イントロダクション
「カミサマさん、この騎士を観てください」
と、クーラが言った。
俺はテレビを観た。
「たるんでます。聖バイン教会の騎士として恥ずべき姿です」
と、クーラはムッとして言った。
しかし、テレビに映る騎士はそんな風には見えなかった。
俺なんかより、よっぽどピシっとしているな――と思った。
クーラは真面目すぎるから、どんなヤツでもだらしなく見えてしまうのだろうな――とも思った。
ちなみに、クーラは元・騎士団である。
十七歳だけど、この騎士の大先輩なのだ。
……。
睨まれた騎士を気の毒に思ってしまった。
クーラは、そんな俺の気分を表情から読みとり、
「もう、甘やかさないでくださいっ」
と言った。
まるでお母さんのようなため息をついた。
よく分からんが俺が怒られているような――そんな雰囲気になってしまった。
ワイズリエルとヨウジョラエルが、俺たちを見てニヤニヤしている。
あのなあ……。
たしなめるような目でふたりを見る。
すると、
「まるで夫婦のようですねッ☆」
と、ワイズリエルがおどけて言った。
「そ~そ~。おにいちゃんがパパ。クーラがママ。わたしとワイズリエルがこどもだよ~」
と、ヨウジョラエルが無垢な笑みで言った。
俺とクーラが眉をひそめると、
「きゃはッ☆」
ワイズリエルは飛びつき、キスしてきた。
そしてイタズラな笑みで、
「私は、ご主人さまのラブドールですッ☆」
と言った。
俺が、まるでガムを踏んだような――そんな顔をすると、みな笑った。
そして、ひと息ついたところでクーラが言った。
「あの、アダマヒアのことなのですが」
そう言って、青い髪を耳にかけたのだ。
俺たちは頷き、彼女の言葉を待った。
クーラはその切れ長の目を細めて、澄んだ声で言った。
「アダマヒアは自立しなければなりません。カミサマさんは過保護です」
「はァ」
まったくそんな風には思っていなかった。
俺は口をぽかんと開けたままだった。
クーラは続けて言った。
「モンスターには殺傷能力がない――のですよね?」
「ああ」
「過保護です。強くしてください」
「いや、でも」
「騎士団は何のために戦っているのですか? これでは日々、剣の腕をみがく意味がありません。意義もありません。勤労意欲もわきません。だらけるのも無理もないです」
「はあ」
「彼らを信じてあげてくださいっ」
まるで学級委員長のようなクーラから放たれる、ド真ん中なド正論。
俺たちは頷くしかなかった。
「それに剣や防具ですが。これは主に武器商人から購入――ですよね?」
「……はい」
「やめてください。自分たちで生産させましょう」
「あっ」
なんだか面倒くさいことになりそうだ。
そう思った途端、ぴしゃりとクーラは言った。
「今が自立のときなのです」
その勢いに呑まれて、つい、頷いてしまった。
で。
助けを求めるようにワイズリエルを見たら、微笑みを返された。
どうやら彼女はクーラの方針に賛成のようだ。
「それと、ここに来て分かったのですが――。武器商人が持ち込む武器は、その、なんというかメチャクチャですよね?」
「えっ?」
「時代や地域などがバラバラですよ」
そう言ってクーラはため息をついた。
俺が首をかしげていると、クーラは画面を切り替えた。
そこに映る武器リストを観ながら指摘をしはじめた。
さらにワイズリエルが補足までした。
「まず、このグラディウスですが」
「紀元前ローマの武器。50センチほどの両刃、幅広の短剣ですねッ☆」
「それにクレイモア」
「十五世紀のスコットランド。両手持ちの両刃剣ですッ☆」
「サーベル……セイバーとも言うようですが」
「十六世紀スイス。曲刀にインスパイアされた片刃刀ッ☆」
「バスタードソード、フランベルジュ、レイピア」
「十五世紀、十七世紀、十六世紀ッ☆」
「で、なにが問題なんだよ」
と思わずツッコミを入れたら、それに応えたのは、意外にもワイズリエルだった。
「ご主人さまッ☆ ご主人さまのお望みの世界感は――今までの創世を見てきた限りですと――『中世盛期(1000年~1300年)』でございますッ☆ そこから宗教色を薄め、かつ絶対王制にした世界が、ご主人さまの創世の着地点だと思われますッ☆」
「……言われてみればそうか、な?」
「はいッ☆ それでご主人さま。私は、剣の種類は今のままで良いと思ってますッ☆ ですがッ☆ もし生産させるのなら、慎重にコントロールしなければ――とは、考えていますッ☆」
俺とクーラは、自然と背筋が伸びた。
ワイズリエルは、その大きなつり目を細めて言った。
「『蒸気機関』を発明してしまう恐れがありますッ☆」
「………………」
「そうなると、剣と魔法のファンタジー世界ではなくなってしまいますッ☆」
俺とクーラは顔見合わせた。
しばらくすると、ふたりして大きく頷いた。
そして俺が言った。
「ワイズリエル。知恵を授けてくれるか?」
「自立させ、コントロールすると言うのですねッ☆」
「そうだ」
「その通りです」
俺とクーラは、面倒と危険を承知のうえで頷いた。
するとワイズリエルは、
「おまかせくださいッ☆」
と言って、可愛らしくウインクをキメた。
俺たちの一ヶ月の方針が今、決まったのである。――




