26日目。ランダム生成機能
今日は下着のほかにもいろいろと衣服を創ってみた。
ただし、ここでも俺は持ち前の面倒くさがりを発揮した。
下着の時と同じように、ランダム生成機能を導入したのである。
この、衣服の形状・サイズ・色彩・材質等をあらかじめ登録し、それをランダムに組み合わせて創るシステム――ランダム生成機能。これをワイズリエルたちは意外なほど喜んだ。
嬉々としてウォーク・イン・クローゼットに、何時間も入り浸ったのだ。
まあ、それは別にかまわないのだけれども。
「ご主人さまッ☆ ご主人さまッ☆ ご主人さまッ☆」
と、好みの服を見つけるたびに飛びついてくるのはどうかと思った。
しかも、不意打ちに仰け反った俺に、
「大好きですッ☆ 大好きですッ☆」
と、噛みつくようにキスをするのだ。
毎回、俺の首に腕をからませぶら下がり、喜びを全身で表現するのだ。
すげえ、ハイテンション。
あきれるほどのハイテンションである。
で。
何度目かのダイビング・キスのとき。
ワイズリエルは、そんな俺の呆れ顔にようやく気付いたのか、
「きゃはッ☆」
と、イタズラな笑みをして、じいぃーっと俺を真っ正面から見つめた。
「ご主人さまッ☆ キスは嫌いですかッ☆」
「いや、嫌いもなにも」
みんな見てるでしょう――と、ため息をつくように言うと、彼女は思いっきり抱きついて、俺の胸に顔をうずめた。
そして、顔をあげ上目遣いで言った。
「見てても好いじゃないですかッ☆」
「………………」
俺はこのワイズリエルの発情っぷりに、思わず眉をひそめ、泣き笑いの表情で顔をあげた。
すると、クーラとヨウジョラエルに思いっきり笑われた。
しかたがないわねえ――って感じで、まるでお母さんのようなため息をつかれた。
「ご主人さまッ☆ これは中世ヨーロッパ風の寝巻き、アーサー王物語に登場するイゾルデと同じデザインですッ☆ 彼女は『丈の長い肌着』――スブクラと呼ばれたチュニックのようなもの――を着て眠っていたと記述されていますッ☆」
ワイズリエルはウインクをして、くるくるとまわった。
そして、興奮して言った。
「北ゲルマン族の女性は、寝るときは裸ではなく『下着』、あるいは『丈の長い肌着』を着てましたッ☆ 男性も夜はたいていステテコのようなもの――裾が膝下まであるズボン下――で寝ていましたッ☆ 中世になっても、この習慣は変わりませんでしたッ☆」
「はァ、はい」
「ご主人さまッ☆」
「はい」
「大好きですッ☆」
「あっ、ありがとうございます」
なんだか照れくさくて、ぼそっと言ったら、噛みつくようにキスされた。
そして、吸いつくようにキスされた。
舌をも滑り込ませ、全身を投げ出すようにしてワイズリエルは抱きついてきた。
「ご主人さまッ☆ このランダム生成機能は素晴らしいですッ☆」
「はあ……ありがとうございます」
「もしご負担にならなければ、ぜひ、ほかのものにも使って欲しいのですッ☆」
「ん? 好いけど、たとえばどんなもの?」
「たとえば……。そうですねッ☆ モンスターの生成はいかがでしょうか?」
「「モンスタァー!?」」
思わず叫んだら、クーラも声をあげていた。
同時に、ふたりに口から名状しがたい叫びがもれたのだ。
「モンスターって下界の!?」
「はいッ☆ 現在、下界のモンスターは私とヨウジョラエルが管理していますッ☆ それで以前お話ししたとおり、モンスターに感情移入しないよう気をつけているのですが、それでも長期にわたるとどうしても情が移ってしまうと思うですッ☆ ……特に、モンスターを描いてデザインするヨウジョラエルは」
「あっ、そうか」
「今は大丈夫ですッ☆ ですが、今後も継続してモンスターをデザインするのであれば」
「分かった。さっそくモンスターポッドに改良を加えよう」
