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17日目。アーサー王物語(下)

「それでは後半戦はじめますッ☆」

 と言って、ワイズリエルがやってきた。

 タイトなミニスカにブラウス、エロメガネ。

 指示棒しじぼうを持った女教師スタイルだ。

 その姿を見て俺は、ああ、飽きちゃったんだな――と、苦笑いした。



「さて、ご主人さまッ☆ 昨日は『アーサー王物語』が聖職者モンマスによって改変されたところまでお話しましたッ☆」

「そこからエンターテインメント作品として羽ばたくと、言っていたな」

「はいッ☆」

 ワイズリエルは指示棒しじぼうを伸ばし、誘うようにお尻を振った。



「モンマスの『ブリタニア列王伝』(1136年)は、その後、詩人ワースによって『ブリュ物語』(1155年頃)という小説になりますッ☆ そして、ここではじめて『円卓の騎士』という優れた創作システムが登場するのですッ☆」

「創作システム?」


「『ブリュ物語』はヨーロッパ各国の宮廷で大ヒット、多くのファンを生みましたッ☆ そして熱心なファンは、『ブリュ物語』(=『アーサー王物語』)に刺激をうけ、次々と騎士道物語を創作するのですッ☆ ランスロット、パーシヴァル、トリスタンとイゾルデ等々……」

「?」


「そんなファンたちが創作したオリジナル騎士は、『円卓の騎士』として『アーサー王物語』に迎え入れられましたッ☆ 『実力さえあれば国籍を問わずどんな騎士でも迎え入れる』という円卓システムが、ファンの創作したオリジナル騎士を本編に取り入れはじめたのですッ☆」

「本編!?」


「きゃはッ☆ もうこうなってしまっては『アーサー王物語』を歴史書だと思う人は誰も居ませんッ☆ 二次創作の祭典、スーパーロボット大戦、初音ミクのような創作祭り――架空のオリジナル騎士が次々と『アーサー王物語』に集結してしまったのですッ☆」

「うーむ」

 俺は深くソファーに沈み込み、情報を整理した。

 ひと息つくと、ワイズリエルは話を再開した。




「この聖職者モンマスと詩人ワースによる『アーサー王物語』のエンターテインメント作品化ッ☆ 仮に『アーサー王物語②1136年版』時代としますが、そこからさらに作品が飛躍するのは1470年の『アーサー王の死』によってですッ☆ ですがこの間に、キリスト教会が作品に影響をあたえるのですッ☆」

「キリスト教の影響をうけるのか……」


「この頃のヨーロッパはいわゆる中世盛期。十字軍により西欧が拡大、教皇権が世俗王権と争う時代ですッ☆」

「ああ」


「『アーサー王物語』に『聖杯探求』シナリオが加えられたのはこの時代ですッ☆ それに、女性キャラが性悪になり、しかもキャラがブレはじめるのもこの頃。なぜなら既存の女性キャラに『男尊女卑』思想を後乗せしたからですッ☆」

「男尊女卑か……」



「これらを追加したのは、ローマ・カトリック教会の修道士たちだと言われていますッ☆」

「はァ」

「十二世紀にはじまった『異端審問』が、本格的に『魔女』を裁くようになったのは十五世紀に入ってから――とのことですから、この『アーサー王物語』に手を加えた修道士たちと『魔女狩り』は関係ありませんッ☆ が、しかし。同一視されてもしかたがないタイミングですッ☆」

「そういう時代だったもんな」

「キリスト教にとっても中世盛期は暗黒時代、まさに黒歴史ですッ☆」

「たしかに」

 この時代だけで俺を評価してくれるなよ――って感じだ。

 魅力的な面も、もちろんあるのだけれども。



「『アーサー王物語』はこの時代、キリスト教の良い面だけでなく、暗黒面も吸収してしまいますッ☆ そして後世、それのデトックスに成功するのですッ☆」

「なるほど」

 その方法を俺は学べばいいのか。





「さてッ☆ 1470年『アーサー物語』は、トマス・マロリーによって集大成されます。『アーサー王の死』の完成ですッ☆」

「1470年か」


「中世後期、ルネサンスの時代ですねッ☆ ちなみに現在楽しめる『アーサー王物語』関連の作品は、この『アーサー王の死』を原作としていることが多いですッ☆ それほど影響力が大きく、また傑作だったのですッ☆」

