20日目。超個体モンスター
今日は、今まで準備してきたものを、一気に実装することにした。
俺たちはソファーに座り、大型テレビで集落を観た。
視点を引いて、今までよりも広い範囲を映したのである。
「ご主人さまッ☆ 今回の目的は『教会を武装集団化し、集落長の管理下におくこと』です。そのために、まずモンスターを配置しますッ☆」
そう言ってワイズリエルは、画面を指差した。
俺が頷くと、今度はヨウジョラエルが言った。
「おにいちゃん、これ~」
ヨウジョラエルは、モンスターのイラストを何枚か広げた。
俺はそれを見て頷いた。
すると、ワイズリエルが言った。
「巨大なイソギンチャクのようなものや、ねばねばした粘液状のものなど、感情移入できない姿にしましたッ☆ 特徴は、草ならなんでも食べるというシンプルなもの。ああ、あと洋服を溶かす液を飛ばしたりもしますが、人体に影響はありませんッ☆」
「そこはかとなくエロいな」
「きゃはッ☆ 人は殺さないけど、迷惑な生き物――というコンセプトですッ☆ これを集落の近辺に配置します」
「それで教会の武装化をうながすわけか」
「はいッ☆」
ワイズリエルは得意げに胸をはった。
ヨウジョラエルもマネして胸をはったけど、しかし胸はぷるんとしなかった。
「それでご主人さまッ☆ これを機に、西からの塩商人を撤去してはいかがでしょうか?」
「なるほど。塩鉱山があるからもう必要ないよな」
「はいッ☆ そして、南からの商人も『モンスターを警戒して』との名目で武装させるのですッ☆」
「集落に武器を売るわけか」
「もたらすのですッ☆」
「そして教会を武装させる」
「させるのですッ☆」
そう言ってワイズリエルは上目遣いで俺を見た。
だから俺は、あとは任せるよ――と、彼女に一任した。
「ありがとうございますッ☆ それでお願いがあるのですが……」
「ん? 遠慮なく言ってよ」
そう言って眉を上げると、ワイズリエルとヨウジョラエルは目と目をあわせた。
そしてゆっくり頷くと、俺を見て言った。
「私たちがモンスターに感情移入しないために、ゲームコントローラーのようなものを作って欲しいのですッ☆」
「ん? それを操作して、さっき言った指示をするってこと?」
「はいッ☆ ゲーム感覚で指示を出したいのです。そうすることによってモンスターと距離をとり、感情移入しないようにするのですッ☆ そうやって非情な判断を下したいのですッ☆」
「なるほど分かった」
とは言ったものの、俺はイラストを見て首をかしげた。
この、男根から触手がたくさん生えたモンスター。
こんなもんに感情移入できるのかな――と、思ってしまったのだ。
「まあ好いか」
俺は、ワイズリエルの要望通りコントローラーを創った。
そしてモンスターを創造し、それをコントローラーで操作できるようにした。
ついでに商人たちへの指示と、テレビに映す範囲も操作できるようにした。
もちろん早送り機能もつけた。
そう。
まさにゲーム感覚で世界に干渉できるようにしたわけだ。――
その後、俺はぷらりと散歩した。
後のことはふたりに任せ、パンチェッタでも仕込むかと材料集めに勤しんだのだ。
「まあ、俺がいると、やりにくいだろ」
などと、これでも気を遣ってみたのである。
で。
パンチェッタ作りが一段落したころ。
どうにも暇をもてあましてしまったので、ちらっとリビングを覗いてみた。
すると、ワイズリエルと目があった。
彼女は、くすりと笑い、
「ご主人さま、お願いがあるのですッ☆」
と俺を手招きした。
テレビを視ると、そこには清楚な童女がひざまずいていた。
「ご主人さまッ☆ 彼女はアイスの孫です。今、洗礼を受けるところですッ☆」
「アイスの孫が洗礼を?」
