表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/128

11日目。武器と防具

 俺とクーラは、ため息をついていた。

 目の前には、聖バイン騎士団の剣がある。

 その剣が相変わらず斬れないことに、いや、バージョンアップする毎にどんどん斬れなくなっていくことに、ため息をついていた。



「あれから製鉄所は砂鉄を使うようになった。農具の質は上がった。それなのに剣は、どんどん斬れなくなっていく」

 俺たちは、大きくため息をついた。

 と、そこにワイズリエルがやってきた。


「どうしたのですかッ☆」

 俺たちは、剣を渡し事情を説明した。

 するとワイズリエルは言った。



「この剣は、エストックによく似ていますねッ☆」

「エストック……十四世紀の剣ですか?」


「はいッ☆ エストックは刺突(しとつ)専用の剣、刃のない両手剣ですッ☆ この騎士団の剣は、それを短くして片手でも扱えるようにした――ように見えますッ☆」

「ああ、たしかに」

 先端は鋭い。

 俺は剣先を指で突きながら、ぼんやり訊ねた。



「じゃあ、十四世紀の剣に似ているってことは、進化の方向性としては間違ってないんだな?」

「間違っているかどうかは、なにを攻撃するかによりますッ☆」

 そう言ってワイズリエルは微笑んだ。

 するとクーラが言った。


「騎士団の攻撃対象は、モンスターと街の犯罪者たちです」

「なるほどッ☆ ということは、この形状は少し不可解ですねッ☆」

 ワイズリエルは首をかしげ、やがて微笑んで言った。



「これから武器と防具の歴史をざっくりとお話しますッ☆ お話しながら、この武器の理由を探っていきましょうッ☆」

 俺たちは頷いた。





「さてッ☆ 剣の歴史が素材変遷(へんせん)の歴史だということはすでに述べましたッ☆」

「ええっと、石・骨 → 銅 → 青銅 → 鉄 → 鋼 だっけ?」


「はいッ☆ 中世ヨーロッパは『鉄の剣』と『鋼の剣』の時代ですッ☆」

「で、現在のアダマヒアは『鉄の剣』から『鋼の剣』に移ったところだ」

 ワイズリエルは頷いた。



「ではッ☆ 防具はというと――。これは厚手の服からスタートします。いわゆるクロース・アーマーですッ☆」

「なるほど」


「その後、レザー・アーマー……革の鎧が主流となり、王族や騎士など裕福な層はチェイン・メイルを身にまといますッ☆」

「聖バイン騎士団もチェイン・メイルだな」

「ええ」



「チェイン・メイル……金輪鎧は、鉄の輪を上着のようなかたちに編み込んだ鎧ですッ☆ この鎧はレザーアーマーよりも頑丈で、やがて中世ヨーロッパでは主流となっていきますッ☆」

「ということは、『鉄の剣』か『鋼の剣』で、『チェイン・メイル』を斬っていたのか」

「年代をみると、たしかにその通りなのですがッ☆」

 と言って、ワイズリエルはウインクをした。

 そして、こう続けた。


「『鉄の剣』や『鋼の剣』では、『チェイン・メイル』は斬れませんので、別の武器を使っていましたッ☆」

 俺たちはつばを呑みこんだ。




「剣のような斬る武器が通用するのは、クロース・アーマーやレザー・アーマーですッ☆ それで関節や鎧のつなぎ目の部分を狙っていたのですッ☆ ところが、チェイン・メイルは鉄の輪を編み込んだ鎧ですから、つなぎ目がありませんッ☆」

「それで、別の武器なのか」


「はいッ☆ チェイン・メイル(金輪鎧)は、剣のような斬撃武器には強いのですが、実は、刺突(しとつ)殴打(おうだ)に弱いのですッ☆」

「刺す武器と、殴る武器」



「殴る武器はハンマーのことですッ☆ そして刺す武器は――エストックや槍もそうですが――この場合は『矢』のことですッ☆ 『矢』は、チェイン・メイルに特に有効なのですッ☆」

