2日目。製鉄技術
俺たちは四人並んでテレビを観ていた。
そこに映る製鉄所を見ながら、ワイズリエルに説明を受けていた。
「ご主人さまッ☆ 今、観ているのはアダマヒアの東、川沿いにある製鉄所ですッ☆ ここでは『鉄鉱石』を『鉄のかたまり』にしています。『鉄のかたまり』から、剣や農具に形成していくのですッ☆」
「製鉄所といっても小屋みたいだな」
「はいッ☆ 炉と水車、それと鉄鉱石と木炭の置き場所があればそれで製鉄所となりますッ☆」
「ようするに『鉄のかたまり』を作るためには、その四つが必要なのですね?」
クーラが訊くと、ワイズリエルは大きく頷いた。
そして言った。
「ざっくりとした話をしますッ☆ 製鉄所とは、『鉄鉱石』を高熱で『鉄のかたまり』にする施設ですッ☆」
「炉と水車で、『鉄鉱石』を『鉄のかたまり』に作りかえるのですか?」
「はいッ☆ 炉で『木炭』を燃やし、そこに水車で風を吹き込みますッ☆ そうすることによって高熱が生み出され、『鉄鉱石』から『鉄のかたまり』が生み出されるのですッ☆」
「なるほど」
俺が呟くと、ワイズリエルは誇らしげに胸を張った。
そして満面の笑みをした。
俺は密かに安堵のため息をついた。
まったく問題ないように思えたからだ。
実際、画面に映る製鉄所は素朴で穏やかで、そして順調だった。
が。
ワイズリエルがたしなめるように言った。
「ご主人さまッ☆ なぜ高熱にするのかは明日お話ししますが、これだけは覚えておいてくださいッ☆」
「ん?」
「高熱にするためには、大量の木炭が必要ですッ☆ 中国とヨーロッパは、この木炭のために一度、森林を枯渇させましたッ☆」
「そこまで伐採したのか」
「はいッ☆ そして木炭がなくなると、今度は石炭、そしてコークスを使うようになったのですッ☆ ただ、コークスで木炭と同じだけの燃焼力を出すためには、吹き込む空気を70%増量しなければなりませんでしたッ☆」
「それほど木炭は優れていたのか」
「はいッ☆ そしてここからが注意すべきところですッ☆」
そう言ってワイズリエルは、可愛らしくウインクをキメた。
そして、ゆっくりと言った。
「ヨーロッパの人々は――水車では作れない巨大な風力を発生させるために――『蒸気機関』を発明したのですッ☆」
「……ということは、俺たちが防ぐべきポイントは?」
「森林資源ですッ☆ 木炭があれば、蒸気機関の必要性はとりあえずなくなりますッ☆」
「なるほど」
「森を保てば好いのですね」
そう言ってクーラは微笑んだ。
ワイズリエルは頷き、微笑みを返した。
俺たちは大きく頷いた。
なんとなくエコな感じで、しかも楽そうな対応策だった。
そのことに俺たちは大いに満足したのである。
「さてッ☆ 以上が製鉄所の仕組みですが、実は、もうひとつ有名な製鉄……いえ、製鋼法がありますッ☆ 『たたら吹き』ですッ☆」
「なんか聞いたことあるような……」
「『たたら吹き』は、日本独自の直接製鋼法ですッ☆ 木炭を使い風を送って高熱を作り出す――その原理こそ同じですが、生産される『鉄のかたまり(鋼)』の品質がとても高いのですッ☆ この鋼は『玉鋼』と呼ばれますッ☆」
「タマハガネ……それもなんか聞いたことある」
「日本刀の最高級材料として有名ですねッ☆ ただし、これもダマスカス鋼と同じく、現在は誰も作れませんッ☆」
「また、ロスト・テクノロジーか」
「はいッ☆」
俺たちはなんだか寂しい気持ちになった。
すると、ワイズリエルがそんな俺たちの気分を察して、朗らかに言った。
「しかし、ご主人さまッ☆ 悪い話ばかりではありませんッ☆」
「はァ」
「まず第一にッ☆ この『たたら吹き』は平安時代(794年~1192年頃)には、すでに行われていたようです。ですから、ご主人さまのお望みの世界感……中世盛期と時代が一致しますッ☆」
「じゃあ、可能性としては!?」
「中世ヨーロッパに『たたら吹き』をおこなう製鉄所があっても、おかしくありませんッ☆」
俺たちの表情は自然と明るくなった。
「そして第二にッ☆ 日本独自の材料や環境を必要としていませんッ☆」
「じゃあ、どこが違うんだ!?」
「『たたら吹き』のやりかたは、スタジオジブリの『もののけ姫』を観てもらうのが一番手っ取り早いですッ☆」
いや。
そういう手抜きは別に嫌いではないが。
「キチンと説明してよ」
と、とりあえず注意しておく。
「『たたら吹き』の特徴は、おおきくふたつッ☆ まずひとつは風です。水車ではなく、ふいごという装置を踏んで送風しますッ☆ それを三日三晩続けて高温までもっていくのですッ☆」
「いかにも勤勉な日本人らしい送風方法だ」
楽することをなぜか申し訳なく思ってしまう。
その気分はよく分かるのだけれども。……。
「そして、もうひとつは鉄鉱石ですッ☆ 一般的な製鉄では『菱鉄鋼』を使います、がッ☆ 『たたら吹き』では砂鉄を使うのですッ☆」
「砂鉄を加工して『玉鋼』にするのか」
「その通りですッ☆」
ワイズリエルが満面の笑みで言うと、
「さすがです、おにいちゃん」
と、ヨウジョラエルが抱きついてきた。
たぶん、俺たちの話に退屈したのだろう。
ヨウジョラエルは、ぷっくらと頬をふくらませ、俺の胸に顔をこすりつけた。
俺は、彼女の頭を撫でながら、泣き笑いの顔をした。
すると、ワイズリエルとクーラが母性に満ちた笑みをした。
「……じゃあ、今日はこれくらいにしとく?」
「そうですね」
と、クーラが微笑んだ。
ワイズリエルは甘えた瞳で、俺の腕にしがみついた。
で。
「んー、せっかくだから砂鉄でも流しとくか」
と、俺が深い思慮もなにもなく、川に細工をすると。
「けっ、軽率ですっ!」
と、クーラは悲鳴をあげ、信じられない――って顔をした。
俺が頭をかくと、
「もう、もっと慎重にしてください」
と言って、クーラは母性に満ちたため息をついた。
ついた後で、くすりと笑みをこぼしていた。
――・――・――・――・――・――・――
■神となって1ヶ月と2日目の創作活動■
森林を枯渇させないよう注意を払うことにした。
川から砂鉄を採れるようにした。
……クーラの加入によって、俺は以前にも増して、ゆるーく、そしてテキトーになった。スイカに塩をかけたようなものだな。




