27日目。モンスター三原則
「ご主人さまッ☆ モンスターについてなのですがッ☆」
と、ワイズリエルが沈痛な面持ちで言った。
その顔を視て俺は、これは話が長くなるなと思った。
みんなの飲み物を用意して、ソファーに深く腰掛けた。
「ご主人さまッ☆ 結論から申しますと、昨日搭載したランダム生成機能によって、モンスターたちが不穏な方向に進化しはじめましたッ☆」
「うむ」
「少々複雑なので、そこに至る経緯を順を追って説明しますッ☆」
「よろしく頼む」
「では、はじめにッ☆ ランダム生成機能を搭載するとき、私たちは以下の三原則をモンスターポッドに課しましたッ☆ 人間に大損害を与えるような進化をさせないためですッ☆」
俺たちが頷くと、ワイズリエルはコントローラを操作した。
すると、画面に以下の文言が表示された。
■――・――・――・――・――
モンスター三原則
第一条 モンスターは、人間に危害を加えてはならない。
第二条 モンスターは、神と天使の命令に服従しなければならない。
第三条 モンスターは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
■――・――・――・――・――
「おまえっ」
それ、『アイザック・アシモフのロボット工学三原則』のまるパクリじゃねえか――と、思わずツッコミを入れてしまった。
するとワイズリエルは誇らしげに胸を張った。
ぷるんと、その生意気なおっぱいを揺らしたのである。
「………………」
「さてッ☆ このモンスター三原則に従い、モンスターポッドは次々とモンスターを生成していきましたッ☆ 私たちは『早送り』しながらそれを見守っていました。それは当初は上手くいっていたのですッ☆」
「うむ」
「まず大前提として、モンスターは草食ですッ☆ ですが、棲息範囲をカバーするだけの個体数を保持するには、『痩せた土地』には食料が不足していますッ☆」
「その意図は分かるよ」
「ええ、食糧不足によって人間への接触をうながしていますッ☆ そうすることによって騎士団がモンスター排除にむかうのですッ☆」
しかしここで問題が生じました――と、ワイズリエルは眉を曇らせた。
俺とクーラは、つばを呑みこんだ。
ヨウジョラエルが可愛らしく、くしゃみをして、慌てて口をふさいだ。
「問題はふたつありますッ☆ ひとつは、モンスターに殺傷能力がないことが人間にバレましたッ☆」
俺たちは唖然として顔見合わせた。
ワイズリエルは感情を抑えて、冷然と言った。
「モンスターが安全だと分かると、人間はいたずらに乱暴しはじめましたッ☆」
「はァ」
「その結果、モンスターは人間を避けて行動するようになりましたッ☆ 食料運搬型モンスターを新たに生成し、西部と南南東の草原から食料を運ぶようになりましたッ☆ そうやって、集落から遠のいて棲息するようになったのですッ☆」
「それは困ったな」
というより、それではモンスターを配置する意味がない。
「ですから、人間がもっと嫌がる攻撃手段をモンスター与えましたッ☆ 具体的には、頭髪を溶かす粘液を飛ばしますッ☆」
「ああ、それは……」
「ええッ☆」
「面白がって攻撃したんだろ?」
「逆効果でしたッ☆」
「まったく」
情けないとは思うのだけど、でも、人間がそうやって遊ぶ気持ちもよく分かるのだ。
だって、そんなモンスターに遭遇したら、挑戦するしかないじゃんか。
そう。誰だってイタズラする。
俺だって、ちょっかいを出してしまう。
危なければ危ないほど、むしろ盛り上がってしまうと思うのだ。
いや。
なんというか、バカっぽくてほんと申し訳ないのだけれども。……。
「それで、ご主人さまッ☆ 問題はここからなのですッ☆」
「ああ、そういえば問題はふたつあると言ってたね」
「はいッ☆」
ワイズリエルは、可愛らしく腰に手をあてため息をついた。
俺たちは泣き笑いの表情で耳を傾けた。
「さてッ☆ 人間のモンスターへの攻撃は依然収まりませんッ☆ しかし、モンスターは『モンスター三原則』によって、人間に危害を加えることはできず、しかし、自己をまもらなければいけませんでしたッ☆ そこでモンスターは、さらなる進化をしたのですッ☆」
