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13日目。痩せた土地

 神となって十三日目。

 俺は『アダムの集落』を観ていた。



挿絵(By みてみん)


「浮かない顔をしてますね、ご主人さまッ☆」

「ああ、ワイズリエル。ちょっと相談に乗って欲しいんだけど」

 そう言って眉を上げると、ワイズリエルは、こくんと頷いた。

 俺は要点を整理しながら話しはじめた。


「世界創造のことなんだけど。まず大前提として、俺はこの『アダムの集落』を出発点にしたいんだ。俺はこの集落をリセットすることなく、ここから発展・拡張させていくつもりだ」

「すばらしい覚悟ですッ☆」


「そして『アダムの集落』は出発点であり拠点でもあるんだ。俺はアダムの子らに、この地から移動して欲しくないんだよ。……まあ、アダムには散々手を焼いたんだけど」

「きゃはッ☆」


「というわけで、俺はアダムの死後この土地に細工をした。それが集落の南部に広がる『痩せた土地』だ」

「画面に映ってないところも、ずっと『痩せた土地』ですねッ☆」


「そう。このことにより、アダムの子らは南下が困難となった。なぜならアダムとイブのころとは違い、集落の人数が増えたからだ。人数が増えれば自然と移動は遅くなる。それに痩せた土地で食料を確保しながら進むこと自体が困難なのだ」

「ははあッ☆」

「ここまでは良い」

 と言って、俺は画面を指差した。



「問題はこの黒いモノ。集落の北にかかる橋なのだ」



 ワイズリエルは、大きくつばを呑みこんだ。

 可愛らしく首をかしげ、目まぐるしく計算をはじめた。

 やがて彼女は頷いて、そして言った。


「ご主人さまッ☆ 『アダムの集落』は現在どのようになっているのですか?」

「それは人数のことか?」

「それも知りたいですが、どのような構成になっているのか知りたいですッ☆」

「分かった」

 俺は頷き、ゆっくりと言った。



「イブの死後。俺はアダムのもとに、三人の子供を送った。バイン・アイス・セーラの三人だ。それが今では二〇歳前後になっている」

「バインとアイスは男、セーラは女の子ですかッ☆」

「その通り」

「結婚はしているのですかッ☆」

「それがしていない」

 俺はため息をついた。

 ワイズリエルは眉を絞った。

 俺は彼女にかるく頷き、説明を続けた。


「アダムの死後。俺は成人した彼らのもとに、数人の男女を向かわせた。何回かに分けて、旅人の姿をした男女を集落に送ったのだ。彼らは今、集落に暮らしているよ」

「その男女は、バイン・アイス・セーラの花嫁・花婿候補だったのですねッ☆」

「その通り。しかし彼らは結婚しなかった」

「もう二〇歳だというのにッ☆」

「ああ」

 俺たちは同時に肩をすぼめた。



「なあ、ワイズリエル。たしか中世ヨーロッパの価値観では、裕福な家庭では十二歳、貧しい農村でも十七歳未満という年齢で、女性は結婚するのだろう?」

「はいッ☆ 男性の場合は、領主などの富裕層は二〇代後半で結婚、それ以外は十代後半で結婚するのが一般的ですッ☆」


「バインたちが結婚しない理由は、だいたい想像がつく。そしてその問題に、俺は首を突っ込むつもりはない。彼らが解決する問題だからだ。俺は彼らの出した結論に従うつもりだし、どう転ぼうと世界をリセットしたりはしない」

「素晴らしいですッ☆」



「しかし、前もって手は打っておきたい」

「この橋のことですかッ☆」

「ああ。このままでは北に移り住む者と、南に残る者とに別れてしまう」

「バイン・アイス・セーラの三人がッ☆」

 俺とワイズリエルは同時にため息をついた。


挿絵(By みてみん)



「俺は、豚肉を購入したり、世界を『早送り』して塩豚を熟成させているときに、集落の様子をうかがっていた」

「案外、抜け目ないですねッ☆」

「ふふっ」

 俺が村の様子を話すと、ワイズリエルは嬉々としてそれをメモした。

 以下がそのメモ書きである。


■――・――・――・――・――

アダムの集落のキーパーソン


■バイン:アダムに第一子として育てられる

 強烈なリーダーシップをもつ保守派。

 神への信仰を第一とするアダム路線を引き継ぐ。


■アイス:アダムに第二子として育てられる

 発想とひらめきに定評のある革新派。

 様々な発明品で生活を豊かにしている。


■セーラ:アダムに第三子として育てられる

 みなのしあわせだけを願う聖女。

 人望の厚いノンポリで、集落の発展には無関心。


■――・――・――・――・――


「意見が割れるのはいい。仲違いするのもかまわない。しかし、それは同じ集落に暮らしてこそだ」

「ご主人さまッ☆ この橋はたしかに懸念材料です」


「俺は彼らの家族愛を信じる。アダムとともに集落を大きくしたあの三人の子らを俺は信じている。事実、あの三人は主義主張は違うけど、とても仲が良いのだ」

「……ご主人さま」

「そう。それでも俺は、前もって手を打っておきたいんだよ」

 俺は自嘲気味に笑った。

 ワイズリエルは母性に満ちた笑みで、俺の手を握った。

 そして策を述べた。



「ご主人さまッ☆ まず、はじめに謝ります。私にはベストかつパーフェクトな策は思いつきませんでした」

「次善策を頼む」


「ふたつありますッ☆ ひとつは、橋より北の土地を『痩せた土地』にしてしまうこと。このことにより、北に移り住もうとする者たちを断念させます。しかし、それでも移り住んでしまった場合、川の利権をめぐってすぐに争いが起こる……可能性がありますッ☆」

「もうひとつは?」



「『痩せた土地』にするところまでは同じです。それにプラスして北東に『塩鉱山』を創るというのが、もうひとつの策ですッ☆」

「それは……」

「はいッ☆ これだと短期的には争いは起こりません。しかしそのことは、集落がふたつに分かれてしまうこと、別れた状態で安定してしまうことを意味しますッ☆」


「しかも、中長期的な目でみれば、争いが起こる可能性がある」

「起こらないかもしれませんッ☆ ですが、争いが起こったときには、南北に歴然とした力の差ができていますッ☆」

「一方的な殺戮さつりくになるような――力の差」

「もしそうなってしまうと、話し合いでは解決できませんッ☆」

「なるほど」

 俺は深くため息をついた。

 ワイズリエルは、かしこまって頭を下げた。

 そのままの姿勢で俺の決断を待っている。

 俺はゆっくりと状況を理解し、そして結論した。



「痩せた土地と塩鉱山を創ろう」

 あとはバインらの家族愛を信じ、俺たちは見守ることにした。


挿絵(By みてみん)



――・――・――・――・――・――・――

■神となって13日目の創作活動■


 川の北側に、痩せた土地と塩鉱山を創った。



 ……俺は神としてどのような距離感で彼らに接して良いのか、いまだ答えが出せていない。




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