12日目。騎士道
昨日。ワイズリエルは、
「騎士道のようなものが生まれつつあるのですッ☆」
と言った。
俺たちは大きくつばを呑みこんだ。
「聖バイン騎士団の剣技は、殺すための技ではありませんッ☆ 捕縛するための技ですッ☆」
「たしかに」
「誤解を恐れず乱暴な言いかたをすれば、それは『手を抜いている』とも言えますッ☆」
「そんなっ!?」
クーラが悲鳴のような声をあげる。
ワイズリエルがそれを制すように言う。
「ええッ☆ 騎士団は手を抜いているわけではないし、侮っているわけでもありませんッ☆ ですが、全力を出さずとも倒せてしまうのは――事実ですッ☆」
俺たちは絶句した。
「これは、モンスターを弱くした私たちのミスですッ☆ 騎士団は全力でぶつからずともモンスターを撃退できてしまうッ☆ だから、殺すことに特化した武器を持たなくなったし、戦闘にいろいろと考える余地ができたからこそ、『騎士道』のような思想を持ちはじめたのですッ☆」
「それは良いことなのか?」
「『騎士道』のような思想を持つのは良いことですッ☆ ですが、モンスターが弱いのは問題ですねッ☆」
「詳しく聞こうか」
俺たちがひざを詰めると、ワイズリエルはバチッとウインクをした。
「まずッ☆ なぜ『騎士道』が生まれたのか――。中世ヨーロッパの場合、それは『騎士が、戦場で兵としての優位性を失った』ことがキッカケでしたッ☆」
「兵としての優位性を失った?」
「はいッ☆ 先日も少しお話しましたが、銃の登場によって、剣と鎧の時代……すなわち中世は終わりましたッ☆ そしてその後の戦場には、銃を持った軽装の兵があふれかえったのですッ☆」
「銃を持った軽装の兵なら、騎士じゃなくてもいい」
「その通りですッ☆ 戦場の主力は軽装のライフル兵になりましたッ☆ 当然、騎士もライフル兵になったのですが、今まで歩兵だった者、貧しい者たちもまたライフル兵になったのですッ☆」
「ようするに、騎士の戦力は、今まで格下だった歩兵たちと同等に見積もられるようになった」
「はいッ☆ というわけで、騎士たちは、歩兵だった者と差別化をはかるために、『騎士道』を生み出しましたッ☆ そしてその規範を実践しはじめたのですッ☆」
「うーん」
「現在のアダマヒアと状況がよく似ていますッ☆」
「モンスターは、騎士でなくても倒せてしまう――というアダマヒア」
「はいッ☆」
「だったら騎士団の存在意義は……」
「ありませんッ☆ だから、騎士団は抽象的・観念的なところに存在意義を見出しはじめたのですッ☆」
「それが『騎士道』」
「さすがです、ご主人さまッ☆」
ワイズリエルはバチッとウインクをキメた。
俺たちは、どういった顔をしたら好いのか分からなかった。
するとワイズリエルは言った。
「騎士団の存在意義については、これはモンスターを強化することによって、すぐに解決するでしょうッ☆」
「でしたら早速」
「はいッ☆ モンスターの攻撃力を高くして、防御力は低めにしましょうッ☆」
「なるほど」
「そうすれば、ご主人さまの望む『剣と魔法のファンタジー世界』に近づきますッ☆」
「剣が斬れるようになるのだな?」
「はいッ☆」
俺とクーラは満ち足りた笑みをした。
「ちなみにご主人さまッ☆」
「ん?」
「アダマヒアに『騎士道』のような行動規範が生まれたのは、とても良いことですッ☆」
「……ああ」
俺とクーラは頷きながらも首をかしげた。
するとワイズリエルは、バチバチのアイドル笑顔をした。
そして言った。
「そもそもの話で恐縮なのですが――。中世ヨーロッパでは人間と人間が戦っていましたッ☆」
「うん」
「そのことによって、自然と戦いの規範……戦争のルールが出来上がりましたッ☆」
「戦争のルール?」
「やってはダメな行動、使用してはいけない武器といったものですッ☆」
「いわゆる『非人道的な~』ってやつ?」
「はいッ☆ 現代でいうと、人質の虐待や化学兵器がそれに相当しますねッ☆」
「それが中世ヨーロッパにもあったと」
俺の問いに、ワイズリエルは満面の笑みで頷いた。
「ご主人さまッ☆ クロスボウ、あるいは弩と呼ばれる、ボルトを放つ特殊弓をご存知ですかッ☆」
「ああ、ボウガンのこと?」
「きゃはッ☆ ボウガンは株式会社ボウガンの商標、和製英語ですッ☆」
そう言ってワイズリエルは、イタズラな笑みをした。
「クロスボウは紀元前6世紀頃の発明で、当然、中世ヨーロッパにもありましたッ☆ ただ、あまりにも破壊力がありすぎたため、使用が禁止されていたのですッ☆」
「なるほど」
「このクロスボウは、先日お話ししたすべての鎧を無効化しますッ☆ 貫通性能はライフル銃と同等、いえ、それ以上かもしれませんッ☆」
「えっ?」
俺とクーラは息を呑んだ。
「そうですッ☆ 中世ヨーロッパの『剣と鎧の戦争』とは、すべてこの『クロスボウ禁止』というルールがあったからこそ成立していたのですッ☆」
「そんなっ」
「すべて茶番だったのか……」
「いえ、そこまではッ☆ 彼らは真剣に戦っていましたよッ☆」
「でも」
「現代の戦争で核兵器を使わないのと同じことですッ☆」
「はァ」
「現代の戦争は核を使いませんが、馴れ合いやお遊戯ではありませんッ☆ 真剣で陰惨で致命的に争っていますッ☆ それと同じですッ☆」
「なるほど」
分かったような――気がしたけれど。
「じゃあ、アダマヒアもクロスボウ禁止なの? 自主的に使用を制限しているの?」
「いえッ☆ まだクロスボウを発明していませんッ☆」
この言葉に俺とクーラは、ほっと胸をなで下ろした。
しかし、すぐに不安になった。
「だったら、発明しないよう監視しなければっ」
剣と鎧のファンタジー世界でなくなってしまう。
たぶん、マッドマックスのような改造車と機械式クロスボウでヒャッハーな世界感になってしまう。
……。
そう思って真っ青な顔をしていると、ワイズリエルは満面の笑みをした。
そして言った。
「心配いりませんッ☆ 『騎士道』がありますから、たとえクロスボウが発明されたとしても、それで使用禁止になりますよッ☆」
――・――・――・――・――・――・――
■神となって1ヶ月と12日目の創作活動■
モンスターを強化した。
……そのことにより騎士団の剣は斬れるようになった。そして、ますます剣技に磨きをかけるようになり、今まで以上に人々から尊敬を集めるようになった。




