8日目。秘密基地
秘密基地は、アダマヒアの東の山奥にある。
水源からすこし南に登り、山の稜線を越えて降りたところ、窪地にある。
窪地には木が生い茂っている。
秘密基地は、木の影にひっそり建っている。
今日は、俺ひとり、秘密基地に降り立った。
さて。
ここ秘密基地のある地上界は、天空界から『早送り』をすることによって、あっという間に時間が経過するのだけれど……。
扉を開いた俺は、さっそく指を鳴らした。
それで基地のなかは綺麗になった。
「ああ、すばらしき神の力。ガチのチート能力」
俺は満ち足りたため息をつき、机に向かった。
そして、引き出しを開けて日記を取り出した。
「ふふっ」
俺は、つるつるの日記を見てほくそ笑む。
この日記帳には、『早送り』で朽ちてしまわないよう、特殊な加工を施した。
その加工が上手くいったことに、俺は喜んだのだ。
「さっそく、ウーツのことでも書くか……」
俺は昨日観たこと、ウーツのことを日記に書いた。
ほかにもアダマヒアが王国になったこと、製鉄所が順調なことなども書いた。
日記は、天空界でも書けるけど、ワイズリエルたちに見られたらなんだか照れくさいし、それに、見られて恥ずかしいようなことも書きたかったのだ。
だから、秘密基地に来たときにコッソリ書くことにした。
ちなみに。
天空界からは、テレビで地上界の様子を覗くことができる。
当然、この秘密基地も見ることができる。
だから今、ワイズリエルたちが、ここを覗き見している可能性もあるのだけれども、しかしそれは、ほぼありえないと思ってる。
なぜなら、この秘密基地の位置を示す★マーカーを、出るときにこっそり抜いてきたからだ。
そうなってしまえば、この広大な山脈の、しかも木影にポツンと建った山小屋など、上空からとても探すことなどできないのだ。
映像をズームしようにも木々が邪魔をする。
地面すれすれまで降りないと観ることができない。
そんな高さまで降りて小さな目標を探すなど、とても現実的ではない。
「それに、道義的な話だよな」
たとえ覗くことができたとしても、覗かないのがマナーだと思う。……。
さて。
日記を書き終えた俺は、次に鉢植えをいくつか創り出した。
唐辛子やトマト、それに様々なハーブ、香辛料の鉢植えだ。
「種から育てるのは難しいから、苗木から試すのさ」
俺は基地の外に鉢植えを飛ばした。
両手を伸ばし、まるで魔法使いのように鉢植えをあやつった。
そうやって、外に飛ばし、次々と苗を植え込んでいったのだ。
「まあ、天空界でやればいいのだけれど」
飽きたときに笑われそうだし、たとえ長続きしたとしても、失敗したらクーラにため息をつかれる。それになにより、彼女たちの見ている前で育てたら、
「ズルをしてしまう」
そう。確実に俺は見栄を張る。
間違いなく『神の力』……ガチのチート能力に頼ってしまう。
でも、そんなことをしたら、つまらないじゃないか。
そう思って、ため息をついたら、
「痛っ!?」
基地の外で女の声がした。
というか、ワイズリエルの声がした。
「はァ!?」
慌てて飛びだすと、ワイズリエルが頭を押さえてうずくまっていた。
そしてその足もとには、鉢植えが落ちていた。
「ご主人さまッ☆」
ワイズリエルは、恨めしそうに俺を見上げ、そして可愛らしく舌を出した。
「どうしたの!?」
「すみません、ご主人さまッ☆ ご主人さまが飛びたつ直前に、こう、お尻をぺろんと触ったのですがッ☆」
「はァ」
「そのとき、つい、出来心で裾をつかんでしまったのですッ☆」
「それで」
「一緒にッ☆」
「来ちゃったのか」
「来ちゃいましたッ☆」
「はァ」
「それでそのっ、どう説明をしようかと考えながら、秘密基地のまわりをうろうろしていたのですがッ☆」
「そこに鉢植えが飛んできたのか」
「ビックリして避けたのですけどッ☆」
「よく避けることができたな」
「私は結構、すばしっこいのですッ☆」
「まあそれは」
よく知っている。
「ですが結局、当たってしまいましたッ☆」
「ふふっ……て、笑いごとじゃないか」
「いえッ☆ 自業自得ですッ☆」
「もう、危ないから、飛ぶときはイタズラしちゃだめだよ?」
「はいッ☆」
ワイズリエルは泣き笑いの顔をした。
「まあ、いいや」
俺はワイズリエルを立ち上がらせた。
怪我したところはないかと確認し、傷があれば神の力で治した。
ワイズリエルは喜び、抱きついてきた。
手脚をからませ、噛みつくように何度もキスをした。
「ご主人さまッ☆ ご主人さまッ☆ ご主人さまッ☆」
瞳にハートマークが映ってるんじゃないか――ってくらい、ワイズリエルのテンションは高かった。
俺は、からみつく彼女を抱きかかえ秘密基地に入った。
彼女をソファーに座らせ、
「とりあえず落ち着こうよ」
と、ため息をつくように言った。
すると、ワイズリエルは飛びついて、俺の胸に顔をうずめた。
顔をあげ、上目遣いで言った。
「とりあえず落ち着いた、その後は?」
俺の全身にどよめくような快感がはしった。
そして。
気がつくと俺は――。
すべてが終わると、ワイズリエルは俺の胸に頬を寄せ、甘えて言った。
「ご主人さまッ☆ ポリネシアン・セックスというものがあるのですが……」
俺は、ぼんやりと天井を見ながら彼女の話を聞いていた。
――・――・――・――・――・――・――
■神となって1ヶ月と8日目の創作活動■
秘密基地のまわりに唐辛子などを植えてみた。
……ただ植えただけで、とくに世話はしないつもりだ。いわゆる『植えっぱなし菜園』である。




