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16日目。アーサー王物語(上)

「ご主人さまッ☆」

 と言って、ワイズリエルがいきなり飛びついてきた。

 俺が眉を上げると、彼女は言った。



「私はあれから、ご主人さまが教会に恐れていることがなにかを考えましたッ☆ それは、教会が集落を相手に戦争することですッ☆」

「その通りだ」

 俺は大きく頷いた。


 俺はアダムの子らが殺し合うことを好まない。

 というより、なんとしても阻止したいのだ。


「ご主人さまッ☆ でしたらやはり、『アーサー王物語』が最適ですッ☆」

 そう言って、ワイズリエルはバチッとウインクをキメた。

 俺が頷くと彼女は言った。



「アーサー王はなにと戦っているのか? 結論から言うと、それがご主人さまの求める答えですッ☆」

 俺は彼女の講義に耳を傾けた。





「さてッ☆ 以前ざっとお話しましたが『アーサー王物語』は、中世前期が舞台ですッ☆ それが中世盛期にまとめられ、さらに中世後期にロマンスになりますッ☆」

「俺が知っている『アーサー王物語』は、中世盛期と後期の文化・価値観で脚色されたファンタジーな世界――そういう話だったよな?」



「はいッ☆ それでは、まず『アーサー王物語』がどんなストーリーなのか、ざっくりとお話ししますッ☆」

「うむ」



「六世紀初め、アーサーはイギリスに生まれましたッ☆ 彼はまず、エクスカリバーを岩から引き抜くことで王の血筋であることを示しますッ☆ その後、彼は魔術師マーリンや騎士ランスロットらとともに、イギリスを統一平定しますッ☆ さらには異民族の侵略者たちを撃退、キャメロットを作りますッ☆ しかし後に王国は崩壊し、アーサーはモルドレッドと刺し違えて生涯を終えますッ☆」


 これが『アーサー王物語』のあらすじです――と、ワイズリエルは言った。

 俺は大きく頷いた。


「では、このアーサーなる人物は実在するのか? 結論から言うとそれはNOですッ☆ しかし、モデルとなった人物はいました。ケルト人のリーダー・アルトリウス将軍ですッ☆」

「アルトリウス将軍……」


「もちろん諸説ありますが、そもそも『アーサー王物語』は民間伝承を編さんしたもの、今となっては正解など導き出せませんッ☆ それに、ご主人さまの求める答えからも話が逸れるので、ここではこれ以上言及しませんッ☆」

「うん。ざっくりいこう」



「ではッ☆ いきなり重要なところに切りこみます。このアルトリウス将軍……すなわちこの時代のアーサーは、誰と戦っていたのか? それは以下の通りですッ☆」


 ■アーサー王物語①

 主人公:アーサー王(アルトリウス将軍) 仲間:ローマ化したケルト人

 敵対勢力:侵入してくる蛮族



「アーサーはこの蛮族を撃退し、30年は平和をもたらしました」

「イギリスを統一平定したような状態だったんだな」

「はいッ☆ モルドレッドと討ち死にしたカムランの戦いは、539年に起きたとされますッ☆ そしてアーサーの死後、ケルト人は侵略者に追いやられるのです」


「それが民間に伝わっていた『アーサー王物語』なのだな?」

「はいッ☆ ちなみにケルト人がなぜローマ化しているかというと、直前までローマ帝国がイギリス南部を支配していたからですッ☆ というより、衰退したローマ帝国がイギリスから撤退することによって、蛮族の侵入がはじまったのですッ☆」


「そこに残って頑張ったのが、アルトリウス将軍だったのか」

「まさに英雄、ヒーローなのですッ☆」

 俺たちは、うっとりため息をついた。

 たしかにこれは熱い話、後世まで語り継がれるだろう。





「ですが、ここからの改変が『アーサー王物語』の『アーサー王物語』たるゆえん。ここからの改変がなければ、末永く愛される物語になっていなかった――とも言えますッ☆」

「よし聞こう」


「この民間伝承の『アーサー王物語』。仮に『アーサー王物語①539年版』と呼びますが、これを改変し世に広めたのが、王宮に仕える聖職者ジェフリー・オブ・モンマスですッ☆ 」

「聖職者モンマス……」


「モンマスは1136年、『ブリタニア列王伝』を執筆しましたッ☆ これを仮に『アーサー王物語②1136年版』としましょうかッ☆」

「うん。……で、どんな改変だったんだ?」

 俺が訊くと、ワイズリエルはイタズラな笑みをした。

 可愛らしくウインクをキメて、そして言った。



「モンマスが執筆した目的は、ただひとつ。それはイギリス王の偉大さを称えること。間接的に、彼が仕える王宮の権威付けになるからですッ☆ ですから『アーサー王物語』は、このように改変されたのですッ☆」


 ■アーサー王物語②

 主人公:アーサー王(イギリス王室の祖先) 仲間:北欧ノルマン族

 敵対勢力:侵略者ユリウス・カエサル、ローマ皇帝



「いやいや、ちょっと待ってくれよ」

「きゃはッ☆ みごとにひっくり返ってますッ☆」

 ふたりとも思わず声に笑いがまじった。


「ちなみにイギリス王室……モンマスが仕えるプランタジネット王朝は、北欧系ノルマン族。アーサー王物語①では敵対勢力ですッ☆」

「あはは」

「笑っちゃいますけど、この時代の歴史書はどれも似たようなもの。いわゆる時代的限界ですッ☆」

「まあ、『古事記』や『日本書紀』もそうだというよな」

「はいッ☆」

 俺たちはひとしきり笑うと、姿勢を正した。

 時代的限界――という言葉の重みをかみしめ、先人に敬意を表したのだ。



「さてッ☆ この『アーサー王物語②1136年版』は、当時の政治的背景も反映しています。当時のイギリスは、ローマ・カトリック教会と敵対してました。そして、フランスに対して領土的野心を抱いていましたッ☆ だからというわけでは、いえ、だからというわけ――だと思うのですが、アーサー王は作中でローマやフランスを征服していますッ☆」

「なるほど。……しかし、笑わずに聞くのが大変だな」

「はいッ☆ ですが、笑いながら聞いていと思いますッ☆」

 そう前置きしてから、ワイズリエルは言った。


「ここから『アーサー王物語』は、エンターテインメント作品として羽ばたくからですッ☆」


 俺は、しばらく声もなかった。

 やがて口から名状しがたい叫びがもれた。

 その様子にワイズリエルは満ち足りたため息をついた。

 そして言った。



「続きはWEBでッ☆ じゃなくて明日にしますッ☆」



――・――・――・――・――・――・――

■神となって16日目の創作活動■


 ワイズリエルによる『アーサー王物語』の講義を受講した。



 ……どうせ途中で飽きると思っていたけれど、思わずのめり込んでしまった。




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