表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/128

13日目。東の村

 今朝。

 ヨウジョラエルと一緒に、モンスターの配置をしていたときのことだった。



「おにいちゃ~ん、むぎゅうぅ~」

「こっ、こらっ」

「ワイズリエルごっこだよ~」

 俺は幼女に抱きつかれソファーから転落した。

 その衝撃で、アダマヒア周辺を映すカメラが移動した。


「おにいちゃん、あれなに~?」

「あっ!?」

 そして俺たちは山脈の向こう側……東に村を発見した。



挿絵(By みてみん)



「普段、(うつ)していないエリアだから気付かなかったけど……」

 俺はヨウジョラエルを抱き起こし、しばらく画面を観たままでいた。

 すると、そこにワイズリエルがやってきた。


「いかがいたしましたか、ご主人さまッ☆」

「ああ、今、見つけたんだけど……」

 事情を説明すると、ワイズリエルは頷いた。

 そして言った。



「しばらく調べさせてくださいッ☆ それと、クーラさまを呼んできてはもらえないでしょうかッ☆」

「ああ、好いよ」

「すみませんッ☆」

「そんなっ」

 気にしないでよ――と、笑ったんだけど。


「エッチしてくると、ちょうど良い時間かもしれませんッ☆」

 と言ってスケベな笑みをしたのには、思わず眉をひそめてしまった。

 だから、かるく小突いて、リビングを後にした。

 玄関を出て、桜のほうを見る。

 するとそこには、クーラがいた。





「こんにちは、カミサマさん」

 クーラは剣と盾を下ろして微笑んだ。


「ああ、剣の修行?」

「ええ。あの、もしかして、なにか地上界のことで問題でも?」

「いや、急ぐことじゃないんだけど。というか、今、ワイズリエルが調べてるところだよ。それで、時間をつぶしてから来い――って言われたんだけど」

「でしたら」

 クーラは切れ長の美しい瞳を細め、まぶしげに微笑んだ。

 で。

 剣の修行に付き合わされることになった。



「カミサマさん。先日、ワイズリエルが言っていた剣の達人のことですが」

「ああ、黒田鉄山だっけ? 神速の居合術とかいう」

「ええ。カメラでとらえることの出来ない抜刀術です」

「すごかったねえ」

 俺は先日観た動画を思い出し、うっとりした。

 いつまでも、うっとりしていると、

「もう、しっかりしてください」

 と、クーラにため息をつかれた。


「カミサマさん。先日観た抜刀術は『神速の』と名付けられていますが、しかし、人間の技です。人間でさえ、技を磨けばあのような速度で剣を扱えるのです」

「人間でさえ――って言うけどさあ」

 その人間は、才能のかたまりで、しかも長年修行を積んでいる。

 誰でも到達できるレベルではないだろう。



「神であるカミサマさんなら、もっと素早く剣を扱えるはずです」

「いやっ」

「もっと精密な動きもできるはずです」

「そんなっ」

「できると思ったものができる。それが神の力だと聞いています」


「弾丸をカタナで斬った動画もありましたよ」

「だからそれはっ」

「頑張ってください」

 そう言ってクーラは、やわらかく微笑んだ。

 こうなってしまっては、クーラは絶対に意見を曲げない。

 俺は泣き笑いの顔をして、彼女と剣の修行をした。



「修行というか……」

 小石を斬ったり、ガンマンの早撃ちのように抜刀したりと、曲芸に近いものだった。

「やればできるではないですかっ!」

「はぁ、すんません」

「なにを謝っているのですかっ?」

「はァ」

 なんだかんだで、できてしまう自分がにくい。

 俺はちょっとだけ()い気分になって、いや、大いに盛り上がって剣を振るった。

 そして――。

 満足すると、俺たちはリビングに戻ったのである。





「ご主人さまッ☆ ちょうど()いところですッ☆」

「ああ、なんか分かった?」

「はいッ☆」

 ワイズリエルは、やわらかな笑みをした。

 その表情を見て、俺とクーラは懸念材料があることを知った。


挿絵(By みてみん)


「ご主人さまッ☆ この東の村は『穂村(ほむら)』と言いますッ☆」

「ほむら?」

稲穂(いなほ)の穂に、村落の村……穂むらですねッ☆」

「なるほど」


「この『穂村』は、アダマヒアの東の山脈……その稜線(りょうせん)を東に越えたところ、崖と崖の間に位置しますッ☆」

「村の西側が断崖絶壁。東側が急な崖になっていて、その下に草原が広がっているのか」



「はいッ☆ おそらく住民たちの祖先は、断崖絶壁を滑り落ちてきた者だと思われますッ☆」

「ということは、アダマヒアの民たちか」

 言ったあとで気付いたが、アダマヒア以外に人間は存在しない。

 もし存在したら大問題である。


「ご安心ください、ご主人さまッ☆ さいわいにも村の歴史が残っておりました。彼らは全員、アダマヒアの民ですッ☆」

「詳しく聞こう」

 俺たちは前のめりになった。

 するとワイズリエルはメガネを、くいっとあげるマネをした。

 そして誘うようにお尻をくねらせ、画面を指して言った。




「『穂村』のルーツは、クーラさまが天上界に来た時点にさかのぼりますッ☆ あのとき、私たちはクーラさまの聖人化を防ぐために『遠くに旅立った』という演出をいたしましたッ☆ それを視て、クーラさまを探し山に入った者がいたのですッ☆」

