優越感に満ちて言った。
「好きにやらせろよ、な?」
しばらくの後、俺たちは頷いた。
ミカンの根拠のない自信と、その態度に屈してしまったのである。――
「ていうか、そんなことよりワイズリエル」
「なんでしょう、ミカンさまッ☆」
「あたしたちの仲間だよ。あたしたちの仲間を探そうぜ」
そう言って、ミカンは満面の笑みをした。
するとワイズリエルは、
「いいですねッ☆」
と言って、バチッとウインクをした。
その横でクーラが、
「私も賛成です」
と言って、その美しい切れ長の瞳を細めた。
そんな彼女たちを見て、俺がうなだれたのは言うまでもない。
「なあ、カミサマ。昨日、ワイズリエルと話したんだけどな。あんたの『嫁』は、あたしたちのほかにもいる」
「はァ」
「間違いない。何人なのかは分かんないけど、あたしたちの仲間は、まだいるンだよ」
「……はァ」
「来月はそいつらを探そうぜ」
「視れば分かると思いますよッ☆」
「ええ。私たちが視れば、きっと仲間だって分かります」
「よしっ、じゃあ来月は仲間を集めようぜ!」
と、ミカンは俺の返事を待たずに言った。
「地上界に飛び散った『カミサマさんの嫁』を集めましょう」
「前世で嫁だった皆が集結するのですッ☆」
ふたりの美少女が可憐な笑みで賛同した。
「そんなっ」
そんな陽気に、里見八犬伝みたいなことを言わないで欲しい。
俺は、まるで足を踏まれたような――そんな顔をした。
頭をかかえた。
ワイズリエルたちは、いつまでも楽しそうに作戦を練っていた。――
――・――・――・――・――・――・――
■神となって1ヵ月と30日目の創作活動■
森を増やした。
地上界を撮影する人工衛星を創った。
……しばらくはモンスターを注意深く観察していきたい。それと、ミカンたちが仲間探しをするとか盛り上がっているけれど、もちろん俺はそのことからは全力で目をそらし、創世に注力するつもりである。




