表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/128

18日目。動物

 早朝。

 モンスターについて話があると、クーラが言った。


「野生動物に勝てないのです」

 詳しく聞いてみると、山に生息する野生動物に、モンスターが勝てないのだという。

 野生動物が、モンスターに対抗するべく、どんどん強くなっている、強く進化しているというのだ。



「山脈を調べましたが、ヤギ・シカ・野牛・イノシシ・オオカミ・クマ・ワシ・タカ・ヘビなどが生息しているようです。どれも中世ヨーロッパに存在した動物のようですが、ただ、このうちオオカミとヘビが」

「なにか問題でも?」


「日本に生息していた種でしたよ」

「はァ」

 また細かいことを言いはじめた。


「じゃあ、直すよ。あとで直しておくよ」

「結構です。もう、独自の進化をとげて、よく分からない動物になっています」

「だったら」

 いちいち言わなくても()いじゃんかあ。



「それで、ここからが問題なのですが――。さきほどお話しした野生動物のうち、クマと野牛、そしてワシがとても強く進化しています」

「……どうすればいいかな?」


「分かりません。ただ、どんどん強く進化していくので、モンスターの最低ラインをそこにあわさざるを得ないのです」

「なるほど」


「あの、カミサマさん。もしよろしければ、これから山に行きませんか? 運がよければ、野生動物に遭えるかもしれません。そうすれば」

 モンスター強化のなにかヒントを得られるかもしれません――と、クーラは言った。

 その有無を言わさぬ笑顔に、俺は苦笑いで頷いた。――





 地上界に降りた俺とクーラは、アダマヒアの東の森から、川伝いに山頂を目指した。

 山と山の間……尾根と尾根の隙間を()うように進む、沢登りというスタイルだ。



挿絵(By みてみん)



「この山脈は、標高二〇〇〇メートルを越えた山が多いですからね。高山病に気をつけましょう」

 一般に、高山病は、標高二〇〇〇メートルを超えたあたりから発症する。

 体調の優れない者は、一五〇〇メートルを超えたあたりから発症するという。

 高山病の恐ろしさは、運動失調と判断力の低下、そして自覚症状がないところにある――らしい。

 俺は――たぶん神だから平気だけれど――クーラの指示におとなしく従った。

 クーラは、ものすごく活き活きとしていた。



「沢には石がいっぱいあって、走るのとはまた違った筋肉を使うでしょう?」

 小石が一面に敷き詰められたゆるい斜面……いわゆるザレ場を器用に歩きながら、クーラは微笑んでいる。


「まっすぐに立って、ゆっくり加重するのですよ」

 クーラは嬉しそうに、まるで聞き分けのない子を(さと)すように語りかけてくる。

 俺は、不安定な足場、木の根や溝状の道に苦戦する。

 そんな俺の前を、クーラは歩いてる。

 可憐に微笑み、山歩きを楽しんでいる。



 俺は、そんなクーラを見て、鼻の下を思いっきり伸ばしていた。

 いや。正確に記述すると、あの、ひらひらとした登山服のスソに視線を吸引されていた。


 リュックの下からチラチラと見えるお尻が扇情的(せんじょうてき)だった。

 スレンダーなのに、そこだけはムチッとしている腰まわり。

 ぴちっとしたパンツに浮かび上がった下着のシルエット。

 それらが抜群にエロかった。

 俺は、しばらく目が離せなかった。

 ガン見しながら、こっそり神の力を使った。登山のペースをアップした。

 俺は軽く自己嫌悪になりながら、渓谷沿いを歩いていた。……。




 俺たちは――神の力によって――順調に進み、お昼をすぎた頃には、秘密基地のあったあたり、尾根をはさんだその裏側に到着した。

 そのまま川沿いを北東へと向かう。

 ゆっくり川をなぞるように歩くと、そのうち尾根にぶつかった。


「山頂までつながってますよ」

 とクーラは言った。

 その後、尾根をどんどん上って、俺たちは山頂を目指した。



「こういったところで、クマは山菜採りをするみたいですよ」

「クマが出るのか」

「ええ」

「はァ」

「とにかく進みましょう。山頂アタックです。きっと、とても素敵な景観ですよ」

「はあ……」

 クマが出たら、やっぱり俺が倒すのかな。

 とりあえず日本刀を創ってみた。

 これで倒せるのかはよく分からないが、まあ持っておくか。

 そんなことを思いながら、俺は後ろをついていった。――




 山頂が見えはじめたところだった。

 クーラが突然、歩みを止めた。

 ここからは、クマのテリトリーだという。

 遭遇する可能性が出てくるという。

 俺はつばを呑むように頷いた。

 緊張で言葉が出ない。

 神のクセに。

 ……。


 俺たちは尾根を北にそれて、なだらかな斜面から、別の尾根へとアプローチすることにした。

 いったん下る。

 徐々に登って段差が大きくなってくる。

 足元には大きな岩や石。歩きにくい道。

 いわゆるガレ場。


 ――この近くにクマが居る。


 そう思うと、足が前になかなか出なかった。

 俺は神なのに。

 きっと、クマなんか余裕で倒せるのに。

 それなのに、俺はなかなか進めなかったのだ。


 そんな俺の眼前で、クーラがそっと手を横に出した。

 歩みを止めている。

 前方に黒いかたまりがある。

 緊張が走る。

 しばらくそのまま硬直していると。



「ごめんなさい。根株(ねかぶ)でした」

 と、弛緩(しかん)してクーラが振り向いた。

 彼女は、黒い根株をクマと見間違えていた。


 なんだァ――と、俺は頭をかいた。

 元気を出していきましょう――と、クーラが朗らかな声を放った。

 そして、一歩。

 右足を前に出したときだった。



 もそり。

 根株の後ろから、クマが現れた。

 ヒグマ。

 羆(学名:Ursus arctos):哺乳綱ネコ目(食肉目)クマ科クマ属。

 ヒグマは気だるそうに前に出ると、ゆったりと立ち上がった。




 五メートル。

 立ち上がったヒグマの高さは、ビルの二階の高さ。

 おそらく五メートルだろう。

 しかし俺には、もっと大きく見える。

 声が出ない。

 身がすくむ。

 心が萎える。

 気を呑まれ、俺はただ立ちつくしていた。すると。


「去りなさい……」

 クーラは息を吐きだすように言った。

 そして俺の持っていた日本刀をつかんだ。



 その日本刀を、クーラは油断なくヒグマに向けた。

 クーラは気力を充実させた。

 そうやって気組みでヒグマを圧した。

 俺はヒグマを視たまま立ちつくしたままである。


 俺はこのとき、思い知った。

 実際にヒグマと対峙して理解した。


 神の力とか、チート能力とか関係ない。

 マジでブルっちまってる。

 ガチで動けない。

 逃げようと思っても逃げられない。

 頭のなかが真っ白で、なにも考えることができない。……。




 日本刀を構えヒグマを(にら)むクーラ。

 その後ろで硬直している俺。

 そんな俺たちをヒグマは視てる。

 背を伸ばして、(のぞ)くように眺めてる。

 じりじりと、クーラが間合いを詰める。

 詰める。

 すると――。

 ヒグマは突然、左前方に跳んだ。

 そのまま森の茂みに入って、ヒグマは去った。



「もうダメかと思ったあ……」

 へなへなとクーラは座り込んだ。



――・――・――・――・――・――・――

■神となって1ヶ月と18日目の創作活動■


 野生のヒグマと遭遇した。



 ……このあとメチャクチャ怒られた。クーラは、なにかモンスター強化のヒントをつかんだようで、天空界に帰ると懸命にモンスターに変更を加えていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