1日目。鉄鉱石
「今日は、アダマヒア自立の第一歩として、『鉄』について学びましょうッ☆」
そう言って、ワイズリエルがやってきた。
タイトなミニスカにブラウス、エロメガネ。
指示棒を持った、いつもの女教師スタイルだ。
ただ、その姿を視てクーラが悲鳴を上げなかったのは、いつもと違った。
じんわりと、ここ『天空界』での暮らしに慣れつつあるのだろう。――
「さてッ☆ 先ほどは、いきなり答えを言ってしまいましたが、中世ヨーロッパの武具や農具の材料といえば、それは『鉄』なのですッ☆」
「なんで~?」
ヨウジョラエルが無垢な笑みで訊く。
ワイズリエルが、バチッとしたアイドル笑顔で答える。
「鉄はどこにでもあり、強いからですッ☆」
「どこにでもある……のですか?」
クーラがその切れ長の美しい目を細めた。
「はいッ☆ 鉄は、地球にある元素のうち三割から四割を占めていますッ☆ アダマヒアのある『地上界』は、地球とそっくりの惑星ですから、適当なところを掘っても三割・四割の確率で鉄……を含んだ『鉄鉱石』が発見できると思われますッ☆」
と、ワイズリエルは答えた。
ずいぶんと無責任なことを言っているが、俺はこのワイズリエルのテキトーさを気に入っている。
「ちなみに、『剣』の歴史をざっと説明しますとッ☆ はじめ骨や石で作られた剣は、銅・青銅の時代を経て、鉄で作られるようになりますッ☆ 鉄を使うようになったのは紀元前1400年頃のヒッタイト人から。そして、鉄を加工してできる『鋼』を使っているうちに、剣から銃の時代へと移り変わりますッ☆ ですから、剣=鉄でかまわないと思いますッ☆」
「そうだったのですね」
と言って、クーラは耳に髪をかけた。
ワイズリエルは、ウインクをキメた。
「じゃあ、ゲームとかによくある、オリハルコンやミスリル、ダマスカスは?」
俺がぼんやり訊くと、ワイズリエルは舌なめずりをした。
待ってましたと言わんばかりに瞳を輝かせ、そして言った。
「『オリハルコン』は幻の金属。アトランティスにあると言われる銅の合金ですッ☆ そして、『ミスリル』は架空の金属。J.R.R.トールキンの『指輪物語』などに出てくる金属ですッ☆ このふたつは実在しないといっていい金属ですが、しかし、『ダマスカス』だけは実在しましたッ☆ 鉄を加工したものだったのですが、その加工方法が分からなくなってしまったのですッ☆」
「ロスト・テクノロジーってやつか」
「はいッ☆」
「うーん。じゃあ、結局のところ『鉄』で武具や農具を作ることになるんだな」
「架空の金属を創ればまた別ですがッ☆」
「それは面倒くさいや」
「きゃはッ☆ 『鉄』にも色々ありますよッ☆」
そう言ってワイズリエルは背を向け、誘うようにお尻を振った。
クーラは失笑し、やがて訊いた。
「あの。どうやってその鉄……鉄鉱石を入手するのでしょうか?」
「地面か山を掘りますッ☆ それと、隕石にも含まれていますッ☆」
「隕石ィ!?」
「人類が鉄を発見したのは、隕石が山火事を起こしたから――と、言われていますッ☆ 山火事の炎で、鉄が溶け流れたのでしょうねッ☆」
「なるほど」
「アダマヒアの民は『塩鉱山』の採掘技術を持っていますから、鉄鉱石はすぐに採掘できますよッ☆」
「というか聞いた感じだと……」
「ええッ☆ 塩の採掘の邪魔だ――くらいに思っているでしょうねッ☆」
採掘できるのにしていない、というわけか。
「でしたら、なんでっ」
クーラが言葉を詰まらせる。
すると、ワイズリエルがやさしく言った。
「クーラさまは、先日、森を増やせと言いましたッ☆ まさしくそれが答えです。アダマヒアは、鉄鉱石を『鉄』にするための火力が不足してたのですッ☆ だから鉄鉱石を採掘しなかったのですッ☆」
「木ですか?」
「木炭ですッ☆ 鉄鉱石を『鉄』や、その先の『鋼』にするためには、木炭が大量に必要なのですッ☆」
「そういうことか」
俺たちは理解し、そして納得した。
それと同時に、深くソファーに沈み込んだ。
「ご主人さまは先日、南東にたくさんの森を創りましたッ☆ ですから、すぐに鉄の生産がはじまると思いますよッ☆」
「ほんと?」
「あの、すこし『早送り』して観てみませんか?」
クーラの提案通りに観てみると、ほどなく鉄鉱石の採掘がはじまった。
俺たちは『早送り』を止めて、安堵のため息をついた。
そこに鋭く、ワイズリエルが飛びこんできた。
あっという間に抱きついて、俺の胸に顔をうずめた。
そして。
甘えるような瞳で見上げて言った。
「製鉄方法の説明は、明日にしましょうッ☆」
この言葉と同時に、ワイズリエルとヨウジョラエルが噛みつくようにキスをしてきた。
笑いながら、ほんと嬉しそうに何度も何度もキスをした。
まるで、洗濯機に放り込まれたような激しさだった。
「サキュバスごっこだ、キスしろー」
「きすすろ~」
「ちょっと!?」
助けてくれよ――と、クーラに手を伸ばしたら笑われた。
「うはっ」
「ご主人さま、ちゅぱちゅぱー」
「おにいちゃん、ちゅぱぱゅぱ~」
「ふふっ。しかたがないですねえ」
クーラはそんな俺たちを、母性に満ちた笑みでずっと見ていた。
――・――・――・――・――・――・――
■神となって1ヶ月と1日目の創作活動■
アダマヒアで鉄鉱石の採掘がはじまった。
……まずは順調なスタートだ。実は、「鉄の鉱脈を創れ」と言われたらどうしようと、内心ドキドキしていたのである。
※ 鉄については、資料の発行年数や著者によって記載内容が異なるケースがありましたので、その場合は『今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい鉄の本 監修:菅野照造 編著:鉄と生活研究会 発行所:日刊工業新聞社(2008年)』に従いました(以降、第2幕すべて)。




