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19日目。体位

 明朝。

 薄明かりのベッドで、俺はワイズリエルに、

「ゆるーく創世するつもりだったんだけど」

 と相談した。

 すると彼女は、おまかせください――と言った。

 俺が抱き寄せるとワイズリエルは、やがて、


「その代わり、エッチしてくださいッ☆」

 とつぶやき、俺の表情を視てからつけ加えた。


「私の指示の通りにッ☆」

「……」

 俺は常日頃から、このワイズリエルの、すぐに見返りを要求するところ、そして要求をどんどん追加していくところは、彼女の唯一の欠点だと思っていた。

 しかし、欠点を持っているからこそ気楽に接していられるとも思っていた。


 だいたい、完全無欠なヤツと一緒に居たら――息が詰まる。


 そう思うからこそ、俺はワイズリエルのような人物を求めたし、実際問題、気に入っていた。



 ただし。

 見た目は――。

 たしかに彼女の見た目は、俺の好みからは少しズレている。

 しかし、俺の好みとズレているというだけで、世間一般からすれば、ワイズリエルは、すべての男が恋に落ち、すべての女が嫉妬する――といった感じのパーフェクトな美少女だ。


 ネコみたいに大きな瞳、バチッとしたアイドルのような小顔。

 小柄な彼女のお尻だけはやや肉厚で、ぷにっとしたスケベな身体をしている。

 さらには生意気なおっぱいが、つんと上を向いている。

 まさに、男を悦ばせるだけのために存在するかのようなエロボディ。

 それがすばしっこく動き、愛くるしく笑う。

 ……少し好みとズレているといったけど、パーフェクトすぎて物怖ものおじしていただけである。今、気付いてしまった。



「ご主人さまッ☆ ご主人さまッ☆ ご主人さまッ☆」

 ワイズリエルは、俺の手を取りベッドに誘導した。

 知識を口にした。


「ご主人さまッ☆ 後背位は古代ギリシャでもっともポピュラーな体位だったそうですッ☆」

 そう言って俺を導いた。

 ひと通りたのしんだあと、俺を仰向けにした。


「古代ローマでは女性上位……騎乗位が定番だったそうですよッ☆」

 イタズラな目で俺を見下ろした。

 そして俺を引き起こし、頬をぴたっとつけて囁いた。


「古代インド文明といえば座位、大聖歓喜天のイラストは座位で描かれることが多いですッ☆」

 そう言って、しばらくののち、だらりと弛緩しかんし仰向けになった。


「おおいかぶさってください。上半身をかぶせ、突き刺し、全体重を乗せて運動してくださいッ☆」

 言われるようにすると、そののち、ワイズリエルはこう言った。



「そのまま続けてッ☆ これはいわゆる正常位。ですが、大航海時代に宣教師が世界中で推奨すいしょうしたせいもあって『宣教師の体位』と呼ばれましたッ☆ ヨーロッパ諸国に定着させたから次は――ということで世界中に広めまわったのですッ☆」

「………………」


「中世ヨーロッパでは、この正常位が教会オススメの体位でしたッ☆ 以前お話ししたとおり、当時のキリスト教会は男性が女性を支配することを望んでいましたッ☆ この体位はそのような観点から推奨されていたのですッ☆」

「………………」


「女性に体重を乗せ、自由を奪い、屈服させるうえに、男性は『余計な』体力をつかわないッ☆ 思想の時代的限界を考えれば、あまり責める気にはなりませんが、それでも酷い言われようですッ☆」

 そう言ってワイズリエルは。

 そして、やがて満足した。――





「ご主人さまッ☆」

 ワイズリエルはうっとりとした瞳で、俺の頬をさすった。

 俺が頭を撫でると、彼女は言った。


「大らかにッ☆ 大らかにしていてください。これからは、些細なことなど私とヨウジョラエルにお任せくださいッ☆」

「あっ、ああ……」

「私の愛読書にこんなことが書いてありますッ☆」


■――・――・――・――・――


 大老土井大炊頭はそういう人物であった。

 こんな話がある。

 大炊頭のところへ、はじめて老職を命ぜられた人が来て、大体の心得をきいた。これに対して大炊頭は、「なに、丸い棒で四角な器をかきまわすようにしておられればよろしい」といった。老職ともあれば、あまり小事に拘泥こうでいするな、と教えたのである。

《引用:忍びの卍 山田風太郎》


■――・――・――・――・――


「俺に、土井大炊頭のようになれ――と、言うのか? いや、老職の心得から、神としての立ち振る舞いを学べ――と、言うのか?」


「いえッ☆ ご主人さまは神でございますッ☆ 老職はおろか、土井大炊頭などとはとても比べものにならない重責を担っておりますッ☆ ですから、マネしても学んでも役に立ちません。ですがひとつだけ、学べることがございますッ☆」


「……老職ですら『あまり小事に拘泥こうでいするな』という立場なのだ。いわんや神をや――で、あるか」

「で、ございます☆ ご主人さまはもっと上を見ていてください。私が、ご主人さまの『土井大炊頭』になるのですよッ☆」

 そう言ってワイズリエルは、くすりと笑った。


 俺は頷き、モンスターの件をワイズリエルに一任した。

 ワイズリエルとヨウジョラエルは、嬉々としてモンスターの制作にとりかかった。

 俺は、最後にそれを見て、ただ創造するだけ――という立場をとったのだ。





 その夜。

 ベッドに入ると、するするとワイズリエルが身を寄せてきた。

 そして俺の顔色をうかがいながら、怯えながらも思い切って言った。


「ご主人さまッ☆ 私は今日、『土井大炊頭』になると言いました。愛読書もお伝えしましたッ☆ そのことによって、私がどのように振る舞っているのかをお伝えしたのですッ☆」

 と、ワイズリエルはここまで一気に言って、さらに、こう保険をかけた。



「一週間後、いえ、ご主人さまが神となって二十八日目に起こることですがッ☆ そのことは、けっして怒らないでくださいねッ☆」



――・――・――・――・――・――・――

■神となって19日目の創作活動■


 小事はワイズリエルにまかせることにした。



 ……『忍びの卍』に登場する土井大炊頭は、ラストで戦慄の種明かしをカマして、読者だけでなく主人公をも驚倒させた。……。なにやらイヤな予感がしたけれど、まあ悪い娘じゃないからと、結局、俺は好きにやらせることにした。




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