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23日目。和の国

 昼食を終えてソファーに座った俺は、

穂村(ほむら)とアダマヒアを交易させたいんだけど」

 と言った。

 ワイズリエルは()いた。

「どのようなルートですか?」

「こんな感じなんだけど」

 俺は画面にルートを描いた。

 それは、崖を降りて南から山脈を大きく迂回するルートだった。



挿絵(By みてみん)



「とても良いです、ご主人さまッ☆」

「というか、これしかないと思うんだけど」

「きゃはッ☆ たしかに北は、ものすごい雪だから無理ですねッ☆」


「それに山越えはできるかもしれないけど、現実的ではないよ。交易品を持ってなんか、まず越えられない」

「モンスターや野生動物もいますしねッ☆」

「まあね」

 そんなことを話していたらクーラがやってきた。



「でもこの前、私とカミサマさんで山頂アタックをしたではありませんか」

「いや、まあ、あれは……」

「なんですか」

「はァ、はい」

 俺は頭をかきながら説明した。


「あのときのクーラは『山頂につくまで絶対に帰りません』って言いそうだったから」

「当たり前です」

「やっぱりなあ」

「なにを笑っているのですか」



「だってあの山、一番高いところ万年雪だったぞ? とても無理だよ」

「ヒマラヤ山脈に属するアンナプルナは標高約8000メートル、アダマヒアの山頂付近はそれをミニチュア化した感じですッ☆ ちなみに、アンナプルナの別名は『キラーマウンテン』。登山者の死亡率がナンバーワンなのですッ☆」

「おまえっ」

 そんな山を俺に創らせたのか。

 ヨウジョラエルに模写させたのか。


「そうだったんですか。でも、私たちは登頂しませんでしたけど、それでもかなり近い場所まで」

「ごめん、ズルしちゃった。神の力をこっそり使ったんだよ」

 俺は素直に謝った。

 クーラは絶句した。

 もう! ――と言って、ぺちんと叩かれた。

 くやしそうな目で睨まれ、そして恥ずかしそうな顔で笑われた。





「それで、話は戻るんだけど――。今日は、商人のフリをして穂村に行ってみようと思う」

「素晴らしいアイデアです、ご主人さまッ☆」

「良いですね。上手くいけば、武装商人を撤去できるかもしれません」


「あっ、ああ」

 そこまでは、実は考えていなかったんだけど。

 俺は何食わぬ顔をして、ふふんと鼻を鳴らした。

 そして、前もって調べておいたことを伝え、アドバイスを求めた。

 すると、ワイズリエルは村の様子を一通り確認してから言った。



「この穂村の政治形態は、とても特異で、しかも日本的ですッ☆ そこだけは気をつけてください、ご主人さまッ☆」

「特異で日本的?」


「聖徳太子の十七条憲法で説明すると簡潔ですッ☆」

 そう言って、ワイズリエルはバチッとウインクをキメた。



■――・――・――・――・――

十七条憲法


1.()()って(とおと)しとなし……

2.(あつ)三宝さんぼううやまえ……

3.(みことのり)()けては必ずつつしめ……

4.群卿百寮(ぐんけいひゃくりょう)、礼をもって(もと)とせよ……


《以下省略》

■――・――・――・――・――



「1は、『和』が一番大切だと言っていますッ☆ 2は、その次に『三宝』仏の教えが大切だと言っていますッ☆ 3は、『天皇』の命令には絶対服従ッ☆ 4は、役人は礼を大切にせよッ☆ そして5以降に、規律について厳正にせよと記述が続きますッ☆」

「そうだったんだ」


「この十七条憲法にまつわる諸々は創作だという疑いがありますが、そのことには触れませんッ☆ ここで重要なのは、この十七条憲法が日本人のメンタリティ……そして、穂村の人々のメンタリティを的確に表していることですッ☆」

