24日目。因襲
穂村の歓待は、日付が変わるまで続いた。
年寄りのクセに、よく起きてるな――と思い、それとなく聞いてみたら、どうやら昼寝をたっぷりしておいたらしい。
「ということは、俺を泊めることは来たときからすでに決定していたわけか」
俺は、呆れたのか感心したのかよく分からない、ため息をついた。
それで歓待がお開きになると、今度は家に連れられた。
ここに今夜は泊まれという。
風呂や飲み水などの簡単な説明をうけた。
俺はひとりになると寝室にむかった。
家中の灯りがついていたが、消すのも面倒だった。
そのまま寝ることにする。
寝室に着く。
ふすまを閉めて、なかに入る。
するとそこには。
「よっ、よろしくお願いっ、します……」
「よろしくおねがいします」
ふたりの女の子がいた。
「「よろしくお願いしますっ」」
女の子は仲良く並んで正座をしていた。
ちょっと茶色かかった黒髪の、クマのぬいぐるみっぽい女の子。
もうひとりの女の子は、すこし幼いが、やはりぬいぐるみっぽい。
姉妹だろう。
どちらも着物のむねに『ほ』と書かれている。
おそらく穂村の『ほ』なのだろう。……。
俺は動揺を隠しつつ、とりあえず布団に座った。
散々飲まされた酒が気持ち悪い。
早く横になりたかったが、しかし、この娘たちを無視するわけにはいかなかった。
いや。
無視して寝ちゃえば好いんじゃね? ――とも、一瞬思いはしたのだ。
しかしそれと同時に、
ふと。
俺は気がついたのだ。
「……神の力で、酔い覚ましできねえか?」
で。
さっそく試しにやってみた。
「うーん」
気持ちの悪さは抜けたけど、眠気と気だるさは取れなかった。
まあ、まる一日、村をたらい回しにされたからな。
気疲れしちゃったんだろ。
「それで、キミたちどうしたの?」
俺は布団に横になりながら、ぼんやり訊いた。
すると姉が答えた。
「妊娠してこいって言われた」
そう言って、挑むような目で俺を見た。
妹が大きく頷いた。
俺は思わず息を漏らすように失笑し、そして詳しく聞いた。
ふたりの話すところによると、どうやらこの娘たちは「俺とエッチをしてこい」と送りつけられたようだ。穂村は小さな山村だから、村人以外の血を入れないといけない。そのためにこの子たちは「子供を宿してこい」と言われたそうだ。
その意味は分かっているのか――と訊いたら、姉はその大きな瞳いっぱいに涙を浮かべ大きく頷いた。
妹は、そんな姉を心配しながらも、慌てて頷いた。
だから俺は姉に訊いた。
「好きな人はいるのかい?」
そう言って困った顔をした。
「わっ、分かんないよう」
と、姉は答えた。
「……おっ、お姉ちゃんが好き」
と、妹は言った。
言った後で顔を真っ赤にして下を向いた。
俺は泣き笑いの顔で頷くと、そのまま布団に入った。
大の字になって、天井をぼんやり見る。
ワイズリエルたち視てるかなあ。
ニヤニヤしてるのかなあ――なんて思いながら、かるく手を振ってみる。
もちろん、リアクションはないのだが、しかし、このとき俺の気持ちは定まった。強制されてエッチをするとか嫌だった。理由が合理的なだけにいっそう気にくわなかったのだ。そこらへん、俺は反骨精神がある……というより割り切れなかったのだ。
「俺さ、事故で子供を作れない身体になっちゃったんだよ」
ウソをついた。
「それに女の子よりも、男に興味があるんだよ」
ウソを重ねた。
誓って言うが、本当にウソである。
「灯りを消してくれないかな? なにもできないけれど一緒の部屋で休もう」
長老たちのところに帰って報告されても面倒だと思った。
それに今気付いたが、男が来たらそれこそ最悪である。……。
で。
しばらくすると。
ふたりはまるで花の咲いたような笑みをした。
慌ただしく灯りを消した。
「えへへへへ」
と言って、姉が布団に入ってきた。
といっても、エッチとかそういうつもりはまるでない。
単純に、ふかふかの布団で休みたい――そんな感じである。
ちなみに、妹は隅でちょこんと横になっている。
こっちはどうやら常識派のようである。
「ねえねえ、お話しようよう~」
姉がもそりと動く。
もう、そんなにくっつかないで欲しい。
暑いし、それに感情を抑えることができない。
このままでは、俺は。
子供を作れない身体になっちゃったと言ったな? あれはウソだ――などと言って、ハリウッドスターばりの不敵な笑みで襲いかかってしまう。
俺は懸命にエロい気持ちを抑えた。
しかし、その努力はすぐにしないで済むようになった。
妹がムードのまるでない、大きな寝息を立てだしたから。
そしてそれ以上に大きな声で、姉がしゃべりまくったからだ。
「ねえねえ、聞いてよ聞いてよ。今日、お父さんがねっ」
灯りを消した途端、まるで別人のようにしゃべりだす姉に、俺は呆れつつも好意を抱いた。父性に満ちた笑みで、ずっと話を聞いていた。
姉の話はいつまでも終わらなかったが、そのことで、俺は穂村のことを詳しく知ることができた。
まあ、半分は愛情に満ちた家族への文句だったのだけれども。――
朝になると、俺は村人に見送られて崖に行った。
「ミカンは、ここから登ったんじゃろ。あんたなら登れるわい」
長老はものすごい笑みで言った。
おそらく、俺が姉妹を抱かなかったことが、気にくわないのだろう。
そんな長老たちの笑みを見て俺は、まあ、心配ないとは思いつつ、「姉妹に危害が及ばないよう、それとなく天空界から干渉しよう」と、決めたのだった。
その後、俺はこっそり神の力を使いつつ崖を登った。
そしてこの日はまる一日、山を歩いた。
川伝いに尾根を目指し、アダマヒアに抜けるルートを探しつつ歩いたのだ。
なぜなら。
天空界に戻るチャンスがなかったからだ。
村を出てからずっと、何者かの視線がべっちゃりと張りついていたからである。
――・――・――・――・――・――・――
■神となって1ヶ月と24日目の創作活動■
穂村の姉妹と一晩過ごした。
……といっても、一緒に睡眠しただけだ。姉の話をずっと聞いていただけである。