「そのとき崖から落ちたのか」


「おそらくッ☆ そして奇跡的に助かり、しかし、絶壁を登ることも崖を降りることもかなわず住みついた――それが彼らのルーツ『その1』ですッ☆」

「その1?」



「きゃはッ☆ その2は、私たちにとっては最近の出来事ですッ☆ すなわち、インディアナ・ウーツの『聖魔の鉱石』探索隊ですッ☆」

「まさか彼らも!?」


「はいッ☆ 聖バイン騎士団の『聖魔の鉱石』探索隊が、やはり崖から落ちましたッ☆ しかも、男性の隊が1つ、女性の隊が2つですッ☆」

「なんということだ」



「あれから結構『早送り』をしましたから、100年は経っていますッ☆」

「ということは」

「繁栄していますッ☆」

 俺たちは絶句した。





「ここまでは問題ないのです、ご主人さまッ☆ 彼らはアダマヒアの民、アダムの教え……すなわちご主人さまの意思に従順な者たちですッ☆ しかも聖バインの騎士たちが合流することにより、よりいっそう健全に暮らすようになりましたッ☆」

「なるほど」


「しかし、先日の大雨のとき……ご主人さまとクーラさまが新しい川を創ったあのとき、状況が一変しますッ☆」

「ああ、よく視れば村の南に川がある」



「はいッ☆ この川は、氾濫(はんらん)した水が南に漏れてできたものですッ☆」

「あー」

「秘密基地が流れた川ですッ☆」

「あーって、まさか!?」


「はいッ☆ 秘密基地にあったものが流れ着きましたッ☆ といっても、ほとんどが東の草原に流れ落ちたようですがッ☆」

「問題なのは、何と何だ!?」

 俺が鋭く聞くと、ワイズリエルが言った。



「製鉄の技術ですッ☆ ご主人さまの日記が紙片となり、その一部が流れ着きましたッ☆」

「それが村人に読まれたのか」


「はいッ☆ そして、そこに書かれたことがヒントとなって、製鉄と鍛冶の技術が向上したのですッ☆」

「そっ、それは具体的には、どう問題なのだ!?」



「おそろしく斬れる(カタナ)を生産するようになりましたッ☆ それはこの村独自のデザインセンスと合わさって、まるで日本刀のようなかたちとなっていますッ☆」

「まさかっ」

 と言って、俺は言葉を詰まらせた。

 画面に映る剣は、日本刀そのものだった。

 そしてよく視れば、村は日本の山村そのものだったのだ。




「ご主人さまッ☆ この『穂村』は、その名が示すとおり、稲作農家の集落ですッ☆ しかも、先日流れ着いた唐辛子やコショウなどが発芽し、栽培され、ますます東洋のような雰囲気となっていますッ☆」

「……ああ」


「そのことに問題はありませんッ☆ 問題なのは、その優れた製鉄・鍛冶技術によって、高性能なクロスボウを生産し初めてしまったことッ☆」

「なっ!?」


「そしてッ☆ この村には騎士道のような行動規範がないことですッ☆」

「まさかっ!?」

「はいッ☆ まるでグリーンベレーのようなクロスボウ部隊を編成しはじめていますッ☆」

「グリーンベレー」

「アメリカ陸軍特殊部隊……主に対ゲリラ戦をおこなう部隊のことですねッ☆」

 俺たちは言葉を失った。



「ご主人さまッ☆ 今は問題はございませんッ☆ しかし、近い将来アダマヒアと衝突するようなことになれば、一方的な殺戮(さつりく)になる可能性がございますッ☆」

 そう言ってワイズリエルはひざまづいた。

 深く頭を下げ、俺の指示を待った。

 俺は画面を見つめ、しばらく考えてから訊いた。


「この村のキーパーソンは誰だ?」

 するとワイズリエルは応えた。

「この男ですッ☆」

 着流(きなが)しの、やさしげな()い男が画面に映った。



「キヨマロ――と、呼ばれていますッ☆」

 男は、ふらふらと歩きながらも酒をあおっていた。



――・――・――・――・――・――・――

■神となって1ヶ月と13日目の創作活動■


 東の村『穂村』を発見した。



 ……俺の恥ずかしい日記がどの程度読まれたのか、それが気になってしかたがない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