表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/128

28日目。【創世録】プリンセサ・デモニオ

「おにいちゃん、おもしろいよ~?」

 と、ヨウジョラエルがそでを引いたのが、この、陰鬱いんうつな事件の始まりだった。



 ヨウジョラエルに連れられてリビングに行くと、そこには、ワイズリエルとクーラがいた。

 ふたりは真剣な表情で画面を視ていた。

「ご主人さま、こちらをご覧くださいッ☆」

 俺はソファーに腰掛け、大型テレビに映る下界を視た。



挿絵(By みてみん)


「これはっ」

鶴翼かくよくの陣ですッ☆」

「ええっと、関ヶ原でたしか西軍がつかった」

「はいッ☆ そしてこれは、下界時間でおよそ二日前になるのですがッ☆」



挿絵(By みてみん)


魚鱗ぎょりんの陣か」

「ええ……」

 ワイズリエルはかるく頷いた。

 隣にいるクーラとともに、じっと画面を視たままでいる。

「ん? えーと、なにか問題でもあるの?」


「……ご主人さまッ☆ この凸はモンスターの小隊、ピンクで塗られた凸が大将ですッ☆ ちなみに、魚鱗ぎょりんの陣のときは集落を目標としておりますが、現在の鶴翼かくよくの陣では、その先の教会を目標に変更しておりますッ☆」

「よく指揮したじゃないか」

「はいッ☆」

「クーラが指揮したのか? それとも」

「私たちではございませんッ☆」

「へっ?」



「モンスターが陣形を組んだのですッ☆」

 ワイズリエルは冷然と画面を指さした。

 俺は、今言われたことはよく理解できなかったが、とりあえず言われるままにカメラを移動した。ピンクで塗られた凸のところ、大将のところをズームしたのである。するとそこには――。


 巨大な悪魔の紋章旗。

 刺々とげとげしいイバラの盾、木の実のような(かぶと)、暗黒樹の軍団。

 中心に位置する、禍々まがまがしくも荘厳そうごんな古木の神輿みこし


 そしてそこには、豊満な女性。

 いや、豊満な女性のかたちをしたモンスターが、そこに腰掛けひじをついて脚を組んでいた。



「あのモンスターは、『プリンセサ・デモニオ』と呼ばれていますッ☆」

「プリンセサ・デモニオ……」

「スペイン語で『悪魔の姫』という意味ですッ☆」

「ヘブライ語の次は、スペイン語かよ」

 と、思わず苦笑いをしたら、


「地面に書いてあったのですッ☆」

 と、ワイズリエルがたしなめるように言った。

「えっ?」


「モンスターが地面に『プリンセサ・デモニオ』と書いたのですッ☆ そして、その文字を騎士団が発見したのですッ☆ それで以後、あのモンスターのリーダー……神輿に乗ったアレのことを、人々は『プリンセサ・デモニオ』と呼ぶようになったのですッ☆」

「それはっ」

「明らかな知性ですッ☆」

「………………」


「モンスターが知性を獲得してしまいましたッ☆」

 俺たちは絶句した。




「……ご主人さまッ☆ たしかに我々は、モンスターポッドに自動生成システムとランダム生成機能を与えましたッ☆ それは乱暴に言えば、知性と呼べるものかもしれません。しかし、ここで問題なのは、あの『プリンセサ・デモニオ』がモンスターポッド自身ではなく、その他大勢のモンスターのなかの一匹だということですッ☆」