「その進化が問題なのだな?」
「はいッ☆」
ワイズリエルは、画面を切り替えた。
そこに新種のモンスターが大きく映しだされた。
「って、エロいお姉さんじゃねえか……」
「エロいお姉さんの肉体そっくりのモンスターですッ☆」
新種のモンスターは、女が磔になったような形状だった。
まるで大樹のような太くいきり立ったボディ――それが女体のかたちになっていた。
薄い膜の向こうから全裸の女性が浮き出ているような、そんなかたちをしていたのだ。
「これが、モンスターが出した結論か」
「人間に危害を加えず、自己を防衛する――そのための進化ですッ☆」
俺とワイズリエルは苦笑いをした。
クーラはずっと口をぱくぱくさせていたが、ここでようやく声をあげた。
「こんなものを視たら、こんなものを視たら……」
クーラは羞恥に顔を赤らめて、そして言った。
「男の人はそのッ……どっ、怒張してしまいますッ!」
思わず噴きだすと、それを抑えつけるようにクーラは叫んだ。
「こんなものを視たら、中学生は射精してしまいますッ!」
「いやっ」
「視ただけで射精してしまいますッ!」
「はァ……」
「それにこんなものを視たら、小学生が精通してしまいますッ!」
「えっ?」
「精通とは、男子が性的に成熟していく過程で生まれて初めて経験する射精のことですッ!」
それは知ってるけれど。
「視ただけで精通してしまうのですッ!」
「はァ……」
「淫らです! とても淫らですッ!!」
嗚呼、嘆かわしい――と、クーラはひとり泣き崩れた。
その姿を見て俺は、ワイズリエルが彼女にどんな性教育をほどこしたのかを想像していまい、思わず眉をひそめてしまった。
ただ、このときの俺はそんなことよりも、なぜ、クーラが小学生や中学生という言葉を知っているのか? ――そのことに気付くべきだった。
「あの、ご主人さまッ☆ 続きをよろしいでしょうか……」
「ああ」
俺は、クーラの背中をさすりながら頷いた。
クーラは半失神状態で、俺にもたれかかっていた。
「さてッ☆ モンスターの選択した進化……人間への対抗策は、それは『人間に愛されること』でしたッ☆ モンスターはそのボディを女体のような姿にしましたッ☆ 彼らは人間を誘惑したのです。愛玩植物となることによって、生き残る道を選んだのですッ☆」
「しかし、これは」
「ええッ☆ この愛くるしくも肉感的なボディは、化学的には巨大な植物なのですが、しかし、質感は女体そのものですッ☆ たちまち大人気になりましたッ☆」
「大人気というか……」
「はいッ☆ エッチな行為に及ぶ者もいます。というより、それがモンスターの狙いのようですッ☆ モンスターはエッチな行為の見返りに、人間から食料を得ています。人間の衣類を溶かし、麻や綿から栄養を吸収しているのですッ☆」
「なるほど」
しかし、今のところ問題はないような気もするが。
「たしかに、今のところ問題はありませんッ☆ 騎士団は忠実に職務をこなし、集落との関係も良好ですッ☆ しかし、教会と集落との対立はありませんが、もしかすると近い将来、男と女で争いが起こるかもしれませんッ☆」
「あっ、ああ……」
それは容易に想像がついた。
あんなエロボディが外をうろついていたら、夫婦生活に問題が生じてしまう。
奥さんがきっと不満を爆発させてしまう。
「……とりあえず、どうしようか?」
俺が泣き笑いの顔で訊くと、ワイズリエルは首をかしげた。
困りましたね――と、まるで俺が女体型モンスターにうつつを抜かしているかのように、じとっとした非難の目で言った。
そして数分にも数時間にも感じる、イヤぁな時間が過ぎて――。
「触ったら、ものすごく臭くなるようにしたら?」
と、俺は深い思慮もなく言った。
沈黙に堪えられなかったのである。
――・――・――・――・――・――・――
■神となって27日目の創作活動■
女体型モンスターに触ると、悪臭がこびりつくようにした。
……これでしばらく様子を視ることにした。ようするに、問題を先送りにしたのである。




