17日目。還俗王
今朝、目が覚めると女体がおおいかぶさっていた。
ヨウジョラエルにしては、やわらかいなと思っていたら、
「むにゃあッ☆」
と寝ぼけた声がして、その女体は俺の頬に手を伸ばした。
ワイズリエルだった。
なにをやっているんだ――と驚き、起き上がろうとしたら、手をつかまれた。
そして、その手をお尻に持っていかれた。
愛でろ――と、いうわけだ。
俺は眉をひそめ、ヨウジョラエルを確認した。
ヨウジョラエルは、俺のもう片方の手を握って熟睡していた。
で、結局。
俺は、女の肌の感触と、いい匂いには勝てなかった。
しばらくワイズリエルのお尻を撫でながら、ぼんやりとした寝ぼけた時間を楽しんだのだ。――
「ご主人さまッ☆」
ワイズリエルは俺の胸に顔をうずめ、上目遣いで言った。
「アダマヒアのことなのですが、今、よろしいでしょうかッ☆」
「……あっ、ああ」
ワイズリエルは、にたあっとスケベな笑みをした。
するすると這い上がって、耳もとで息を吹きかけるように囁いた。
「ご主人さまッ☆ 唐突な話で恐縮なのですが――ッ☆ 先日、アダマヒアの王が死にましたッ☆」
「えっ?」
「病で急に亡くなったのですッ☆ それで、アダマヒアは世襲君主制なので彼の親族が次の王となるのですが、そのことで少し混乱がありましたッ☆」
「もめたのか?」
「いえッ☆ 王には子がなかったのですが、弟の息子……甥がちょうどよい年齢でしたッ☆ しかも、その甥以外に、王に適した者がいませんでしたッ☆」
「問題なさそうじゃないか」
「はいッ☆ 後継者争いにはなりませんでしたッ☆ ただ、この甥は騎士だったのですッ☆」
「ん?」
「甥は聖バイン教会に所属していました……すなわち騎士でもあり修道士でもあったのですッ☆」
「それに問題でも?」
「修道士は世俗と切り離されておりますッ☆ ようするに、修道士になったら政治参加ができないのですッ☆」
「ああー」
「というより、のちのち後継者争いが起こらないように、この甥は、騎士となったのですッ☆」
「それなのに、王が後継者を残さず死んでしまった」
「はいッ☆」
「じゃあ、甥は教会を辞して世俗に戻ったのか」
「はいッ☆ 還俗といいますッ☆」
ようするに今の王は、還俗して王となった元・騎士(かつ修道士)というわけだ。
「よく分からないんだけど、それってなにか問題なのか?」
「還俗そのものに問題はございませんッ☆ このような例は、中世ヨーロッパよりも中国や日本の支配者に多くみられますッ☆ 足利義教が有名でしょうかッ☆」
「はァ」
「しかも、アダマヒアの新たな王――アインといいます――は、騎士団にいたころから多くの騎士に慕われておりましたッ☆ それに総長とは親友ですッ☆」
「問題ない、というか」
「はいッ☆ 新たな王は、騎士団と教会から絶大な支持を得ていますッ☆ この、還俗王アインと騎士団との強固な結束は、新生アダマヒア王国の強みですッ☆」
「新生アダマヒア王国か。ふふっ、なんだかワクワクする言いかただな」
「きゃはッ☆ 還俗王アインと騎士団の総長は、二十代後半ですッ☆ 若者とまでは言えませんが、しかし、今までの王に比べて若く、情熱と行動力にあふれていますッ☆」
「好いことじゃないか」
俺たちは満ち足りたため息をついた。
しばらくすると、ワイズリエルは俺をうかがうような瞳で見た。
まるでなにか言いたいことでもあるような、そんな瞳で。
「ご主人さまッ☆」
と、呟きながら、俺の頬をさすった。
だから、俺は無言のまま、やわらかく頷いた。
「ご主人さまッ☆ あまり気分のいい話ではないのですが――ッ☆」
「……いいよ」
「還俗王アインを取り巻く環境は、決して良いとは言えないものなのですッ☆」
「どうしてだい?」
「アインは突然、王になりましたッ☆ 当然、王になるための準備や教育を受けていませんッ☆ だから、親族たちや政務にたずさわる者たちは慌てたのですッ☆ しかし、アインは優秀でしたッ☆」
「…………」
「彼は、王の仕事を完璧にこなしましたッ☆ しかも成果を上げ、多くの者から慕われはじめたのです、ただッ☆」
「ただ」
「アインは優秀すぎましたッ☆ こころよく思わない者が出てきたのですッ☆」
「はァ」
呆れて、変な声を漏らしてしまった。
「……彼はもともと騎士です。教会に属していたのですッ☆ このことをネチネチと攻撃する者があらわれたのですッ☆」
「ん?」
「政教分離……すなわち政治と宗教は切り離すべきだという考えかたは、分かりやすく支持されやすいものですッ☆ さらには、文民統制……政治家が軍隊を統制するという考えかたも、広く支持されていますッ☆」
「ああ、なるほど」
「はいッ☆ 還俗王アインは、宗教と軍隊に属していましたッ☆ しかも、そのふたつから、今も圧倒的な支持を得ているのですッ☆」
「だから」
危ぶむ者が出てくるのか――。
「ご主人さまッ☆ 彼を取り巻く環境は、これから相当厳しいものになるでしょうッ☆ しかし、ご主人さまッ☆ 私はそれを知っていて、あえて、このまま一切の干渉をしないことを進言しますッ☆」
「それは?」
「ご主人さまッ☆ 還俗王アインをこのまま追い詰めれば、アダマヒアは絶対王政に向かいますッ☆ そしてその政治形態は、ご主人さまが理想とする『剣と魔法のファンタジー世界』に最適なものなのですッ☆」
「………………」
「すみませんッ☆」
「謝るなよ」
俺は、ワイズリエルをきつく抱きしめた。
嫌な仕事をまかせてしまった。
進言させてしまったな――と、俺は父性に満ちたため息をついた。
「ごめんね」
と、彼女の心労をいたわった。
すると、ワイズリエルは、
「やさしくしないでくださいッ☆」
と消え入るような声で言って、それからつけ加えた。
「やさしくされると、エッチしたくなりますッ☆」
……あのなあ。
ツッコミを入れる気力はなかったが、しかし無言で引っぱたいた。
するとワイズリエルは、きゃはッ☆ と、可愛らしく舌を出した。
――・――・――・――・――・――・――
■神となって1ヶ月と17日目の創作活動■
新生アダマヒア王国に、絶対王政のきざしを確認した。
……還俗王アインには、これから辛い思いをさせることになる。




