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24日目。聖バイン教会の一日

 クーラと暮らすようになって三日が経った。

 俺たちは彼女と過ごすことによって、聖バイン教会の騎士の生活習慣を知ることができた。


■――・――・――・――・――

聖バイン教会の騎士・クーラの一日


 1時~3時 第1定時課 祈祷

 3時~6時 第2定時課 祈祷

 6時~9時 剣の鍛錬

 9時~12時 第3定時課 祈祷

 12時~15時 第4定時課 祈祷(どこかのタイミングで昼食)

 15時~18時 剣の鍛錬

 18時~21時 第5定時課 祈祷(どこかのタイミングで晩飯)

 21時~1時 ■睡眠■


■――・――・――・――・――


 なぜ、ここまで詳しく知ることができたかというと、それはクーラが頑固だからにほかならない。

 クーラは礼儀正しく、お行儀も良く、まるで学級委員長のような真面目な娘だけれども、生活習慣を俺たちにあわせようとはしなかった。

 そう。クーラは食事の時間は俺たちにあわせるし、なにか頼みごとや用事があればそれを優先したけれど、逆に言うとそれ以外は上述のスケジュール通りに行動したのである。……。



 ちなみに、クーラが今まで暮らしていた聖バイン教会は、


  8月の一番暑いときでも気温は27度。

  日出は6時30分。日入は20時15分。


 と、東ヨーロッパに気候がよく似ている。

 だからというわけではないが、クーラは常に長袖とロングスカートといった感じで肌をまったく露出しなかった。

 というより、肌の露出に対してまるで免疫がなかった。

 自身の肌を見られることはもちろん、男の肌を見ることでさえ、彼女にとってはひどく恥ずかしいことだった。


 一度、風呂上がりに短パンとTシャツで歩いていたら、悲鳴を上げられた。


 まあ、そのことは謝るしかないのだけれど、

「おお、神よ。お許しください」

 と、天を仰いで十字を切るその姿には、失笑するしかなかった。

 ちなみに。

 許すよ、気にしないで――って言ったら思いっきりにらまれた。



 そんなクーラなのだけど。

 男に免疫がないのかといえば、そうとも思えなかった。

 教会生活では、まわりに男性がいなかったのです――とは言っていたけれど、俺には普通に話しかけてくるし接してくる。

 なぜか右隣が落ち着くようで、同じ部屋に居るときは、すうっと俺の右に寄ってくる。おそらく無意識だと思うが、ちょこんと肩に頭を乗せたりもする。

 ワイズリエルとの話に熱中しているときなど、俺の腕にぺたっとくっついていたりもする。


 それになにより、一緒のベッドで寝る。

 まあ、ベッドといっても六畳~八畳くらいのサイズだから、和室でザコ寝するようなものだ。

 それに俺にはヨウジョラエルがガシッとくっついて寝ているし、クーラは端のほうで眠ってる。クーラと俺の間にはワイズリエルがいるから、一緒のベッドで寝ているという感覚はあまりしないのだろう。

 クーラは四時間しか寝ないし。





 それにしても、この価値観というか常識のズレは困ったものだ。

 だから、そのことをワイズリエルに相談してみた。

 すると彼女は、桜の樹を見ながら、


「肌の露出だけ気をつけてくださいッ☆ 胸からひざのあいだは、見ても見せてもいけませんッ☆」

 と答えた。

 そして、クーラがいないことを確かめてから、以下の法律をたとえに出した。


■――・――・――・――・――

ランゴバルド法(8世紀)


 川で水浴びをしている婦人の服を持ち去った場合、その男は、


 ●婦人の一族から血の復讐を受ける

 ●生命贖罪金を支払う(夫や兄弟を殺した場合と同額)


 このいずれかの罰をうけなければならない。


■――・――・――・――・――


「クーラさまはこの法律と同じ感覚をお持ちですッ☆ すなわち、肌を露出させることは、親族殺害と同罪なのですッ☆」

「じゃあ、スカートめくりなんかしたら?」

「殺されますッ☆ というより、自殺しますよ。そして、彼女の一族から復讐されますッ☆」

「うわあ」

 俺は全身から嫌な汗が噴きだした。

 そのままぎこちない笑みで硬直していると、ワイズリエルは、


「男性が太ももを女性に見せることですら重罪ですッ☆ クーラさまはきっと、ご主人さまの短パン姿を見たことを、とても苦しまれていると思いますッ☆」

 と言って、スケベな笑みをした。

 するっと俺の太ももを撫でて、きゃっと飛び退いた。



「ちなみに。私は太ももも、スカートめくりも大歓迎ですよッ☆」

 と、ワイズリエルはおどけて言った。

 そして背を向け、俺を誘うようにお尻を振った。


 そのぱつんぱつんのタイトなスカートと、ぷりっとしたお尻に、俺は思わずつばを呑みこんだ。そういえばクーラが来てから、ワイズリエルは気をつかってかミニスカやラフな服装をしていない。それに挑発的な態度もみせなかったのだ。


「しかしスケベな体をしてるよな……」

 久しぶりにマジマジと視たワイズリエルのエロボディ。

 俺はもう一度つばを呑みこんで、夢中でしがみついた。

 ワイズリエルは驚いて、普段とはまるで違う声を出した。

 その声がどうにもなまめかしくて、俺は思考力を奪われた。


 ワイズリエルは、ものすごく嬉しそうな声をあげ、スケベな笑みをして、するりと逃れた。体をくねらせ、誘うように寝室へと逃げたのだ。

 追いかけると、そこにクーラがやってきた。

 というより、曲がり角から顔を出した。

 バッタリ正面衝突した。




「あぶない」

「きゃっ」

 クーラはその場に立ちすくんだ。

 ワイズリエルは身をかがめて、すり抜けた。

 そして俺は思わず手を出した。

 結果、クーラの胸にタッチしたかたちになった。


「あっ、ごめんっ」

「いえっ」

 クーラは、びくんとして目を閉じ、しかしその場に立ちすくんだままだった。

 俺は走ってきた勢いを止めるのに精一杯で、おっぱいを触ったままだった。

 華奢きゃしゃなクーラのそのフラットな胸に、俺は手を添えたままでいたのである。

 そして、しばらくすると。

 ようやく実感が沸いたクーラは、頬を染め、くやしそうに上目遣うわめづかいで俺を視て、



「いけませんっ」

 と、泣き出しそうな声で言った。

 胸に触れる俺の手を握り、


「いけません。妊娠にんしんしてしまいます」

 と、ぎゅっと目を閉じ、顔を背けて言った。

 あまりのことに呆然としていると、クーラは、


「こんなことをしたら妊娠してしまいますッ!」

 と、念を押すように言った。

 そう言い捨てて走り去ったのだ。

 ……。



 俺とワイズリエルは、しばし呆然と立ちつくしていた。

 しばらくして俺はようやく、ワイズリエルに言った。


「クーラちゃんに性教育を、お願いできるかな?」

 するとワイズリエルは、かしこまりました――と、スケベな笑みをした。



――・――・――・――・――・――・――

■神となって24日目の創作活動■


 聖バイン教会の暮らしを知った。



 ……十二世紀頃の修道院の暮らしに似ているらしい。




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