「ああ、だから」

「はいッ☆ チェイン・メイルの騎士は、たいてい盾を装備していますッ☆」

 それで矢を防ぐわけだ。




「というわけで、中世ヨーロッパでは、チェイン・メイル対策として、次第に鈍器や弓矢が主流になっていくのですッ☆ そして、それに対抗するために生み出されたのが、板金鎧……プレート・メイルですッ☆」

「ああ、あのバケツみたいな」


「金属板で体を包みこむ、あの、ロボットみたいな鎧ですねッ☆」

「あれなら矢にもハンマーにも耐えられそうだな」


「限度はありますがッ☆ ただ、チェイン・メイルよりは断然良かったのですッ☆」

「だったら、それにっ」

 いずれ騎士団の装備も変わるのでしょうか――と、クーラが訊いた。

 ワイズリエルはやわらかく頷いた。



「プレート・メイル(板金鎧)は確かに防御に優れてはいましたが、重く暑く、長所短所がハッキリとした鎧でしたッ☆ ですから、それを騎士団が採用するかは分かりませんが、史実では、中世の終わりまで現役の鎧でしたよッ☆」

「なら」


「はいッ☆ ただ、このプレート・メイル(板金鎧)にも苦手な武器がありましたッ☆ それが(やり)や、エストックのような刺突武器ですッ☆」

「突き刺すような武器には弱かったのか」

「槍やエストックは、矢よりも突き刺す力が強いのですね?」



「はいッ☆ エストックは全体重を乗せて突撃する刺突剣……簡易版ランスのような武器ですッ☆ 刃がないので斬れませんが、しかし、その剣先は鋭く、鋼のプレート・メイルですら貫けたのですッ☆」

「強いな」


「エストックは十六世紀までは主流な武器でしたが、しかし、銃の登場によってプレート・メイルが姿を消すと、それとともに戦場から姿を消しますッ☆ すなわち、剣の時代の終焉(しゅうえん)ですッ☆」

「銃は遠距離からでもプレート・メイルを貫通する。だったら脱いでしまえと」


「その通りですッ☆ 兵たちが鎧を脱ぎ軽装になってしまったのですッ☆ そして、剣には攻撃力が必要なくなってしまったのですッ☆」

「………………」

「つまり、銃が登場するまでは、エストックが最強の剣だったのですか?」

 クーラが真剣な表情でひざを詰めた。

 ワイズリエルは少し考えて言った。




「そうですね、そうとも言えますッ☆ 特に、この聖バイン騎士団の片手用エストックともいうべき剣は、どんな頑丈な鎧でも貫通できますし、どんな硬いモンスターにもトドメをさすことができますッ☆」

「だったら、それは喜ばしいことですね」

 とクーラは言った。

 しかし、ワイズリエルは首を振った。


「理論上は、たしかに最強ですッ☆ ただ、犯罪者や今のモンスターを相手にするには、攻撃力がありすぎますッ☆」

「ああ、そうか。鋼のプレート・メイルを着込んでないからな」



「はいッ☆ そういった相手には、オーバー・キル……殺傷力がありすぎるのですッ☆ モンスターや犯罪者には、貫通力を犠牲にしてでも斬れるほうが有用ですッ☆」

 俺たちはため息をついた。

 聞けば聞くほど、騎士団がこの武器を持つ理由が解らない。




「ご主人さまにクーラさまッ☆ 質問してもよろしいでしょうか?」

「ん?」


「騎士団は、この剣をどのように使っているのですかッ☆」

 俺とクーラは顔見合わせた。

 そして、騎士団の剣技をワイズリエルに見せた。

 するとワイズリエルは大きく頷いた。

 そして言った。



「騎士団が斬れない剣を使うのは、おそらく合理的な理由からではありませんッ☆ 騎士道のようなものが生まれつつあるのですッ☆」



――・――・――・――・――・――・――

■神となって1ヶ月と11日目の創作活動■


 武器と防具の歴史を学んだ。

 1.レザー・アーマーには剣が有効

   剣に対策してチェイン・メイルが生まれた


 2.チェイン・メイルには弓矢と鈍器が有効

   それらに対策してプレート・メイルが生まれた


 3.プレート・メイルには槍などの刺突武器が有効



 ……そして銃の登場が鎧と剣の時代を終わらせた、と。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