 そう言ってワイズリエルは、ちょこんと舌を出した。

 俺の面倒くさそうな顔を、するどく読みとったからだ。



「穂村の人々は『和』……すなわち村人の納得を最優先としますッ☆ それは、宗教の教えよりも、村長の命令よりも優先されますッ☆ 村人は、この三つの順に従います。そして、その次に重要視されているのが『礼節』ですッ☆」

「なるほど日本的だな」


「そして、この4つの後に法規則の遵守ですッ☆ ようするに穂村の人々は、規則よりも、村人の『和』を重要視しているのですッ☆」

「それは、法律があってないようなもの――という意味か」

「はいッ☆」


「やっかいだな」

「お気をつけくださいッ☆」

 そう言ってワイズリエルは俺を玄関まで見送った。

 クーラは一緒に来ようとしたけれど、きっと村人とケンカになると思ったから断った。

 で。

 村に降りた俺は、その判断が正しかったことを痛感した。――





 俺は商人をよそおって、穂村に降り立った。

 そして、交易をしたいと言った。

 その反応は最悪なものだった。


 穂村の村長は、まったくの名誉職で決定権が一切なかった。

 しかも、まるで自治会長かマンションの理事長のように、1年ずつ持ち回りでやっていた。



 だから臨時会議を開いても、話がまったくまとまらない。

「勘弁してください」

 と、アイマイな返事と笑顔で何度も謝ってくる。

 だったら個別に交渉して良いかというと、それがそういうわけにはいかない。


 村には、村長の議会とは別に、長老会のようなものがあった。

 それの了承を得ないと、村人はなにもできないのだ。

 この仕組みが分かり、長老会との話にようやく辿りついたのは、もう、日が暮れかかった頃だった……――。




「――……分かりました。まずは試しに村のコショウをお売りしますのじゃ」

「ありがとうございます」

「しかし、あんた。こんなへんぴなところに、よう辿りついたのう」

「はァ。南に大都市があると聞いて、それを目指していたのですが、いつの間にか山脈をぐるりと(まわ)っていたようです」


「ほうほうほう。では、次からは山を越えるとええ。山の西側にあんたの国があるんじゃろう?」

「おそらく、そんな位置だと思いますけど」

 そう言って、俺はわざとらしく山脈を見上げるフリをした。

 無理ですよ――と、泣き笑いの顔をした。

 すると別の長老が言った。



「あんたなら大丈夫じゃろう。実は今朝、うちの村の娘が飛び出しよったんじゃ。崖を登って山の向こうに行ったのに、まず間違いない」

「まさかっ」

 と俺は、思わず大声をあげた。

 山越えをする村人が他にも居るのか――と、訊こうとした。

 しかし、違う長老がまた別のことを言った。


「娘っつっても二〇歳を過ぎておる。それなのにまだ結婚をせん。ハネッかえりじゃあ」

「……はァ」

「ミカンっつーの。刀工だったオヤジが、はやくに死んでしまっての」

「それはっ」

 キヨマロの娘のことかと思い、しかし、俺は懸命に表情を隠した。

 すると長老たちが、わずかに目を細めた――ように見えた。




「ああ、それとあんた。よかったら今晩は泊まっていきんさい。もう日が暮れとる」

「はァ、でも」

「村人も歓待したいと思っておるじゃろ」

「いや、せっかくですが急いでおりますので」

 そう言って俺は立ち上がろうとした。

 すると、長老たちが次々と、あたりを見まわしながら言った。


「村人も歓待したいとォー、思っておる」

「そうじゃそうじゃ」

「あんたもそうじゃろ、そうじゃろ」

「みんな歓待したいんじゃのう」

「なあ! 婆さんや、なあァ!?」

 有無を言わさぬ長老たちの大声だった。

 それで、村はあわただしく動いた。

 そして俺は結局、村をあげての歓待をうけたのだった。――



――・――・――・――・――・――・――

■神となって1ヶ月と23日目の創作活動■


 穂村に宿泊することになった。



 ……ほんと年寄りは人の話を聞かないよな。



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