「ありがとうございますッ☆」
「やったあ~」
ヨウジョラエルが屈託のない笑みで飛びこんできた。
その笑顔を見て俺は、今まで気付かなかったけど結構負担をかけていたんだな――と、反省した。
だから、彼女たちを気遣って、
「ほかに何かあれば遠慮なく言ってよ」
と言ったのだけど、これは結論から言うと失敗だった。
三人から容赦のない要求が突きつけられたのだ。
「おにいちゃん、まいにち料理つくってえ~」
「あっ、ああ」
「ぽんって出しちゃダメだよ~?」
「えっ!?」
「お料理したのが大好きだよ~」
「あっ、はい」
「んーとっ。きょうはね、ハンバーグゥ」
「あ"」
思わずガムを踏んだような顔で、変な声を出してしまった。
なぜなら、ハンバーグなんか作ったことないからだ。
それに手間もかかりそうだし、材料もいっぱいある。
少なくとも、パスタより面倒なことは明らかである。
だいたい俺は料理をするけれど、得意ではないのだ。
「わかったあ~?」
「……はい」
俺が泣き笑いの顔で頭をかくと、ヨウジョラエルは満面の笑みで抱きついてきた。
「じゃあ、クーラちゃん。なんかある?」
「……あの。特にはないのですが……」
「遠慮なく言ってよ」
「……はい。……でしたら」
クーラは表情を微細に揺れ動かしながら、冷淡な瞳で、じっと見た。
そして、覚悟を決めたって感じで頷くと、澄んだ声で言った。
「あの……。これからは私のことを『クーラ』とお呼びください」
「へっ!?」
「あの、私だけ『クーラちゃん』です。ほかのみなさんは、ワイズリエル、ヨウジョラエルと呼び捨てです」
「あっ、ああ」
細かいことに好く気がつくな――と思ったけれど、この場合、気がつかない俺のほうが無神経だろう。
「わっ、分かった。じゃあ、クーラ。これからはクーラって呼ぶよ」
「ありがとうございます、カミサマさん」
「あ?」
「あの、カミサマという名前ではなかったですか?」
「ああ」
そういえばそうだった。
頭をかいて笑ったら、くすりと笑われた。
クーラは髪を耳にかけ、その切れ長の美しい目を伏せて、
「しかたがないですね……」
と、まるでお母さんのような、ため息をついた。
なんとなく和んでいたら、
「あとひとつは、ゆっくりと考えますね」
と、ちゃっかり『お願い』を予約されてしまった。
最後に――。
「ご主人さまッ☆」
と言って、ワイズリエルが表情を読みとるような瞳で俺を見た。
そして。
とりあえず形式上うかがいをたてるけれど――といった、そんな顔で、
「ご主人さまッ☆ お願いしても好いですかッ☆」
と彼女は訊いた。
俺は言葉を詰まらせ、しかし、ぎこちない笑みで頷いた。
なにかとんでもない要求をされると思ったからだ。
しかしワイズリエルは、そんな俺の様子にもかかわらず、本当に嬉しそうに両手を胸の前で合わせた。ちょっと不安感をおぼえた俺は、
「ひとつだけだぞ」
と、思わず釘をさした。
するとワイズリエルは、眉を歪ませ口をあけ、可愛らしい悲鳴で抗議した。
そして。
「……毎週エッチしてくださいッ☆」
と呟いて、それからつけ加えた。
「私たちを平等に可愛がってくださいねッ☆」
俺が動揺しながらも大きく頷くと、ワイズリエルとヨウジョラエルは、まるで太陽のような笑みをした。
クーラも一緒に微笑んでいたけれど、どういった意味で可愛がってくれとワイズリエルが言ったのかは、たぶん分かっていなかった。
――・――・――・――・――・――・――
■神となって26日目の創作活動■
モンスターポッドにランダム生成機能を搭載した。
……このことにより、モンスターの見た目と攻撃方法が豊富になった。もちろん、殺傷能力と知性を与えないというルールは今まで通りである。




