表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/128

22日目。聖人

 昨晩は、ヨウジョラエルと一緒に寝た。

 クーラのことはワイズリエルにまかせた。

 似たような年頃で、しかも女同士だから話しやすいだろう――との判断からだったのだが、実はヨウジョラエルが心配だったのだ。


 ヨウジョラエルは、昨日起きたことをよく理解していなかった。

 ただ、よくは理解していなかったけれど、なんとなく自分のせいでなにか悪いことが起こったような――そんな雰囲気は敏感に感じとっていた。

 だから俺は、「大丈夫だよ、キミのせいじゃないんだよ」と、やさしく抱きしめた。ただ何も言わず、ずっと彼女のそばに居たのである。


 実際問題。

 よく理解していないのは、彼女だけではなかった。

 神である俺や、人類の英知の結晶――20XX年のインターネット――にアクセスできるワイズリエルですら、事態をまるで理解できていない。

 ちなみに、一番理解できていないのは、当事者のクーラである。……。



「おはようございますご主人さまッ☆」

「ああ、ワイズリエル。おはよう」

「おはようございます」

「ああ、クーラちゃん。おはよう」

 俺がかるく手をあげると、クーラはその切れ長の美しい瞳を、すうっと細めて、ぎこちなく微笑んだ。

 その世間ズレしていない笑顔と清楚せいそな雰囲気に、俺は思わずドキっとした。


「ご主人さまッ☆ クーラさまには、とりあえず死んでいることを理解してもらいました。それと、ここで暮らすための必要最小限の知識をお伝えしておりますッ☆」

「なるほど」

「あの。……しばらくお世話になります」

 クーラは、ぐいっと頭を下げた。

 俺はやわらかく微笑んで、

「ゆっくり。ゆっくりでいい。ゆっくり理解していこう」

 と言った。

 自分たちに言い聞かせるように、言ったのだ。




「さて。昨日はバタバタしてたから、とりあえずの処置をほどこしたんだけど」

 俺はそう言って、テレビに世界を映した。



挿絵(By みてみん)



「モンスターの棲息せいそく範囲をピンクのエリアに限定した。もちろん、これはコントローラで変更・操作できる」

「さすがです、ご主人さまッ☆」

「この操作は、以後、ヨウジョラエルとワイズリエルにまかせる」

「おにいちゃん?」

「よろしく頼む」

 強く言うと、ヨウジョラエルは屈託のない笑みをした。


「それで、集落なんだけど……。あの謎の光で、モンスターが綺麗サッパリなくなっちゃったんだよ。で、とりあえずクーラちゃんの遺体だけ持ち帰ったんだけど、どうするかは後で相談しようか」

「……えっ、ええ」

 クーラは懸命に動揺を隠して頷いた。

 無理もない。

 自分の遺体をどうするか――など聞かれても、動揺するしかないだろう。



「それで今日の本題なんだけど」

 と言ったら、ワイズリエルが、するどく画面を指さした。

「それでご主人さまッ☆ なんですか、この『秘密基地』というのは?」

 思わず眉をゆがめると、全員に笑われた。


「この秘密基地っていうのは、まあ、別荘みたいなもんだよ。豚肉を塩漬けするためにさ、山奥に小屋を創ったんだよ」

「ふうんッ☆」

「ふ~ん?」

 ワイズリエルとヨウジョラエルに、思いっきりスケベな笑みで見られた。

 俺は頭をかきながら話をもとに戻した。




「で。今日の本題なんだけど、ええっと、『クーラちゃんの聖人化を防ぎたい』。このことについてワイズリエル、知恵を貸して欲しい」

「分かりました、ご主人さまッ☆」


「現在、アダムの集落には、ふたりの聖人が祭られている。ひとりはアダム、もうひとりはバインだ。俺は昨日のことから、クーラちゃんが聖人に認定されるのではと思ってる」

「なんで、おねえちゃんがセージンになっちゃダメなの~?」



「それはクーラちゃんの最期……本人を目の前にして最期というのも変だけど、とにかくその最期が問題なのだ。もし、クーラちゃんが聖人となった場合、その最期にあこがれて、なにかにつけ自殺する者が現れるだろう。少なくとも、自己犠牲をよしとする気分が生まれてしまうのだ」

「それは望ましくないのですねッ☆」


「そうだ。殉教じゅんきょう――信仰する宗教のために自らの命をささげること――のような行為を俺は好まない。少なくとも『神(俺)のため』という理由で自殺なんかしてほしくない」

「くっ」

 クーラが顔色を変えた。

 俺は気付かないフリをした。

 この問題は、後でゆっくりと話し合っていくべきだと思ったからだ。

 今は、ほかに優先すべきことがあると思ったのだ。





「ワイズリエル。聖人化を防ぐ策をさずけてくれないか?」

「分かりましたッ☆」

 ワイズリエルは、すうっと目を細めた。

 そしてゆっくりと話しはじめた。


「まず、アダマヒアにある宗教は、キリスト教をベースとした、ご主人さまを敬うオリジナル宗教ですッ☆ なぜならそれは、ご主人さまがアダムとイブに『中世ヨーロッパの価値観と一般常識』を授けたからですッ☆」

「その通りだ」



「では、キリスト教における『聖人認定』はどのようにして、おこなわれるのかッ☆ それは、まずはじめに聖人としてふさわしい人柄・生涯だったのかが判断されます。そして対象者が、死後、ふたつの奇跡を起こせば合格ですッ☆ 聖人として認定されるのですッ☆」

「対象者が死んだ後で、ふたつの奇跡を起こす?」


「はいッ☆ なにか不可思議な現象が起こり、その原因が対象者だと思われれば、それが奇跡と判定されますッ☆」

「思ったもん勝ちだな」

「はいッ☆」

「まいったな」

 俺とワイズリエルは、同時にため息をついた。



「ご主人さまッ☆ そもそも『聖人』とは、生存中に『神の教え』を完璧に実行した人物のことですッ☆ そして、聖人を認める行為は3~4世紀が起源とされますが、現在のアダマヒアの『聖人認定』は、その時代の気分に非常に近しいですッ☆」

「ようするに、クーラちゃんはどうなんだ?」


「このままでは確実に、聖人認定されますッ☆」

「集落には、『クーラちゃんを聖人認定したい』という気分が充満しているわけだな?」

「その通りですッ☆」

「なるほど分かった。で、その対処法は?」

 俺は結論を急いだ。

 みんながワイズリエルに注目した。

 するとワイズリエルは、



「クーラさまを、源義経みなもとのよしつねにしてしまいましょうッ☆」

 と言った。俺たちはいっせいに眉をひそめた。



――・――・――・――・――・――・――

■神となって22日目の創作活動■


 モンスターを再配置した。

 秘密基地を創った。



 ……豚肉の塩漬けを作るために、地上に秘密基地を創った。『早送り』をすれば、いつでも手軽に熟成肉を味わうことができる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