「なるほど」


「この作品は基本的には、モンマスのイギリス王室ルーツ路線をブラッシュアップさせたもの。ですが、時代背景がモンマスの頃とは違いますッ☆」

「モンマスの時代は十字軍、マロリーの時代はルネサンス」


「はいッ☆ ではここでもう一度、アーサー王が誰と戦っていたのかを記しますッ☆」



 ■アーサー王物語 ①民間伝承

 主人公:アーサー王(アルトリウス将軍) 仲間:ローマ化したケルト人

 敵対勢力:侵入してくる蛮族


 ■アーサー王物語 ②モンマス ③マロリー

 主人公:アーサー王(イギリス王室の祖先) 仲間:北欧ノルマン族

 敵対勢力:侵略者ユリウス・カエサル、ローマ皇帝



「ここで問題となるのは、マロリーの時代、ルネサンスとは『古代ギリシア・ローマの文化を復興しよう』という時代だということッ☆ つまりマロリーや読者は乱暴にまとめると、ローマびいき。ですが、『アーサー王物語②③』の敵対勢力はローマなのですッ☆」

「しかも、大元となる『アーサー王物語①』の主人公はローマ側だ」


「さらにマロリーらキリスト教圏が長年戦ってきた敵対勢力、十字軍の宿敵『イスラム教諸国』は、これも乱暴にまとめますが『古代ローマの文化』を保護していましたッ☆ 彼らは、敵国文化を長期間保護するという理知的で紳士的な勢力だったのですッ☆」

「ああ……」



「はいッ☆ マロリーの時代にはもう、悪いヤツをぶっ殺す、悪魔から解放する――なんて単純な話ではなくなってしまったのですッ☆」

「価値観がひっくり返った時代だったんだな」

「振り上げたコブシをどこに落としてよいのか分からなくなった時代ですッ☆」

 俺たちは沈痛な面持ちでため息をついた。



「というわけで、マロリー版『アーサー王物語』はロマンスに注力していますッ☆ とても美しくて悲しいお話、感動するシーンがいっぱいですッ☆ タイトルとなった『アーサー王の死』のシーンをはじめッ☆」

「なるほど。しかし、それは分かったが」


「はいッ☆ ご主人さまの求める答え、ですよね?」

「うん」

 そういう話だったはずだ。





「『アーサー王物語』が吸収してしまったキリスト教の暗黒面。それがデトックスされたのは、二〇世紀になってからッ☆ ハリウッドのミュージカルや映画をはじめとしたエンターテインメント業界が、多くの人々に楽しめるようにと『アーサー王物語』を毒抜きしたのですッ☆」

「その方法は?」

 思わず前のめりになると、ワイズリエルはくすりと笑った。

 そして、空気を読んだのだろう。

 結論だけ言った。



「『円卓の騎士たち』の信仰描写を弱め、忠誠心を強調しますッ☆ そして『アメリカ海兵隊』のような武力集団――頼れるアニキとして描写したのですッ☆」

 俺が呆然としていると、ワイズリエルは言った。


「宇宙からの侵略者があれば、『アメリカ海兵隊』ほど頼れる集団はいません。思う存分、彼らの活躍を応援できますッ☆ 最高のエンターテインメントなのですッ☆」

 とおどけて、それからつけ加えた。



「ドラゴンやモンスター討伐に熱中させることッ☆ それが『円卓の騎士たち』すなわち『教会勢力』から毒を抜き去る方法ですッ☆」



――・――・――・――・――・――・――

■神となって17日目の創作活動■


 ワイズリエルによる『アーサー王物語』の講義終了。



 ……ワイズリエルの提案した解決策を、じっくりと理解しているところだ。




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