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22日目。アダマヒア王国の自立

 俺たちはリビングでテレビを観ていた。

 そこには、アインが息をひきとった後のアダマヒアが映っていた。


挿絵(By みてみん)


「ご主人さま、アインは様々な功績を残しましたッ☆ 目に見えるところでは、アダマヒアの遷都(せんと)、絶対王政への移行、そしてこれはツヴァイとの共作とも言えるのですが、騎士団の完全従属化、処罰の厳正化ですッ☆」

「ああ」


「しかし、この時代最大の功績……偉大なる功績は、国王たちが『神の視点』を持つようになったことですッ☆」

「神の視点?」



「国王たちが100年後、いえ、1000年後を意識しはじめたのですッ☆ これは偉大なる一歩です、ご主人さまッ☆」

 そう言ってワイズリエルはバチッとウインクをした。

 俺とクーラは微笑みながらも首をかしげた。

 その姿をマネして、ヨウジョラエルが首をかしげた。

 すると、ワイズリエルは説明をはじめた。




「ご主人さまは、神となられてからずっと先を見て、遠く先のことを考えながら創世をしてきましたッ☆ ですから当たり前に思うかもしれませんが、しかし、地上界の王たちは、今までそのような視点で政治をすることができませんでしたッ☆ 目の前のことで精一杯だったのですッ☆」

「いや、実際忙しいよ、彼らは」

 ここで呑気にやってる俺と比べたら可哀想である。


「そんななか、元騎士のアインが王となりましたッ☆ 彼は、インディアナ・ウーツと聖ダマスカスが死後100年以上経ってから再評価されたことを、身近で見ていますッ☆」

「ああ、なるほど」



「つまりッ☆ 自分は100年後にどう評価されるのだろう? ――と、アインは考えたのですッ☆」

「そして、100年後のアダマヒア王国はどのようになっているのだろう? ――とも、考えるようになった」

「さすがです、ご主人さまッ☆」


「さらには、100年後のアダマヒア王国のために、自分はなにができるのだろう? ――と、アインは考えた」

「それが『神の視点』です、ご主人さまッ☆」

 それをアダマヒアの王は持つようになったのか。

 それが偉大なる功績というわけか。




「その証拠にご主人さまッ☆ アインは悪評がつくのを知って、あえて行動していますッ☆ これは、後世を意識しての行動ですッ☆ 100年後、1000年後のアダマヒア王国を考えての行動を彼はとったのですッ☆」

「すげえな」

 正直に言うと、俺はそこまで考えていない。



「アインはツヴァイを聖人認定すると、その短い生涯を終えましたッ☆ しかし、彼の遺志は息子……若き王に引き継がれましたッ☆」

「若き王って、まだ十代だろ!?」


「アインの息子ドライッ☆ まだ、十代後半ですが、立派な絶対王政の王ですッ☆ そして、偉大なる父王アインを『愚王』と評したのは彼ですッ☆」

「はあ。ひょっとして仲が悪かったの?」



「逆です、ご主人さまッ☆ ドライは父王アインを尊敬しています。また、彼の政策は、アインの路線を忠実に引き継いでおりますッ☆ だから、アインを『愚王』と評したのですッ☆」

 そう言ってワイズリエルはバチッとウインクをした。

 ヨウジョラエルが、すばやく首をかしげた。

 それを追うようにして、俺とクーラは微笑みながらも首をかしげた。

 すると、ワイズリエルは言った。




「アイン政権のテーマは『処罰の厳正化』でしたッ☆ ですから、アイン路線を引き継いだドライは、アインを罰しなければならなかったッ☆ アインが、自殺したツヴァイを聖人認定したからですッ☆」

「それは」

 と、クーラが呟いた。

 ワイズリエルは補足した。


「絶対王政になったばかりのアダマヒアでは、王を罰することはできませんでしたッ☆」

「『愚王』と評することが精一杯の処罰だったのですね?」



「はいッ☆ それと、心情と規則とのギャップをこの時代ではうまく解決できませんでしたッ☆」

「心情的にはツヴァイを褒めたいが、規則では罰せねばならない――という」


「この問題の解決を、アインは後世に託したのですッ☆」

「そして息子は、その遺志を正しく理解した」





「若き王ドライッ☆ 彼の持つ黄金剣は、公正な裁きの象徴ですッ☆ その光によってアダマヒアの未来を照らしますッ☆」

「黄金の剣?」


「斬れませんッ☆ これは絶対王政の根拠が武力ではないことを表していますッ☆」

「なんだか、すごいヤツだな」



「太陽王ドライ――と、民は彼を呼びますッ☆」

「太陽王……」

「見てくださいッ☆」

 画面に大きく映された十代の若者、太陽王ドライ。

 彼の(あお)い瞳には、情熱の炎が宿っていた。

 民衆に向けて高らかに黄金剣を掲げていた。

 その、まるで太陽のような笑顔に、俺たちは胸が熱くなった。



「彼は絶対王政の王ですが『国王は、法の、ひとり目の下僕』と主張していますッ☆」

「すなわち、絶対王政の王であっても、法のもと公正な裁きを受ける」


「はいッ☆ これは絶対王政のなかでも『啓蒙(けいもう)専制君主』に近しい思想、十八世紀の考えかたですねッ☆」

「……それは、喜ばしいことなのか?」

 と、俺はおそるおそる訊いた。

 その意味がよく理解できなかったからだ。


 クーラはワイズリエルを見つめ、つばを呑みこんだ。

 ヨウジョラエルは話に飽きて、俺のひざで眠っていた。

 ワイズリエルは、満面の笑みで頷いた。

 そして言った。



「今、アダマヒアは1000年先を見通す神の視点を手に入れ、思想をも成熟させましたッ☆ ご主人さまの庇護(ひご)がなくても、歩めるようになったのですッ☆」

 それからバチッとウインクを決めて、念を押すように言った。



「アダマヒア王国は今、完全に自立したのですッ☆」



――・――・――・――・――・――・――

■神となって1ヶ月と22日目の創作活動■


 アダマヒア王国の自立を実感した。



 ……これで今月の目標は達成した。明日からは穂村を観察する。ちなみに、どさくさに紛れて西部の森を増やしたことを、クーラにするどく発見されてしまった。ほんとよく気付くよなあ。



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