「クーラと言いますッ☆ そして今、彼女は聖バイン騎士団の一員となりましたッ☆」
「へっ!?」
思わず変な声をあげてしまった。
その後で、ようやく状況を理解した。
「この子が、聖バイン騎士団に入った――ということはつまり、教会の武装集団化に成功したわけだな?」
「はいッ☆ まだ村の自警団といった感じで小規模ですがッ☆」
「それでもすごい」
「ありがとうございます」
俺とワイズリエルは満ち足りた笑みをした。
するとヨウジョラエルがコントローラーを持ったまま顔をあげた。
「わたしもほめてえ~」
頭を撫でると、ヨウジョラエルはまるで赤ちゃんのような笑みをした。
俺たちはしあわせなため息をもらし、剣を授かるクーラを見た。
アイスの孫娘クーラは、さらさらの青い髪をしていた。
凛とした、まるで美少年のような眉に、切れ長の瞳。
すらりとした華奢な体で、クーラは背筋を伸ばしていた。
「ご主人さまッ☆ 次のステップに移りたいのですが」
「どうしたい?」
「モンスターの量を増やしますッ☆ そして、それらのモンスターで――もちろん集落を滅ぼさない程度の強さです――ゆるやかに集落を囲みますッ☆ この作業を半自動化したいのですッ☆」
「大まかには了解した。詳しく聞こう」
「モンスターポッドという、モンスター自動生成装置を下界に設置したいのですッ☆ そこからモンスターは生まれ、そして、そこからすべてのモンスターに命令が発信されるのですッ☆」
「ワイズリエルたちは、そのモンスターポッドに指示を出すわけか。なるほど、良い考えだ」
「ありがとうございますッ☆」
「ふふっ。まるでアリやハチのようだな」
「その通りですッ☆ アリやハチは社会的な生物、集団がまるで一匹の生物のようにふるまいます。ええ、彼らは一匹一匹に自由意志があるのかあやしい生物なのですッ☆」
「なるほど。今回の件にぴったりだな」
「はいッ☆ 彼らのような集団を『超個体』と呼ぶそうですよッ☆」
なるほど。
これならモンスターに感情移入することもないだろう。
なにしろ個別に意志を持たない生物なのだから。……。
「それで、ご主人さまッ☆」
「どこにモンスターポッドを設置するか――だろう?」
「はいッ☆」
「じゃあ、いっせいに指差してみる?」
おどけて言うと、ワイズリエルは、にやりと笑った。
そして、大きく息を吐いて、俺たちは同時に指差した。
「やっぱり!」
「きゃはッ☆ やっぱりここですよねッ☆」
俺たちは、南西を指差していた。
「そうそう。モンスター・集落・教会という並びを作るんだ。そうしないと、教会と集落がいずれ反目しあう」
「はいッ☆ モンスター・教会・集落では、教会が前線基地になってしまいますッ☆ いざという時に切り離され、見捨てられてしまいます。……もちろん、そのようなことは起こらないですけど」
「見捨てられるんじゃないか――という不信感がくすぶってしまう」
「だからこの配置なのですッ☆」
「それに騎士が日頃から集落のなかを歩いていれば、感謝の気持ちも忘れないだろう。まあ、村人にとって騎士が身近な存在となれば、争いも起こらないよ」
「さすがです、ご主人さまッ☆」
「あのクーラちゃんも人気者になりそうだしな。あの子がアイドル騎士になれば、当面の問題はない。もうこれで進めちゃって大丈夫だろ」
「はいッ☆ もしなにか問題が起こりそうなときは、すぐお伝えしますッ☆」
俺たちは満面の笑みで、モンスターポッドを設置した。
――・――・――・――・――・――・――
■神となって20日目の創作活動■
モンスターポッドを設置した。
それにともない塩商人を廃止、香辛料商人を武装させ武器商人とした。
……ここにきて世界創造がいっきに進んだ。ワイズリエルにまかせて正解だった。