「モンスターポッドが、知性を有したモンスターを生んでしまった……」

「はいッ☆ そしてそのことは、我々の管理できないところで、知性を持つモンスターが次々と生まれることを意味しますッ☆」

「………………」

「ご主人さま……」


「ただちにモンスターポッドを停止しろ。それからアレは、俺自身の手で……」

 と俺は言って、さすがにくちびるを結んだが、その後は言わなくても伝わった。

 クーラは事情を察して、ヨウジョラエルを連れて部屋から出た。

 ワイズリエルが即座に、ひざまずいた。

 そして俺の足もとに額をつけ、土下座して言った。


「ご主人さまッ☆ 念のため、強力な武器を創ることをオススメしますッ☆」

「……どんな武器がいい?」

「攻撃対象を元素レベルまで分解し、霧散させるような武器をッ☆」

「分かった」

 そう言って、俺は虚空を指さした。

 そこに細身の剣があらわれた。

 俺はそれをさやごとつかんで、腰に差した。



ゆるせ、モンスターの姫君よ。ただ、おまえはこの神の過ちにより生を受け、このなげきの剣により消滅するのだ……」

「エスパダ・デ・ラ・トリステサ……その嘆きはアレの身だけでなく、ご主人さまの心をも引き裂きます」

 ワイズリエルは、額を床にこすりつけたまま言った。

 そして俺は陰鬱いんうつな気分のまま、下界に降り立った。


 悪魔の姫、プリンセサ・デモニオ。

 彼女を殺すために、俺は降り立ったのだ。……――





 真っ赤な満月の夜。

 俺は、神輿みこしに乗ったモンスターに逢った。


「………………」

 雲が月にかかり世界が黒くなる。

 そして雲が流れてまた世界がもとに戻っても、俺たちは動かなかった。

 生ぬるい風が、重く次第に強くなる。

 やがて風は嵐となり、森が怒濤どとうのように鳴りどよめく。

 無限にも感じられる刻が過ぎる。

 そして。

 俺は沈痛な面持ちで、ようやく訊いた。


「おまえが、プリンセサ・デモニオに間違いないな?」

 モンスターは黙って俺を見つめていたが、しばらくすると、澄んだ、よく響く声で言った。

「 Soy, princesa. 」

「それはスペイン語か」

「 Soy, princesa demonio. 」

「今、プリンセサ・デモニオと言ったな」

「 Yo soy princesa demonio. 」


「……間違いないな」

 俺は腰の剣に手をかけた。

 するとプリンセサ・デモニオは、その大きな瞳いっぱいに涙を浮かべた。

 そして、俺の剣を指さして、

「 Espada de la tristeza. 」

 と、ふるえる声で言った。

 エスパダ・デ・ラ・トリステサ――すなわちなげきの剣。

 プリンセサ・デモニオは、俺がここに来た意味も、そして、これから自分がどうなるのかも正しく理解していた。

 俺は歯を食いしばり、天を仰いだ。

 ……。


「神なんて、なるもんじゃねえな」

 俺は自嘲気味に笑い、彼女を抱いた。

 天界に連れ帰ったのである。





 ――……リビングに戻ると、そこには誰もいなかった。

 俺はとりあえずプリンセサ・デモニオを落ち着かせようとした。

 彼女の肩を抱き、ソファーに座らせようとしたのである。

 すると後ろから、


「失礼します、ご主人さま」

 と、ワイズリエルの低い声がした。

 ぞっとして振り向くと、彼女は俺の腰から剣を抜いた。

 そしてそれを、

 ぐっ!

 と、即座にプリンセサ・デモニオに刺し入れた。



「なっ!?」

 あっという間に分解し、霧散するプリンセサ・デモニオ。

 呆然とする俺の目の前で、彼女は消滅した。

 さらに、

「申し訳ございません、ご主人さま」

 と言って、ワイズリエルは剣を自身の胸に押し込んだ。

 ワイズリエルはプリンセサ・デモニオを殺し、自らの命をも絶ったのだ。


「バカなッ!」

 俺は叫んだ。

 すばやく状況を理解し、目まぐるしく記憶をたぐった。

 深く思考した。

 そして、結論に達すると俺は激怒した。



「ワイズリエル、はかったなァ!!!!」



 俺は虚空を指さし、ワイズリエルを再び創った。

 虚空に出現した美少女……ワイズリエルをにらみつけた。


 ワイズリエルは、そのネコのようなつり目で俺を視た。

 可愛らしく首をかしげ、しかし即座に平伏した。

「ご主人さま、おゆるしくださいッ☆」

 俺が無言でいると、ワイズリエルは続けた。



「私は、世界が滅亡する前の記憶を持っていますッ☆ 今、蘇生そせいしてそれを確信しましたッ☆」

 俺は彼女を見下ろしたまま、呆然と立ちつくした。



――・――・――・――・――・――・――

■神となって28日目の創作活動■


 プリンセサ・デモニオを殺した。



 ……この件について俺は語る言葉をもたない。是非を判断するには多くの時間が必要だろう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